第2話 おとこおんなと ははなき男子。

文字数 1,895文字

     ☆

「おらおめぇら、コイツは今日から夏休みのあいだバイトに入る。
 オレらの姪っこだ。変な手ェ出すんじゃねぇぞ!」

 監督で副社長の威勢のいい紹介。
 オトコ職場の社員とバイトたちは、どよどよとどよめいた。

 ちっとキツメな偉そうな眼つきが難だが。
 なかなかの色っぽい…美女、
 いや、いやいや…
 …美人! …現役…!
 …女子高生!?
 …だとぅ…!!????

「…言っとくが、この業界が向いてて、続くようなら、
 俺らのあと継いで、次代の社長サマなんだからな?
 セクハラなんかしたら、…絞めるぞ?」
 何度も、念を押されたし。

 上の男兄弟二人で、早死にした両親の跡を継いで。
 元気に細々と? 営んでいる、地元の土建会社の。
 末の妹が生んだ、可愛い可愛い、
(…可愛いかぁ?と、一部の声は飛んだが)
 社長兄弟の、姪っこ。

 気の強い…
 美人で、頭の回転も速くて。
 運動神経も、仕事のセンスも…
 悪くない。
 次代の…
 女… 社長ぅ…ッ?!?!

(ってことは、婿に入ったら… 逆玉?!)

 みんな、もちろん各方面の色気も下心も、
 萌えたり燃やしたり、しつつ。
 女子高生のくせに本人も、なかなかの、度胸の良さで。
 半裸に近い、汗まみれ、泥まみれの。
 オトコ職場に紛れ込んでも、臆することなく。
 むしろ、難なく、周りを取り仕切っていて…、
 なんだか、態度がでかいので。

 手は出しあぐねて、遠巻きに…
 憧れて…
 眺めて、
 いたが。

     ☆

「すいませんでした先輩! あたしのミスのせいで、残業、つきあわせちゃって!」
 元気で威勢が良くて気は強くて。
 礼儀も正しい。
 ぺこりと新人(=次代の女社長?…な、現役・女子高生!バイト!)は。
 頭を下げた。
「いや、おれも、というか、みんな最初の頃には、一度はやらかすドジだし。」
 バイトとしては二年先輩なだけの大学生は、ちょっと慌てて言った。

「でもそれでもあたしのうっかりミスだし!
 なんかお礼させて下さい!」
 彼女は身振りで。
 あっちの冷たいジュースの自販機のあたりを、
 なんとなく指さして、いたのだが。
 美少女が。
『お礼』なんて単語を言ったら…
 男子大学生は。
 一瞬、ありえない方向性に、解釈しかけて…
 慌てて。
 心の中で、理性が急いで、全力でブレーキを踏んだ…
 あまりに。
 逆方向、というか、変な方向へ…
 ずれた。

「…え…、えぇ~、じゃあ、あの…」
「…はい。何ですか?」
 どうも、ただちょっとジュースかアイスでもおごろうという、
 単純な意図とは違う、変な方向へ?
 話がズレたようだ?…と。
 敏感な女子高生は。
 早くもちょっとだけ警戒した声に、…変わった。

「あの…、 ちょっとだけ、で、いいんだけど…」
「…何でしょう?」
(しかめっつら)

「ちょっとだけ、触らせて、ほしいんだけど…」
「はぁ? どこにですか…?」
「…あ、違う違う! 変な意味じゃなくてッ!」
 …男子大学生、慌てて叫んだ。
「え、えぇと… 指? あ、握手とかで、いんだ。
 ちょっとだけ…!」
「…はぁ。」
 女子高生、かなり不審げな、変な顔を…
 しつつ。
「まぁ、…握手くらいなら、いーですけど…」
 …セクハラ?
 に、移行しやがったら、
 …投げ飛ばすッ! と。
 柔道有段者の女子高生は気合を入れて、にらんだが。

 ほい、と、無造作にさしだされた、
 けしてか弱いとは言えない、ごついが。
 やはり、
 女子の、小さな、
 掌に…

 宝物のように、触れた。
「………ぅ、わぁ…………」
「…はぁ?」
 ちょっとだけ、両手で包み込むように、握りこんで。
 すぐに、離した。
「………ごめん。変なこと頼んで… 実は」
「はい?」
「おんなのひとに、触ったこと、ほんとに、まったく無くて…」
「…はぁ?」
「おれおかーさん早くに死んじゃってさ?
 おやじと男兄弟ばっかしで。
 がっこも幼稚部からずっと私立の男子校で。
 バイトも、オトコばっかだろ?
 女の人で、話したことあるの、
 きみと。
 あと、コンビニと、スーパーのおばちゃんくらいで…」

「…………はぁ?!」
 女子高生、いささか呆れた。
「マジっすか?」
「うんマジ。」
「はぁ…」

 つい先ほど。
 まるで本当に、宝物のように…
 バラの、はなびらのように。
 握られた。
 女子にしては、ゴツイ自分の両手を…
 ちょっと呆然と、眺めた。


「…おかあさん、て、こんな、感じかなぁ………」





 きゅんっ




     ☆

 その数年後には。
 次期女社長(予定)の座を、一時返上して。
 自分のことをいまだに「おかあさんみたい!」
 と… 思っている、年上オトコの。
 ムスコを孕むことになってしまった流れは。
 まぁ、自然な、なりゆき? ではあった…



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