目玉焼き乗せカレー

文字数 1,066文字

 三年ぶりの再会だった。

「久しぶり」

 声を掛けて来たのは元カノだった。
 お互いマスク越しなのに、私は彼女だと分かるし、彼女も私だと分かる。

「久しぶり」

 私も彼女に同じ言葉を返しながら足を止める。
 夜、近所のスーパーマーケットの通路で、パーカーとデニムを着た私と、ジャケットとパンツを着た元カノ。
 お互いの服の温度差が凄かった。

「買い物?」
「うん」

 元カノが隣に並び、私が持っていた買い物籠(かご)に手を伸ばす。
 あまりにも自然な動きだったので、私も抗わずに籠を渡した。

「自炊、真面目にしてるんだね」
「まあね」

 付き合っていた頃の私は、とても仕事が忙しかった。
 家は、寝に帰るだけの場所で、食事は体を動かす燃料でしかなかった。
 在宅勤務が長くなるにつれて、料理も少しずつするようになったのだ。
 食べることも作ることも好きな元カノに、よく怒られたことを思い出す。
 あの頃の私は、目玉焼きですら、まともに作らなかった食生活だった。

「得意料理、できた?」
「カレーかな」

 私の答えを聞いて、彼女が少し笑う。
 マスクから覗いた目尻に少し(しわ)が入るのが見えた。
 私が知っているより、皺が深い。
 三年の月日を知らされたような気がした。

「貴女ほど、うまくは作れないけど」
「私の料理、美味しかった?」

 彼女が、野菜コーナーで人参を選びながら言った。

「美味しかったよ」
「そっか、そっか」

 彼女は、五本入りの人参を籠の中に入れた。
 一人で食べきるには、微妙に多い分量だった。

「今、フリー?」

 彼女は、じゃがいもを選びながら言った。
 手に持っているのは六個入りだった。

「そっちは?」

 私は、たまねぎを籠に入れた。
 いつもなら三個入りだけど、五個入りにした。

「フリーだね」

 彼女は、六個入りのじゃがいもを籠の中に入れた。
 私たちは、しばらく黙ったままで並んで歩く。
 途中の棚で取ったカレー粉の箱が、籠の中でカタカタと揺れていた。

「で?」

 レジが近づいてきたので、私から言った。
 このままだと、彼女からは言い出さない。
 そんな性格だったことを、私が忘れていないことが少し悔しい。
 見上げた彼女の目尻に、ゆっくりと皺が入る。

「作りに行っていい?」

 彼女の言葉を聞いて、私の目尻にも皺が入るのが分かる。

「どうぞ」

 私の言葉を聞いて、彼女が鞄から自分の財布を取り出した。
 それを見て、私は素直に頭を下げる。

 きっとまだ、彼女のカレーの方が美味しい。
 だけど、私の目玉焼きの方が形は綺麗なはずだ。

 今度は失敗しない。
 貴女のカレーに乗せる目玉焼きは、私がずっと焼いていたい。



<完>

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