Rabbits(脚本)

文字数 12,999文字

『Rabbits』      浅野エミイ

登場人物
〇伊月(女・十三)主人公
〇小唄(女・十一)小学生。最近ツイッターを始めた。
〇あすか(男・十七)バンドを組んでいる。乗せられやすいタイプ。
〇みずほ(女・十四)エセ関西弁。
チャットするときはキャラ作りをしている。
〇はるき(女・十三)声だけの出演
〇笠野市郎(男・四十五)尻丸出しネコミミアナウンサー


【企画意図】
 テレビドラマ、映画が撮れなくなっている。
また、テレビの枠が空き始めた。俳優も食べられなくなる。
 それを防ぐためにシナリオを書きました。
 年齢、性別変更可能。シナリオ変更可能。
 ネット小説で一気に書いたのでサイトは脱字あり。
 ターゲット年齢層は十四歳女子。

















〇笠野市郎の部屋(朝)

 猫耳の笠野市郎(四十五)がパソコンのカメラのスイッチを入れる。
猫耳、上半身スーツ、下半身パンツ一丁姿。
原稿を持つと、パソコン前に座る。
 笠野、咳払い。

笠野「本日のニュースです。いよいよネコミミウイルスが日本の成人たちを飲み込みました。ネコミミウイルスは通勤電車に乗っていた大人に感染していき、最初は風邪のような症状が出ておりましたが、普通の風邪と違うのは……」

 自分の猫耳を指さす。

笠野「熱が出ると同時に、ネコミミが生えるということです。そして悪化すると最後には猫になってしまう、というこの病気。政府は『動物は物』という民法に乗っ取ってネコミミウイルスに感染し、猫になってしまった三十歳以上の大人の殺処分を決定。私も時間の問題かと思われます。繰り返しますが、子どもの皆さんを隔離し、大人は施設へ。子どもの未来を守るためです。繰り返します。大人は施設へ」
 
 笠野、泣きそうな声で

笠野「これがリモート民放最後のニュースになりそうです。以上、笠野市郎でした」

 笠野、パソコンのカメラを切る。

〇伊月の部屋(朝)

 スマホのカメラに伊月が映る。
 スマホから笠野の声が聞こえる。

笠野の声「大人は施設へ。子どもの未来を守るためです。繰り返します……」

伊月M「お父さんとお母さんは施設に送られた。私はひとりだ。私以外の子どもたちも、ずっと」

 スマホから通知音。
 Twitter画面。

T『@Haruki_Sun_Shine @itsuk_starlight 次は伊月の番だよ。ウサギの絵を描いてツイートしてね! #ウサギリレー』

伊月「はるきからだ。ウサギリレー? 何、ウサギリレーって」

 スマホ画面、うさぎらしき物体の殴り書き。

伊月「朝っぱらからなんなんだよ……名指しで指名してくるとか……嫌がらせかよ」

スマホを置くと、六畳一間の部屋のキッチンにあるポットからマグカップにお湯を注ぐ。
インスタントの味噌汁を飲む伊月。
飲み終わると、スマホを持って布団に入る。

伊月「私は二度寝で忙しいんだよ……」

〇伊月の部屋(夜)

ウサギさんの声「じゃっじゃーん! 起きてセニョリータ! いつまで寝てんの? 夜だよ~」

 伊月、スマホからの音でがばりと起きる。

〇ウサギさんの動画

 背景は暗く、ウサギの着ぐるみが映っている。

ウサギさん「ウシャシャ、起きた? セニョリータ。『VSウサギさんちゃんねる』だよ~! 君はウサギリレーに指名されたのに、参加しなかった……そんな悪い子セニョリータは、罰として『ウサギさんゲーム』に参加してもらいまーす!」

 ウサギさんの動画の半分に伊月の部屋が映っている。コラボ生配信中。

伊月(画面半分)「『ウサギさんゲーム』? っていうかこれ、生配信だよね?」

 生配信中のマーク。視聴者は0。
 伊月、視聴者数を確認する。

伊月「よかった……」
ウサギさん「何がよかったの? ゲームはこれからだよ! ルールは簡単。僕が手をパパンパパン!って叩いた後、『だ~れが殺した♪』って歌うから、そのあとに続くワードを答えてね。それじゃ、行くよ!」
伊月「え? えぇっ? ちょっと待って!」

