第2話

文字数 743文字

 篠崎との生活は目まぐるしいわけでもなく
ただ、ただひたすらに穏やかな日々。

 平穏を感じられる人。

 私にとってそれが正解か不正解かはわからないが寄り添ってくれる
パートナーなのには変わりない。

 一年経った今も。

 最初の印象とも、変わったわけでもないが、
マンネリと都合の良い言葉で片付けてしまえばそうだし、
幸せと定義するには、単調すぎる暮らし。

 それが、心地よく。だが
それが私を何者でもないものにさせているのも間違えなかった。

 私は、欲深いのかもしれない。そんなことを思いながら、スマホを片手に夕焼けを眺めていた。


 篠崎に愛を語らせられるほど、ロマンチストではない。
よくあるドラマのセリフや流行りの歌詞のようには、日本人という人種は愛を語らない。
そのおかげで、みなくても良い感情には蓋をできる。人間なんて、実際は何を考えているのか
なんて分からない。
私が傷付かずに済むために、この歳になってやっと会得できた生き抜く術。
期待しなければ、失望せずに済む。恋や愛を語る前に、篠崎と私は一緒にいた。

 知り合って、2,3ヶ月が経ったある日、何を語るでもない、いつもの長電話をしていたら
おやすみをいう間合いになって、息を吐くように篠崎は、
『なあ、すず・・・付き合おう。』
それだけだった。

 私も、ただ息を吐くように
『うん・・・付き合おう。』
それだけ伝えた。何気ないメッセージのやりとり、何気ない長電話。
都会を生き抜くためには、何かにすがりたかったのも本音だが、
冬は寒いコンクリート建てのワンルームで、篠崎の存在だけで芯から温まるのも本音だった。

 時間が経っても変わらない。
変わらずにいる存在が、時に煩わしく、時に、絶対的なものであって欲しいと衝動に駆られる。
そんな、感情は伝える必要もなくただ、閉まっておく。




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