第5話 名人の敗北

文字数 1,904文字

○東京都内の警察官舎、コロンジャッタの自宅 日曜日の午前
MHKのTV将棋トーナメントを楽しむコロンジャッタ。
(TVの音)さあっ、今日はいよいよ羽目名人対綿飴龍王による決勝戦です...
将棋ファンには、堪らん一戦だな。日本の伝統を感じるな。
食い入るようにTV画面に釘付けになるコロンジャッタ。
(TV読み上げ)先手、羽目名人5六角打つ。

(TV解説)おーっ、夢の名角ですね。これで羽目名人が勝勢になりましたね。

“名人の スミにおけない 角使い”

なんてな。

川柳で、一人ボケするコロンジャッタ。
(鬼嫁)アンタっ、何ぶつぶつ言ってるの?たまには、お便所掃除してって、言ったわよね?
あとでやるよ。将棋観戦が終わった後。
(TV読み上げ)...10.9.8.7....以上、127手をもちまして、羽目名人の勝ち。

(TV解説)中盤に放った名人の5六角、そして終盤に入ってからは、綿飴龍王の玉を守る金を一つ一つ剥がしたのが勝因...

プロの将棋は、綺麗だ。それ一局自体がアートだな。
...zzzzz....(携帯着信音)
事件発生、都内○○にて遺体発見...コロンジャッタ警部は、至急現場に急行して下さい。
かあちゃん、チョット行ってくる。
また、隣の田中さんと錦糸町?若いお姉さん達が鼓笛隊の格好してお酒の相手する所ね、馬鹿じゃないでしょうね。
あいにくと仕事なんだよ。
出動の準備をするコロンジャッタ。
○都内の世田谷区、将棋の元名人.小山九段の自宅
パトカーから降りるコロンジャッタ。
ファンファンファン(サイレンの音)
警視庁捜査一課の刑事コロンジャッタだ。皆、ご苦労様。
懐から、警察手帳を取り出して明示するコロンジャッタ。
世田谷署の者です。遺体現場は、既にwarning tape にて規制保存して、第一発見者は既に別室にて身柄を確保してあります。
遺体を確認するコロンジャッタ。
こりゃー酷い。滅多刺しだね。

おーい、いるかな。御手洗くーん。

駆け付ける助手の御手洗。
は、はいっ。遺体の被害者は、将棋の元名人、小山雄太郎氏。第一発見者は、その女弟子の可愛菜々緒女流名人です。小山氏は全身を刃物で滅多刺しにあっての大量出血で死亡、可愛菜々緒は血塗れの包丁をもって立ちすくんでいました。死亡推定時刻は午前十時前後です。
まず、菜々緒さんの話を聴いてみようかな。
別室に一人向かうコロンジャッタ。
コン、コン、コン(ノックの音)
入りますよ。
はっ、どうぞ。
警視庁捜査一課の刑事コロンジャッタです。
警察手帳を取り出して明示するコロンジャッタ。
もう投了ね。
小山さんは、あなたの師匠でしょう。それがなぜあんなことに?
ワタシは、中学校二年生の時に先生の内弟子になったんですが、あれはワタシが高校に進学して十七歳の春の事でした。
ほうっ、十七歳の春。青春真っ盛りですな。
先生は、指導対局中にワタシの背後に回って、ワタシの手を取り駒を動かし始めたんです。
それは、師匠として珍しくもないことなんじゃありませんかね。
それから先生の手がワタシの膨らみかけた乳房に...気がついたら唇を奪われていた。
師弟の一線を超えたと。
ワタシ、その時先生が初めての男性だったんです。
先生に処女を捧げた、それは貴方にとって高い指導料だった?
ワタシ、名人の先生に憧れていたから、その時はそんなに後悔はしていなかった。
ほうっ、そんなもんですかな。

では、どうして?

それからは、指導対局の度にワタシは先生に抱かれました。「これも指導の一環だ」って、先生が言うから。
そういうのを手取り足取りって、言うんですかね。
わたし、このまま先生との爛れた関係を続けてはいけないと思っていたんですが、二十九歳の誕生日に女流名人のタイトルを獲ることができたので、先生に別れ話を切り出したんです。
ふーっ、それで。
そしたら、先生ったら別れる気ならおまえのこれまでの恥ずかしい写真をマスコミにリークするって脅してきたんです。
名人にしては、陳腐な王手だな。
ワタシ、あたまに血が上って、そのまま台所から出刃包丁を持ってきて先生のお腹を何回も....うっう
もういいですよ。全部わかりました。
二人、部屋を出て小山邸の玄関前に来たコロンジャッタと菜々緒。
刑事さん、ワタシ将棋の盤面ではトップになれたけど、人生には失敗してしまった。

でも、こんな、ワタシでもやり直す機会が与えられるかしら?

勿論だ。キミはシンは強い人だよ。

さっ、御手洗くん。

可愛さんっ、どうぞ。
パトカーに菜々緒を誘う御手洗。
ファンファンファン(遠ざかるサイレン)
パトカーを見送るコロンジャッタと御手洗。
警部っ、今回に限っては変な徹夜の事情聴取がなかった。
まだ陽が高いからな。
えっ?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色