第2話
文字数 4,485文字
… 時の王権が
今より数百年前のヤマトを治める時代だった。
この地は 太古の神々を祀る多くの
病や不作に見舞われることなく 暮らしは豊かに安泰していた。
しかし、それはほんの数十年で国は変わっていった。
統治政権が変わるにして
領土戦火を次々と拡大していく朝廷侵攻が始まり、少数民族を初めとする多くの民の住む故郷が戦に奪われた。
(桜花)「 神の鎮座する神域、天に資源を踏み荒さず、地には争いを生み出さない。大昔より天啓を守る役目とされた古の末裔が滅びたことで信仰の衰退とあらゆる生態系の均衡を保てなくなった天は怒り、ヤマトは氷河期のような底をついた時代が災いとして現れ始めた。」
…… 天候がもたらす干ばつ 土砂や川の氾濫、森は崩壊した自然の食物連鎖。
土地の収穫を失った農村では食料難となる大飢饉が相次ぎ、都は更なる流行病が国中を襲った。
(桜花)
「 開祖は、そうさせた神の怒りを鎮める土地の復興や争いの火種を根絶させる神州の旅へ故郷を去り、マホロバと
風太のように 神の力を存続した我々風人の起源もここから始まったとされる。
─── … (数百年前)
“ 戦う
“ 自然と調和に育む古の教えを子孫に守り継承し 命 繁栄に努めよ ”
(桜花)
「 長年にかけた開拓地で後世に教え説いたこの開祖の言葉が当主代々 国において、人々の平和の財とは何を表すと思う、風馬。」
「 ……、」
(風馬の表情が曇る)
(風馬)
「 地位や名誉、財もその一つにして権力という懐に過ぎれば、人はいずれ他者を破滅に虐げる争いを生み出します。─── 誰もが 平和を求め信じる理想とは、それと全く異なる真逆の思想。」
「 武力を一切、他国にも自国に持ち出さない争いや考えを捨てる世の中を、国の意思が民の暮らしを豊かなモノにしていく育みもまた、財なのでは 」
(風馬)「 これを平民・貴族が、平等として全てに与えられる尊重の権利と子孫の繁栄かと思われます。」
旅をしながら培った知恵と見聞を広め歩いた開祖が導き出せたのは、『民』という答えに至った。
(桜花)
「 民無くして国は成り立たぬ。人や自然も
命たるもの 必ずや死に向かう生命の一生。
(開祖)
“ 長寿も短命も、… 命みな等しく 赤子は大地を這い、生涯終わる天命に至るまで人の生きる
“ 神の信仰に通ずる
(桜花)
「 そう、戦乱の無い 数多の民の暮らしが守られる百年の大計とは、
お前の言う事が正に仁政だ。仁徳に尽くす政治とは恵み深く、正しく人の意見の尊重を行える
“ 外には慈悲を施す事で民の働きが平らな大地を豊かに育み、国の安定を支える。”
これこそが将来の繁栄を守ることであると。
風人が戦だけでない里山の暮らしを
山仕事や畑、
それらの全てが、神・自然と人々の共存が争いを生まない理に叶う国の暮らしを開祖は最後に戦争からマホロバを守り、
この地の民と築いた共和の
だが、私たちの先先代、またはそれ以前なる祖先も血を流さねば王や貴族が独裁政権を手放す和国統一は未だ叶わぬ、王朝との戦に明け暮れる時代もあったと聞いている。
(桜花)
「 同じ今とて、それは決して長一人の力ではない。今いる里の皆、何より 裏影でいるお前の働きは誇りに思える以上に一番良くやってくれている。 」
(風馬)「 いえ、そんなことは... 先代、父上の偉業にはまだとても敵いません。..ですが、」
「 たとえ 何十、何百年と 歳月はかかっても、」
(風馬)
「 ようやく この地で民の住む暮らしは、これまでの風人の働きが実を結び、神との自然の均衡は保たれ、みなが平等に食べて暮らせていける土地の環境を取り戻せているのです。」
「 戦争だけは、和国統一を果たす平和に残した開祖様の願いを 理想のままで終わらせられません。」
「 ……… 」
話を止め 桜花には一つだけ ある思いがあった。
風馬の右肩や脇腹には生涯、痕が残るような深い傷がある。
「 風馬、」
(桜花)「 幼い早くにして戦というもの、朝廷身分の父親に学び、高い戦術経験を身につけてきた。見る目と 培ったその判断力を養い、先を見据えた物事の善し悪しを正しく見定められる。そう思い 家族だからこそ胸中に秘め続けた本心も… 明かせぬ苦悩もあったはずだ。」
違う場所にありたい願い。
(桜花)「 お前はもう 過去を手放して良い時だ。 」
「 これからを生きる理由、罪を負い目に自らを苦しめる必要は、桜も… 誰も望んでいない。」
裏影は、いつどこで討ち果てても死を覚悟することを常に置いておかなければならない。
(桜花)
「 … 分かっていたのに、強く引き止めることが出来なかった。」
(風馬)
