森に住む魔女【後編】

文字数 947文字

それからも村人たちは困った事があると魔女のもとを訪ねました。



「ばぁさんのリューマチが酷いんじゃが…?」

「畑を荒らす猪をなんとかしてほしい…」

「愛しのあの方に振り向いてほしい…」



そうやって村人たちが相談事を持ちかける度に、魔女は憎まれ口を叩きながら相談に乗ってやりました。



魔女は本当は嬉しかったのです。



人と話す事が…

そして何より人の役に立てる事が…



こうして魔女と村人たちとの奇妙な交流が続きました。



そんなある日…
魔女の噂を聞き付けた教会の神父が村にやって来ました。

神父は言いました。



「村人たちよ…騙されてはいけません!! 魔女は巧みに人心を操るもの… おおかた堤防を補強しろと命じたのも自作自演の猿芝居… 大雨を降らせたのも魔女自身の仕業に間違いありません!!



「そうだったのか!?

疑う事を知らない村人たちは、皆神父の言う事が真実だと思い始めます。



そして村人たちは魔女を家から引きずり出すと、村の広場に磔(はりつけ)にしました。



「悪い魔女め!! もう騙されないぞ!!

村人たちは口々に魔女に対する悪態をつき、石を投げました。
石を投げた者の中には、魔女のところに相談に行った者もたくさんいました。



すると魔女の前に小さな女の子が立ちました。
最初に魔女が助けた女の子でした。



「みんなどうかしてるよ!? あんなに助けてもらったのにもう忘れちゃったの!?

女の子は必死にうったえますが誰も耳を貸そうとはしません。

それを見かねた魔女が、女の子にだけ聞こえるような声で言いました。



「ありがとう…お前さんは優しいねぇ… でももう良いんだよ… それよりも今から私が言う事を良くお聞き… 七日後に村の外の丘に登るんだ… わかったかい?」



魔女はそれだけを言い残すと火あぶりにされて死にました…



そして七日後…
女の子は両親と一緒に村の外の丘に登りました。



すると突然大雨が降り始め、みるみる間に川の水かさが増してゆきました。

川は補強した堤防を越えて溢れ出し、ついには村全部を飲み込みました。



雨が止んだ後、村があった場所には何も残っていませんでした…

人も家も…全て洪水で流されてしまったのです…



助かったのは女の子とその両親だけでした…



家族はかつて魔女が住んでいた家の横に魔女の墓を作り、供養を欠かしませんでした…



(おしまい)
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