 SE 手を二回叩く音。

ウサギさん「だ~れが殺した?」

 伊月、パニックで

伊月「わかんないよ!」
ウサギさん「不正解~! っていうか、問題放棄? セニョリータには罰が当たりまーす。では、アディオス!」

ザーッと砂嵐に変わり、配信終了。

〇伊月の部屋(夜)

伊月「一体何だったの? わけわかんない」

〇伊月の部屋(朝)

 起きる伊月(うさみみがはえているが頭は映さない)。
 スマホをスタンドに立てて、キッチンのポットでお湯を入れる。インスタント味噌を作る。
 カップを持ってスマホ前に戻ると、テレビ電話がかかってくる。
表示は『はるき』。

伊月「はるき?」

 通話ボタンを押すが、はるきの姿はない。背景のみ。
 伊月の顔だけ映っている状態。うさみみがはえている。 

はるき(声のみ)「うっわ、マジで生えてるよ、うさ耳!」
 
 SE スクショ音

はるき「よし。これもみんなに拡散しよっと」
 
 電話が切れる。
自分の顔だけ映っている状況のスマホ。
はえたうさ耳を触る伊月。

伊月「え? え? 何これ! 加工?」

 伊月、スマホをスタンドに立てて鏡をみる。
 うさ耳。

伊月「え? 何これ、どういうこと?」

 伊月、青ざめながらスマホを持ち、はるきにLINEする。

伊月T「どういうこと? 説明して!」
はるきT「知らない。バトンを回す人がいないぼっちの末路でしょ」
 
伊月「バトン?」

 伊月、Twitterアプリを開き、「うさぎ バトン」で検索する。
Twitterで出てくる『うさぎさんリレー』の詳細。

T(Twitter画面)「うさぎさんリレーって流行ってるんだって」

T@nekousagiinu「ウサギの絵を描いてツイート #ウサギリレー」
  ハッシュタグをタッチするとたくさんのうさぎのイラスト。
  中に『#ウサギリレー #拡散希望 #罰ゲーム』というのがある。
  罰ゲームをタッチすると、最新欄にうさ耳伊月のスクショがある。はるきの裏アカウント。

T@haruki_sun_shinenai『恐怖! ウサギリレーに詰まったぼっちの末路www #拡散希望』
T@usamimigakkai『RTうわ、すげぇうさみみ似合ってねぇブス!』
T@bocchinaritakuneeeee『RTこいつがぼっちか……』
T@suzunyanchou『RT あ、こいつ同じ中学! 詳しくは身バレするから言えないけどw』
伊月「ひどい……」

 伊月、耳を触りながら

伊月「でも、なんでうさ耳? ねこみみウイルスが変異したとか……」

 伊月、Twitterでうさみみウイルスと検索するも出てこない。

伊月「接触感染も何も隔離されてるし……まさか」

 伊月、スマホを投げ捨てる。
 SE アナログ時計の音

 一度投げ捨てたスマホを拾い上げ、Twitter検索する伊月。
とりあえず『#うさ耳』で検索してみるが
変な風俗系アカウントかアイドルのコスプ
レしか出てこない。
 伊月、しばらく考えて、『#拡散希望』と入力。
すると政府に対する不平不満や、ネコミミウイルスに罹った医療従事者の悲痛な叫びなどがヒットした。
 いくつかのツイートを流し見て、止める。
 うさ耳のあすか(十七)の写真を見つける。

T@MHG_FAN_ree『こいつもうさ耳になったwwwww』
 

他にも何人かうさ耳になっている子どもの写真を発見する。

伊月「ウサギリレーのバトンを渡せなかったぼっちがうさ耳になる……」

 ゴクリと唾をのむ伊月。
 うつむいて、スマホを伏せる。
 しばらくしてスマホをスタンドに置き、パ
ソコンを起動させる。(パソコンのカメラ)
 Twitterを開き、裏アカウントを開
くと、アカウント名を変える。

伊月「名前は……ウサギさん被害者でいいかな」

 アカウント名は「ウサギさん被害者@usagi_higaisya」。
 さっそくツイートする。

T@usagi_higaisya『ウサミミになってしまった人、一緒に治す方法を考えましょう! DMください』

伊月「これでいいかな……あとは情報がない」

 伊月、「うさ耳 ウイルス」で今度はネット検索をする。
 すると笠野のYoutube動画がある。

伊月「笠野アナ?」

 伊月、早速タップする。

〇笠野アナの部屋(昼・動画)

