第2話:惑う歌姫の涙の色は

文字数 792文字

いつもと変わらない朝を迎え、奏と陽は近所の廃屋に向かっていた。
(正直訳が分からないけれど…、
久しぶりの外って結構気持ちいいな。)
ここでお前の声が見つかるといいんだけどな…。
たどり着いた廃屋は元は民家だったようで、
ボロボロながらも生活感が残っていた。
「どうやって声を探すの?」
奏はメモ帳に走り書いた。
…参ったな。
それは多分奏にしか分からないよ。
「どういうこと?」
声がなくなった人は、廃屋に入ると自分自身の声の場所が自然と分かるらしい。
声の眠っている場所が自然と感じられて。
で、あとはそこに行けばいいだけ、っていう。
「うーん…。
じゃあとにかく入ってみようか。」
けれど廃屋の中に入ってみても、奏にはなにも感じられなかった。
「どうしよう、分からない…」
まあ、そのうち見つかるかもしれないし。
とりあえず一周してみよう。
その後半日廃屋を探し回ったものの、特に成果は得られなかった。
仕方ない、今日は引き上げよう。
「ごめん、折角来てくれたのに」
気にすんなよ。
ちょっと不便だけど、このままでもそんなに困らないだろ?
(困らない…のだろうか。
私は)
「歌いたい」
?なんて読むんだ、その字。
(歌という文字すら忘れてしまっているなんて…。)
「うた、」
ああ、前言ってたウタってやつか。
それってそんなにいいものなのか?
(いいもの、なのは間違いない。)
それから奏は歌のよさを説こうと思った。
ところが。
(あれ?)
(手が動かない…。
歌のよさを、陽に、教えて、)
…!?
!?おい、どうした!?
歌のよさについて考えていた奏の目からは、涙がポロポロとこぼれ出していた。
「…ごめん、なんでもない。」
本当に…?
どこか痛いとかないのか…??
「大丈夫。」
勿論、奏の内心は大丈夫などではなかった。
(…私、歌の何がいいと思っていたんだっけ?)
廃屋に眠る声を探すどころか、奏は自分自身を見失ってしまった。
そしてその日の夜、奏は不思議な夢を見る。
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登場人物紹介

とても美しく歌うので「歌姫」と呼ばれ讃えられていた。が、病気で声を失いその後事故にあって昏睡状態に。
半年後には目覚めたものの…。

奏の幼馴染。

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