第1話

文字数 1,819文字

イツキは、2024年の正月も、コンビニで仕事をしないといけなくなった。
 いや、今年で、もう40代後半になった。
 この年齢で、コンビニでアルバイトとはきついものもあった。
 いや、本当は、寂しい時もある。
 確かに、イツキは、ここのコンビニのユニフォームを着て、色んなものを売っている。
 お菓子に、唐揚げに、アルコールを売っている。
「いらっしゃいませ」
 とイツキは、挨拶をする。
 いつも来ている男性客が来た。
 見たら、40代後半になっているのだろうか?
 顔は、少し男前だ。
 芸能人で言えば佐藤健に似ているのだが、少し髪の毛が、白くなっている。
 そして、この40代後半の男性客は、常連客になっている。
「すみません」
「はい」
「からあげクンを一つ」
「はい」
「お手拭きはいりますか?」
「はい」
 と言った。
 イツキは、この客を観て、いつも辛子明太子のおにぎりを買っている。
「全部で、410円になります」
 と言った。
「paypayで」
「はい」
 と言って、イツキは、カードをかざした。
 そして、イツキは、この時、いつも思う。
 毎日のように辛子明太子のおにぎりとからあげクンを買っている。
 この人は、中性脂肪とかコレステロールが高くなっていないのか?余計な心配があった。
 イツキだって、40代後半になっている。
 しかし、この男性客は、どうだろうか?
 余計な心配をしている。
 そして、お金を払って帰って行った。
 誰もいない店内には、もう一人の同僚、フミカが、いた。
 フミカは、奥の部屋で、何か食べている。
 そして、もう一人の同僚、ユウイチも、忙しそうに、清涼飲料水のコーナーで、整理をしている。
 だが、と思った。
 次から次へ客が来る。
 前のパーキングを見たら、正月の飾りをしたクルマが止まった。
 クルマは、レクサスだった。
 停車して、男と女が、二人、こっちに来た。
 店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 とイツキは、言った。
 男は、スキンヘッドをして、サングラスをかけている。
 女は、着物姿になっている。
 顔を見たら、女優の稲森いずみに似ている。
 顔を見たら怖いので、観てみないふりをする。
 男は、派手な金色のネックレスをして、腕っぷしは強いと思う。
 稲森いずみに似ている彼女は、そのまま、サンドイッチを買っている。ヒレカツサンドだ。
 男は、イツキのところへ来て、こう言った。
「マイルドセブン一つ」
「はい」
 と言った。
 いや、人を見かけで判断してはいけないと思った。
 そして、顔とは裏腹に優しい言い方をしている。
「全部で700円になります」
「ローソンのアプリで払います」
 と言った。
 イツキは、そのまますっとスマホをバーコードリーダーにかざした。
 男の客は
「兄ちゃん」
「はい」
「あけましておめでとう」
 と言った。
 奥の部屋から出てきたフミカは、少し、笑っていた。
 ドキドキしていたイツキだが
「はい、あけましておめでとうございます」
 とつい言った。
 イツキは、何事もなく、済んだと思った。
 イツキは、こう見えても、40代後半になっているが、週末だけ、小説教室に通っている。
 いつも「小説家になりたい」
 とか思っているが、なれない。
 だが、小説教室で、30歳の沙織が、いた。
 そう、今の女性客を見たら、沙織を思い出した。
 沙織だって、稲森いずみに似ているのだから。
 最近、小説を書いているが、行き詰まっている。
 ここで、そう思った。
 フミカは、イツキにこう言った。
「1時になったから、少し、休憩をしたらどうですか?」
 と言った。
「うん」
 と言った。
 そうだ、休憩時間中に、スマホで、沙織に誘ってみよう。
 正月の初詣に、川崎大師へ行かないか?と思った。
 そして、奥の部屋に入って、イツキは、沙織にLINEで電話した。
「もしもし、沙織?」
「何?イツキ?正月だから、挨拶くらいしたらどう?」
「あけましておめでとうございます」
「うん、あけましておめでとうございます」
「それで、何?」
「今日さ、これから、バイトが終わったら、川崎大師まで行かない?初詣に?」
「いやだ」
「どうして?」
「人が多いから」
 当たり前だけど、人が多いか。
 参拝客が多いかと思った。
「それに、私」
「うん」
「年越しに、友達のリカちゃんと明治神宮へ初詣に行ってきたよ」
「そうか」
「そうよ」
「もう良い」
 とイツキは、言った。
 しかし、LINEで「もう良い」と言った時、沙織は、少し、憮然としていた感じだった。
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