T「恐怖? ウサミミウイルスとは!」
笠野「ウサミミウイルスという新型のウイルスがSNS上で若者に流行っておりますが……なんとこれは悪質ないたずら。画像加工ソフトで撮った写真なんです。みなさんはウサミミウイルスなんて嘘話に騙されないでくださいね。以上緊急動画でした」

 うさ耳を触る伊月。

伊月M「これは……政府の情報操作だ」

 ピロリンとリプライやDMが送られてくる
音が聞こえる。
 スマホを見る伊月。

T@hourengekyou『デマ乙』

T@uringe_uringo『動画見たぞ。嘘だって。こんな時期にデマ情報を流すなよ!』

 溜息をつく伊月。
 顔を伏せるが、もう一度スマホを見る。
 画面をスクロールする伊月。
 『助けて』という文字が見えて止める。
Tみずほ@mizu『信じてもらえないかもしれないけど、あたしもうさ耳になっています。ウサギリレーに参加しました』
T小唄@koutautauta『私もウサ耳になってしまい 
ました。どうすればいいの?』
Tあすか★FlyHigh@Asuka_Fly_high『男なのにうさ耳はきつい……助けてください』

伊月「よし」
 
 パソコン画面。3人のDMにSkypeのアカウントを張り付ける。

伊月M『私のSkypeに連絡ください。ビデオ通話でうさ耳が本当に生えたかチェックさせてください』
 Skypeを起動してすぐ、パソコン画面(四分割)に次々と人が映し出される。
 右上・伊月、右下・みずほ左上・小唄、左下・あすか。
 みずほはツインテール量産系女子。あすかはマスク。小唄と伊月は素顔。みんなうさ耳がついている。

伊月「えーと、初めまして」
あすか「(怒り口調)ほら、耳ついてるだろ」
小唄「(泣きそうな声で)嘘ついてませんよ」
みずほ「なんで確かめたかったん? あんたもやん」
伊月「私はみんなに協力してもらおうと思って」

〇ビデオ通話画面(昼)
 
 あすかの部屋は暗い。カーテンが閉まっている。
あすか「協力って?」
伊月「うさ耳を消すために何とかならないかなって」
みずほの部屋はぬいぐるみが多い。
みずほ「消すって……ネコミミウイルスだって蔓延しとるのに、消せるわけないやん」
あすか「……何、そのエセ関西弁」
みずほ「(気まずそうに)……住んでるところバレとうないんや」
小唄「(伊月に)うさ耳って消せるんですか?」
伊月「わからない……。でも、今みんな、外出してないでしょ? ベランダとか出てます?」

 全員無言。

あすか「空気感染かもしれない」
伊月「それだったら大人も罹ってる」
みずほ「ネコミミウイルスの変異したものやない?」
小唄「でも、ネコミミウイルスの大人と接触してない……お母さんたちと隔離されたのも相当前……」
伊月「聞いて。私が推測してることがあるんです」

 スマホのTwitter画面を見せる。

伊月「ここ。ハッシュタグ・ウサギリレーってやつ。送られてきてますよね?」
あすか「あ? ああ、来たな。そう言えば。無視したけど」
みずほ「うちは止めたわ。アホくさってな」
小唄「私も来ましたけど、Twitter始めたばっかりで……」
伊月「つまり次の人にバトンを回さなかった……」

 小唄、ごくりと唾をのむ。
 あすか、お茶を飲む。
 みずほ、ぬいぐるみを抱っこする。

伊月「それで、みんなそのあとにウサギさんに会ったんですよね?」
みずほ「あ、会ったで! 夜中にスマホが光ってな!」
あすか「俺も……朝方だったかな。なんかウサギさんゲームしろって」
小唄「(手を二回打つ)こうやって手を叩いたあと……『だ~れが殺した』って歌をウサギさんが歌って……」
伊月「誰かゲームに勝った人は?」

