いつもの朝

文字数 1,391文字

私の亭主は、普通の会社員です。
朝7時半には家を出て、満員電車で都心に向かいます。帰りは、まあいつも夜8時くらい、早く帰ってくる時はメッセをくれる良い夫です。
でも、家事の手伝いはほぼしてくれません。
まあ、休みの日は娘の相手をしてくれる良いパパなので、点数甘めにつけてます。
それに、かなりのボンクラなので、あたしの副業の中身にはまったく気付いていません、もし知ったら目をまん丸にして辞めろって言うと思うけど、嘘を丸々信じてるので、まあかわいいものです。
てか、そもそも見えない人なんで、言っても信じないかもしれないですけどね。
おかげで、色々助かってます。
え?
何が見えないか?
まあ、それは後でわかります。

その朝は、旦那に無理やりトーストとヨーグルトを食べさせて(文句言わないとすぐ抜こうとします。朝ごはんは大切ですよ)家から送り出し、そのまま娘の花梨のお着替えをさせ、大急ぎで自転車にその娘を乗せ保育園に向かいました。

「いいわね花梨ちゃん、今日も先生の言う事きいておとなしく遊んでるのよ」
坂道を全力で立ちこぎしながら私は娘に言いました。
ああ、電動チャリが欲しい!
「わかったー、ママは今日もお掃除なのねー」
花梨が無邪気に笑って言います。
「そうよ、お掃除大変なのよ、だから花梨はいい子にして待ってなさい! てか、この坂まじ長い、なんで岡の上に保育園なんて作るのよ」
文句いいながら、自転車15分で保育園到着。
保母さんに花梨を引き渡し、私はそのまま坂道を下って、仕事先に直行です。

会社に着くと、上司といつもの相棒の矢田ちゃんが待ってました。
「おはよう、入内島さん」
上司の馬場さんが挨拶してきました。もう50代なのに、見た目は40でも通るくらい若く見えるマダムです。でも、中身はとんでもなくすごい人なのですがね。
「おはようございます。今日は町内清掃の依頼だけですよね?」
馬場さんが頷きました。
「ええ、でも件数は4件、効率よくこなさないと回りきれないわよ」
私はどんと胸を叩きました。
「任せて下さい、プロの掃除屋の意地にかけてとっとと済ませて、夕飯の買い物もこなしますから」
矢田さんが、キラキラした目で私を見て言いました。
「先輩いつも頼もしいです。早く私も一人前の掃除屋になりたいです」
「大丈夫よ、あんたオーラ強いから」
「頑張りますから、今日もよろしくお願いしますね」
「よっしゃ、じゃあ今日の分の依頼書見せて下さい」
私が言うと、馬場さんは者類をドサっと渡してきました。
ざっと目を通した私は、矢田さんに言いました。
「今日はウザイ地縛霊三件に、悪霊化した悪質な浮遊霊一体。速攻で地縛霊かたして、悪霊探しにするから、特級のお札10枚と霊水1ダース、それから封印箱に結界セット念のために2セット用意して」
「はい、先輩」
私は腕まくりして言いました。
「さあ、今日もしっかりお掃除するわよ!」
そう、私はこの世にとどまる幽霊をあの世に送る、霊体専門の掃除屋なのです。
どうやら今日も仕事は大忙しのようです。
でも、定時までに終わらせて、しっかり主婦もやる。それが私の流儀なのです。
子育て主婦に残業などあり得ないのだ。
待ってなさい幽霊さんたち、すぐに成仏させますからね!
こうして、掃除屋主婦の1日が、いつものように始まったのでした。
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