第1話

文字数 932文字

 えん【縁】とは仏教用語で、結果を生じる直接的な原因に対して、間接的な原因をいう。分かり易くいえば、そのような結果になるめぐり合わせである。
 私の小学校の同級生にS氏がいる。彼とは中学生の時、伊勢や大分方面に蒸気機関車の写真を撮りに一緒に旅行に行った仲である。私の撮り鉄はその頃から始まった。中学以降は別々で、35年前にあったのが最後だった。ただお互いにどこで何をやっているのかは分かっていた。
 そのS氏の大学時代のサイクリング部の仲間にD氏がいた。二人は大の親友で大学卒業後の進路は異なったが、約40年間の間、欠かさずに年に1回は必ず会う仲だった。
 そのD氏のご尊父が私の勤務する病院の患者さんで、何回か私の外来を受診された。
 めぐり合わせが重なって、ある2月に庄内のD氏のお宅にS氏とお邪魔して囲炉裏を囲んだ。
 D氏のお父様と私、S氏と私の繋がりで、私とD氏はほぼ初対面だったが、私の高校の同級生がD氏の前職時代からの大親友で、今も親しくしていることが分かり、一気に盛り上がった。
 地吹雪の晩、D氏のお宅の築200年の古民家の中は重厚な黒で囲炉裏の炭火が暖かかった。また、黒の部屋の隅に、さり気なく生けてある百合農家のD氏が栽培した白い百合の花の存在感が圧巻であった。
 D氏の奥さん手作りの郷土料理を頂き、尽きぬ話をして酒を飲んだ。何十年もの歳月が昨日のことのように凝集され、下手な庄内弁で「んだんだ(庄内弁で『そうそう』の意味)」と合槌を打つのが失礼になるような気がした。
 私は若い頃、(実は今も)運命を信じていない。運命は、その人のほんの少しの工夫と努力で何とでもなると思っている。
 しかし今回の出来事で、自分の力ではどうすることもできない「縁」というものはあるのかなあ、大切にしようと思った。
 D氏の家からの帰り、地吹雪は止んでいたが道路は凍り、てろてろでゅ~(庄内弁で「地面が凍りてかてかに光ってつるつる滑りやすい状態である」の意味)だった。
 いい宴席だった。
 
 さて写真は百合栽培農家のD氏が手塩にかけて育てた百合である。

 百合の芳醇な香りは、清々しい百合とは対照的に強烈で官能性がある…、とか柄にもないことを言ったりして。
 んだ。
(2019年3月)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み