 あすか、みずほ、小唄、黙る。

伊月「やっぱり」
みずほ「……あんたも? えーと、伊月やったっけ」
伊月「うん」
みずほ「まさかとは思うんだけど……ネットから感染したとか言わんよね?」
あすか「まだあのウサギの呪いっていう方が現実的だけど」
小唄「呪い? ネットからの感染……どちらも怖いんですけど。防ぎようがないじゃないですか!」
伊月「呪いでもネット感染でも、あの『ウサギさん』が何か知ってると思います」
小唄「あのウサギさんゲームの答えって何だったんだろう?」
みずほ「待って! Twitterで検索して見るわ!」
 
ぬいぐるみを抱いたままスマホをいじる、みずほ。
全員スマホをいじる。Twitterで検索。

伊月「考えられるのは『ウサギさんゲーム 勝ち』『ウサギさんゲーム 答え』……とかあった?」
あすか「検索ワードはありませんでした」
みずほ「他のワードは?」
小唄「いろいろやってますけど、出てこない……」
みずほ「少しぐらいヒントがあってええやん!」

 みずほ、ぬいぐるみを投げ捨てる。

あすか「ヒントがあったらこんなうさ耳になる人いないだろ」
 
苛立つみずほとあすか。
 小唄、スマホの画面を見ているからか、うつむき加減で

小唄「(遠慮がちに)あの」
伊月「何か気づいた?」
小唄「みんなウサギさんに会ってこうなったら、もう一度ウサギさんに会ってなんとかしてもらうっていうのはどうでしょう?」
あすか「でもずいぶん強引なやつだったぞ? ユーチューブだっていきなり始まったし。こっちの話聞いてくれるか?」
みずほ「でも、会うてみるのは名案やない? 言うこと聞いてくれるんかは別やけどな」
あすか「だけどまた『ウサギさんゲーム』をさせられたらどうすんだ? 今度はウサギの尻尾が生えてくるかも……まぁケツなら会わない限りスクショ撮られたりはしないだろうけど」
伊月「ウサギの尻尾程度だったら許容範囲だよ」
みずほ、ふき出す。
みずほ「あの笠野アナも下半身はパンイチって聞くしな」
あすか「でも……」
伊月「どうせ耳が生えてるんだから、このままウサギになっちゃうかもしれない。だったらウサギさんと戦おうよ!」
 
伊月以外黙る。

伊月「うちは……両親が猫になって……」
あすか「その話はやめろ」
小唄、思い出して涙目になる
みずほ「みんな同じや、そんなん。みんな死ぬんや。殺されるんや」
伊月「猫の次はうさぎだよ。私たちが殺されるのだって、時間の問題かも」
あすか「同じだろ。生きてても、死んでても。こんな監禁生活」

 小唄、「死」と聞いて一気にショックを受けて泣き出す。

小唄「(泣いて)……私、それならお父さんとお母さんのところに行きたい。もうひとりは嫌」
伊月「そんなこと言っても……」
あすか「経済がとか、国がとか、どうでもいいんだよ。もうここは生き地獄じゃねーか。俺たちガキにできることなんてねぇし」
伊月「でも……どうせ殺されるなら、一矢報いたいじゃない? その、バトンを回してきた人たちに」

伊月、自分の姿を拡散したはるきのツイートを画面に映す。

伊月「ほら」
みずほ「なんや、それ。ひっどいな!」
あすか「それ、俺もやられた。バンド仲間に」
小唄「私も……」
みずほ「ネットいじめやん」
伊月「そうだよ。これはいじめだったんだよ。わざとバトンが止まるような人に回して、罰ゲームを受けさせるっていうね」
みずほ「なんや、それ」
あすか「ってか、あんた気づいてなかったの?」
みずほ「うちはそんなんくだらんちゅーて、回さんかっただけや」
あすか「それを見透かされてたんだよ」
 
黙るみずほ。

みずほ「だったら、復讐するしかないやん。こうなったらやけくそや! うさ耳なくなったのを自撮りして、ツイートしたる!」
伊月「私は両親みたいに殺されたくない。ふたりは?」
 
小唄はまだ泣いている。

あすか「(呆れて)ウサギさんってどうやって呼び出すのかもわからねぇんだぞ?」
伊月「ウサギリレーが回ってきて、止めたからウサギさんが現れたんだよね? だったらまたウサギリレーをやればいいんだよ」
小唄「私は……」
 
