第1話

文字数 569文字

 花の恋人は誰にでもいるんじゃないかしら?
 その人はすぐ近くにいるのかも知れない。
 
 二軒隣の花屋が私の勤め先だった。
 給料も悪くなく。
 今まで不平を言ったこともない。

 ただ、お客もあまり来ないのに給料がいいのは何故かしら? と、いつも考えていた。
 その日は久し振りにお客が来た。
 その人は白髪の老人だった。
「この店はとても良い。お客が一人だけで来てもお茶を淹れてくれるし、落ち着いていつも綺麗な花が見れるんだ」
 そう言っていた。
 確かにそうだ。
 店長が数の少ないお客へと、紅茶のサービスをしているんだ。
 ハイビスカスの香り漂う美味しい紅茶。
 勿論、冬にはシナモンの香りの紅茶を淹れる。
 お客は皆、満足している。
 とっても控えめだけど、私の小さな幸せだ。
 
 花にも色々あるように、人にも色々とある。
 花の恋人は意外と近くにいるんじゃないかしら?
 
 今日は仕事は休みの日。
 いい天気。
 洗濯物を干したら二軒隣のお店へと歩いた。
 日差しの弱い日で、花屋はどこかしら凛々しく見える。
 店内は花の香りがいっぱいに充満していた。
 今日もお客は一人か二人。
 店長はいつもキリッとした顔でレジから離れない。
 そんな店長が好きだった。

 花の恋人はすぐ近くにいるんじゃないかしら?






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み