あすか、考え込む

伊月「どうせ人は死ぬんだよ。私たちもうさぎになって殺されるかもしれない。みんなで殺されるか、ひとりで生きながらえてから死ぬか。どっちも嫌だけど、殺される場合は意識がある分辛いと思う。それでも殺されたいの?」
小唄「痛いのは嫌だ……」
伊月「だったら戦おうよ!」
みずほ「うちはやるで。どうせ死ぬなら変なバトン回してきたやつらぎゃふんと言わせてから死ぬ!」
伊月「ぎゃふん?」
みずほ「ぎゃふん」
あすか「自分で言ってるところで、負けてるんだよ」
みずほ「あんたは負けたままでええんか? この負け犬! 負けうさぎ!」

 あすか、マスクを取って

あすか「あ?」
みずほ「あんた、うさ耳でいるんやったらその姿、殺されるまで他にも誰かに見られるちゅーことやで。ええの? ええんか? そんなバニーちゃんを見られて」
あすか「……バニーちゃんだと、こら」
みずほ「いややろ? やったら戦えや!」
あすか「上等だ、こら」
伊月「小唄ちゃんは?」
小唄「(泣きながら)やる……」

あすか、みずほに乗せられたことに気づき、口を曲げる。

みずほ「決まりや」
あすか「でも、ウサギさんと話がつけられるかどうか……いきなりゲームを始められるかも」
伊月「そしたら勝てばいいんだよ。勝てば何も起きない……と思うし、もしかしたらこの呪いも解けるかもしれない」
みずほ「どうやって勝つん? それが問題やで……」
 みずほ、伊月が何も考えてないことに呆れたあすか、助け舟。
あすか「問題は手拍子の後の歌だ。誰が殺した、のあと」
伊月「そうだよ、勝てる可能性はあるよ。私たちは『問題を知ってる』じゃない!」
みずほ「せや、『誰が殺した』の後がわかればええんや!」
  
 四人、一斉にスマホで検索を始める。
 伊月、「誰が殺した 歌」と入力してグーグル検索する。
 見つけたのはみずほ。

みずほ「わかった。『クックロビン』や」
あすか「他に答えは?」
伊月「……検索で多く出るのは『クックロビン』だね」
小唄「私のスマホも」
あすか「どういう意味?」
伊月「少女漫画の歌だって。昔アニメ化もした。知らなかったけど……」
みずほ「検索すれば一発やったな。クイズを出されたときはいきなりやったから答えられんかったけど……」
小唄「これでウサギさんに勝てる?」
伊月「多分……」
小唄以外、黙りこむ
小唄「どうしたの?」
あすか「いや……答えがわかっても、誰がやるかなって。それにウサギさんの呼び出し方もわからない」
みずほ「それはまた『ウサギさんゲーム』を私らですればええんやない? 誰がやるかは……」
小唄「私がやります」
 伊月、みずほ、あすか、驚き画面に近づく。
 小唄、涙ながらに

小唄「痛いのは嫌だけど、私はひとりで死ぬよりみんなで殺されたいから……」
みずほ「何言うてんの! あんた」
あすか「気持ちはわかるけど……胸糞わりぃな」
伊月「いいよ、悪いけど私がやる。みんなを巻き込んだのは私だから」
小唄「やだ! 私はお父さんとお母さんのところに行きたいの!」
みずほ「アホ!」
 みずほが立ち上がり、画面から見切れる。
みずほ「あんた、自分の言うてることわかってんの? 父ちゃん母ちゃんが施設行った意味! あんたを守るためや! あんたに生きてほしかったから、猫になりかけてる自分らが施設行ったんやで!」
伊月「そうだよ、私たちは『守られた』んだよ」
あすか「守られても生き地獄だけどな」
みずほ「あんたは余計なこと言うな!」
 
小唄、泣きじゃくる。

伊月「小唄ちゃんはひとりじゃないよ。私たちはリレーでバトンを渡す相手がいなかったぼっちかもしれない。でも今は少なくても私たちがいるじゃない」
 
不服そうなあすか。

あすか「何感動ごっこしてんだか」
みずほ「だったら、あんたが伊月の代わりに最後やりゃええやん。あんたが一番年上そうやん。死ぬのは年功序列やろ?」
あすか「そうとは限らない」
みずほ「あんたも結局は死にたないやん」
伊月「いいよ、私がやるって決まり! みんな、ケンカしないで。どうせ私らネット上でもぼっちなんだから」

 みずほ、あすかに向って

みずほ「卑怯もんやな」
伊月「それが普通だよ。今日会ったばっかりで、信用も何もないネットだけの上辺の顔見知りってだけだし」
みずほ「ホントええの?」
伊月「うん、誰かやってみないとわからないし」

 あすか、立ち上がってどこか行く。

伊月「あすかさん、あすかさん」

 あすか、画面上に戻ってくる。

あすか「なんだよ」
みずほ「(嫌味で)逃げんやないで」
伊月「ウサギさんゲーム、あすかさんから始めてくれる? あすかさん、みずほさん、小唄さん、私の順でバトンを渡してほしい。どうせここじゃ順番でまた揉めるから、誰かが決めちゃったほうが早い」
あすか「なんで俺からなんだよ」
みずほ「あんたが何も責任負わんからや……私も」
伊月「いや……一番年齢が上そうだったんで。自然死なら年功序列って言ったのはみずほさんだよ」

 あすか、舌打ち。

あすか「……わかった。その代わり、この通話はつないだままやれよ。お前がどうなるか見届けないと意味ねえ」
伊月「わかってる」

〇伊月の部屋(夜)

 伊月、カップラーメンを食べている。
 Skypeはつないだまま。
 あすか以外カップラーメンを食べている。
 スマホをいじっていたあすか。

あすか「送ったぞ」
Tあすか★FlyHigh@Asuka_Fly_high『ウサギの絵を描いてツイートしてね! #ウサギリレー 次はみずほ@mizuで』

 ツイートにはへたくそなウサギの絵。
伊月、ラーメンをふき出す。

みずほ「なんやこれ」

あすか、カップラーメンをのフィルムを剥きながら

あすか「うっせ、早くやれよ」

 みずほ、ラーメンを食べ終え、スマホに向かう。
みずほ、指でウサギを描いている。
小唄は夢中でラーメンを食べている。

みずほ「ウサギって、適当でいいんだよね」

 あすか、ラーメンにお湯を入れ、

あすか「知らね」
伊月「ウサギならなんでもいいんじゃないですかね。問題なのはハッシュタグで。あすかさんのところ、ウサギさん来てないですよね?」

 油断していたあすか、スマホを勢いよく見て

あすか「脅すなよ。来てねぇよ」
みずほ「描けたで」

 スマホをパソコンのカメラに向けるみずほ。
 小唄はラーメンを食べていて、見ていない。
 伊月はスマホの通知を待っている。
 あすかだけパソコンをチラ見。

あすか「早く回せよ」
みずほ「うっさい」

 伊月、スマホをスライドさせてTLを更新する。

Tみずほ@mizu『うさぎさん♡#ウサギリレー 次は小唄@koutautautaさん』

 かわいいウサギ。
 しかし持っているのは紫色のニンジン。

伊月「なんで紫のニンジンなんですか?」
みずほ「みんなをうさ耳にしたんやで? こんなウサギ、毒入りニンジンでも食うて死んでまえと思たんや」
あすか「過激じゃん」
みずほ「黙れ、バニー」

あすか、黙ってラーメンをすする。

小唄「……ウサギさんでも殺しちゃダメですよ」
みずほ「なんで? 私らひどい目にあわされてんで?」
あすか「親も似たようなもんに殺されたようなもんだしな」
小唄「私、もう誰かが死ぬの嫌だ。ウサギさんだって家族がいるかもしれないし」
伊月「……でも、ウサギさん自身がウイルスかもしれないんだよ」
小唄「なんでウサギさんリレーなんて流行ったの? こんなのおかしいよ! みんな寂しいの我慢してるのに、『つながりたい』って思った人たちがどんどん広めていってるんじゃない! そういう人たちが一番悪いよ! ウサギさんは広めなければただネットでひっそりとしてたはずなのに!」

 今まで泣いていたばかりの小唄が大声をあげて、びっくりする伊月、あすか、みずほ。

小唄「こんなの、いつ、誰から渡されるかわからない爆弾じゃん。私は同じクラスの子からだったけど、ネット上での知り合いや本当につなが りのない人から回ってくる可能性だってある。そんなの……怖い。防ぎようがない」
あすか「もともとこういうリレーはアスリートや芸能人たちがみんなを元気付けようと仲間内で始めたことだよな。それなのに、今やリアルネットウイルスの媒介になってるなんて皮肉すぎる。外は空気感染のネコミミウイルス。ネット上ではウサミミウイルス」
みずほ「こんなのが流行ってたら、私たちはどこに逃げればええの?」伊月「逃げる場所なんて、最初からないだよ。だったら戦わないと。私  
たちのできることで。平穏な精神生活を取り戻す。たったそれだけのことだよ」
あすか「『平穏』って?」

 スマホで絵を描いていた小唄。

小唄「……できました。送ります」

 伊月のスマホが鳴る。
 小唄のウサギは下手というよりも病んだ絵。黒く色を塗られている。

伊月「私はこれを無視すればいいんだよね」
あすか「どのくらい待てばいいんだ?」
みずほ「少なくても深夜やない?」
あすか「それまで暇だな」
伊月「いつも通り過ごせばいいんですよ」
みずほ「いつも通り? 男が見とるんやで!」
あすか「こっちからしてみれば逆に女がいるんだけど」
伊月「そうか……今日はつながってるんだった」
小唄「だったらしりとりでもしませんか? 昔お父さんと遊園地で並んでいるときにやってたから……」
みずほ「それなら勝ち負けはっきりしとるな」
伊月「いや、リレー系はよくないですよ。ウサギさんも気まぐれで、私以外の人のところに行っちゃうといけないし。一度付箋でカメラを隠すのはどうですか?」
あすか「それに賛成。俺はひとりのほうが気楽」
小唄「そうですか……」
みずほ「だったら、あんたは私が相手する。普通におしゃべりしてよ」
小唄「普通のおしゃべり……って?」
みずほ「あっ」
小唄「……やっぱりいいです。みんな同じことしかしゃべらないと思うし」
みずほ「そやね。愚痴か悪口か。話も一方的になるだけやろしな」
伊月「じゃ、ウサギさんからかかってきたら、付箋取りますから」

 伊月、カメラを付箋で隠す。
 全員付箋でカメラを隠す。
 隠れた後、誰かが屁をこく。

みずほ「誰や、屁ぇこいたん! あすかやろ!」
あすか「うっせぇよ!」

  × × ×

ウサギさん「じゃっじゃーん! そりゃないぜ、セニョリータ! これが二回目だよ~?」

 一斉にカメラの付箋を取る。

ウサギさん「あれあれ? なんだか様子がおかしいぞ~? もしかして、みんなで作戦を練ってボクを倒そうと考えてた~? ウシャシャシャ! だったら大サービス!」

 パソコンの画面に伊月とウサギさんの顔(ジャルジャルの漫才状態)

ウサギさん「じゃ、さっそく行っくよ~!」
伊月「待って!」
ウサギさん「え? どうしたの、セニョリータ。怖気づいちゃったの? それとも次負けたらどうなるか知りたいの~? 負けてからのお楽しみだよ!」
伊月「どんなからくりでうさ耳にしてるか……それはネットウイルスだよね? ネットがリアルに影響するなんてありえないと思ってたけど。でも、なんでウサギさんはこんなことをしているの?」
ウサギさん「なんで? ……知りたい? ボクの目的は、ニクイスマホ文化を滅ぼすこと! だからウサミミウイルスを流行らせてるんだ!」
伊月「なんでスマホ文化が憎いの?」
黙るウサギさん。
相変わらず動画はライブ配信中。
伊月、人数を確認する。3人。
あすか、みずほ、小唄。

伊月「ウサギさん! 人質を取った!?」
ウサギさん「そうだよ! 今回は賭けさ、セニョリータ! この3人が本物のウサギになるか、全員のウサミミが取れて、ウサミミウイルスに免疫がつくかのどっちかだ!」
伊月「ずるいよ! そんなの!」
ウサギさん「ずるい~? ボクに内緒でこっそりみんなで会議して、ボクをハメようとしたのに~? ボクだけ仲間外れ! ネットいじめじゃない? キミたちはハブられた。ネット上で。ウサギリレーについて、何も知らされてなかった。ボクも今、ハブられていたんだよ? どう思う? 加害者になったみなさん!」

 小唄、あすか、みずほ、青ざめる。

ウサギさん「自分の知らないところで、自分の知らない人が自分の悪口を吹聴する。それが拡散されてゆく。SNSは空気感染のウイルスと同じだよね!」

小唄「いじめじゃありません!」
みずほ「せやで! ウサギさん、聞いてんやろ?」
あすか「この耳をどうにかしたかっただけだ!」
 
伊月だけ、黙ったまま。

ウサギさん「ま、いいや! ボクがなんでこんなことをしてるのか、教えてあげる!」

 画面がゲーム(ドット絵)に変わる。

〇ゲーム画面

場所はどこかの古い遊園地。
ウサギさんは噴水の前で風船を配っている。
来たのは集団の修学旅行生。

〇伊月の部屋(夜)

ウサギさん「さて、何が起きたと思う? ウシャシャシャシャ! ヒン
トは『ウサギさんアタック』だよ!」

 一斉に検索しだす伊月、みずほ、あすか、小唄。

ウサギさん「ヒントは与えた。じゃ、行っくよ~!」

ウサギさんゲームが始まる。
 手拍子が鳴る。

ウサギさん「だ~れが殺した♪」
あすか「おい! これだ!」

スマホのツイッター画面をパソコンのカメラに向ける。

T@reika_reiiU2
「ワロタ #ウサギさんアタック」

伊月「ウサギさん……」

 あすか、みずほ、小唄が黙る。

ウサギさん「クックロビンじゃないの?」
あすか「今からでも遅くない! 言い直せ!」
みずほ「せや! クックロビンや!」
小唄「みんなウサギになるの?」
伊月「いや、この写真はそうだよ。修学旅行生に噴水に落とされたウサギさん……」
ウサギさん「ボクは……これが原因で肺炎で死んだんだ。正解だよ。(悲しそうに)だ~れが殺した、ウサギさん。ボクの答えは修学旅行生のヒロトとユウマと……」
動画が乱れる。

みずほ「通信障害?」
あすか「いや、違うだろ! スカイプは大丈夫……」

パソコンがシャットダウンする。
スマホの電源も落ちる。
 暗転。

〇伊月の部屋(朝)

 小鳥のさえずりが聞こえる。
 目を覚ます伊月。
パソコンを起動させるが、みんなのスカイプアカウントが消えている。
自分の顔をカメラに映す伊月。
 うさ耳がなくなっている。
 頭を触って確認する伊月。

伊月「ない……」

 Youtubeの履歴を見ようとすると、笠野アナの動画が上がっている。
 クリックする伊月。

〇笠野市郎の部屋(朝)

 笠野アナの上半身。猫耳がなくなっている。

笠野「……奇跡が起こりました。私の猫耳が消えました。繰り返します。私の猫耳が消えました。他の成人の猫耳も昨日のうちに消え、施設から次々と解放されています」

〇伊月の部屋(朝)

伊月「あ、本当だ。消えてる。今までのは夢? お母さん! お父さん!」
 親を探す伊月。
 誰もいない。
 積んであるのはカップ麺の山。
 うなだれて、パソコンの前に戻ってくる。
 笠野アナの声が聞こえてくる。

〇笠野市郎の部屋(朝)
 
ウサギたちが檻の中にいる映像が流れる。

笠野「しかしながら繰り返します。ネコミミウイルスが終息したあと、子どもたちに謎の『ウサミミウイルス』が蔓延しています。くれぐれもお子さんにネット、特にSNSをやらせないでください。繰り返しますSNSをやらせないでください。政府の見解では、『ウサギは食べられる』とのこと。ウサギも民法上では物です。猫とは違い、ウサギは食べられます。食用にできるんです。ネットウイルスなら実際の菌とは違います。媒介はネットです。ですからウサギになった子どもたちは殺処分したあと、おいしくいただけます。人口の減った今、我々はこうして生きていかなくてはならないのです」

 伊月、スマホの電源を入れて、Twitterを開く。
TLが止まっている。

T@usagisan_higaisya「みんな、大丈夫?」
Tみずほ@mizu『私は大丈夫やけど……』
T小唄@koutautauta『タイムラインが静かで……うさ耳の自撮りがいくつか……』
Tあすか★FlyHigh@Asuka_Fly_high『ざまあないって。みんな何が『拡散しないで!』だ。周りはみんな殺処分候補だってよ!』

 笠野の声が聞こえる。

笠野「ウサはおいしくいただけます。繰り返します。うさ耳になった子どもたちは、大人が帰り次第施設のへ……」
伊月M「私たちの本当の地獄はここからだ」
                            【了】
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