「 ─────・・」
……、
風馬は一度瞳を閉じ
ゆっくり瞬きから開いた目が月明かりを見上げ父に対し「 決してその様な風には思っていない 」と、穏やかに答えた。
(風馬)
「 父上、母上あってこそ、生まれて初めて自分が生きていく理由に選んで進めた道なのです。」
「 … 朝廷に始め、実父の愚行が招いた一族の罪は、数え切れない善良な人々の屍山を幾度と積み上げ、」
多くの奪われた怨嗟の怒りを買い、
父は裁かれるべき天命でした。
(風馬)
「 母上は、俺の将来の行く末を思い、死罪を救って頂いたお二人に、その恩慈悲に報いりたく 風人の裏役が担うものは、混沌化していく国の裏社会の一掃とした先代のお考えも理解できます。」
「 … 生きて戻る事も、飢えや病に今も苦しめられている、犠牲に叶わなくなった民の尊い命を思えば二度と父のような者は決して許してはなりません。どのようなお役目でも 」
(風馬)
「 誠の心情に迷いなどありません。」
(桜花)「 … そうか、 」
まだあの当時、
子供だったお前に 朝廷一族の罪を
歩むこれからの全てを負わせた父親の存在…
(桜)
「 “ この子に、罪はありませぬ!! ” 」
“ 風馬は…
この子は 、父親の後からあなたに討たれることを……… ”
“ 死ぬ気です.. 。”
(先代)「 お前の為を思って言っている。」
“ 桜花。”
(桜花)「 裏影を、風人でないあの子に課せるつもりなのですか、」
今の風馬に修練を積ませ それだけの実力が見込める確かな素質があっても、
(桜花)「 幼く経験した 残酷な罪から縛られてきた重いかせは、もう手放すために この子は生きなければ。」
“ そんな 戦いの道具に身を投じさせるようなことは ”
(桜花)「 認められません、 撤回を。」
“本気で分かっていないのは、お前の方だ。 ”
(先代)
「 風人とて、里の者、外部の人間だからという違いに特別扱いはせぬ。本来の存在は、民、マホロバの地を守る先祖からの使命を全うする為、己に備わる才を自覚し、戦事に不向きならば何ができ、素質が認められれば みな修練に励み、将来 必要とされる人材になれる努力をする。
適性を活かさねば個の力が生きる価値はなんだ、 風馬は例外でない。」
「 先も見据えず… 」
“ 私情の甘さが平和を望む民や一族を真に守れると思うか。”
(先代)「 あの様な末路を、親の罪業を課せられた無くすには、綺麗ごとだけでは大義など建前に終わる。何のためにお前は風馬を救った。今一度 よく考えよ、桜花。」
(桜花)
「 ……、」
先代は、決して間違った人ではない。
その言葉には
罪と身内に課せられた孤独という境遇に置かれるあの子の力に備わった本当の強さを理解した上での、
必要とした人材だったのだ。
“ … 風馬、話がある。”
(桜花)
「 ─── 決して 足かせにさせるつもりは無いのだ、本意としてその事だけはお前に伝えておきたい。」
「………、」
(父に相手礼をする風馬)
“ 異論は御座いません。”
誠心誠意、渾身に変えまして
“ 謹んで 重大なお役目、
お引き受け致します。 ”
著しい成長と、その後の貢献を見れば分かる。
(桜花)「( 今でも ) 」
平穏の中にお前は、気の休めない張りつめた日々をどこかに思いながら過ごしていただろう。
─── そして
月日は 風馬が成人し、桜が私との間に子を出産したことで里に大きな転機が訪れた。
“ まさか … 、”
赤子が泣いた これは、我が一族の風術。
失われた神風が再び里に
“ !、この子は、次期長に期待がかけられる子だ。”
「 “ ふうまにぃちゃん ” 」
あのね 、
(風太)
“ いつか ぼくが、ふうまにいちゃんのこと ”
たいへんなおしごと、
きずついたり、
かなしかったり、ひとり くるしいことも
(風太)
もうダメだって思ったとき、だいじょうぶ。ぼくがこれから大きくなったら、兄上のこと
“ いちばんに
たすけてあげるんだ。”
(風馬) ……。
(これまでの日常が変わってゆく)
まだ小さくも
風太は 開祖と同じ争いを根絶させる神の力を使う事が出来る唯一無二の風人だ。
あの子が、託された使命にいつか向き合い、国の
正しき運命は、風太を導き
平和の先にある未来の人の繁栄は きっと叶うだろう。
(桜花)
「 桜が残してくれた、大事なお前たち、神の力が朝廷に芽を摘まれぬよう、風人を守るのが今の長の務めだと力は尽くしているんだが。…… 」
(酒月が風に揺れる)
(桜花)
「 幼い風太や勇真には、桜のように日常的な世話をしてやれることも、そのうち家に入れてもらえなくなる。(苦笑) 」
(↓ご立腹な 幼い二人)
“ ダメっ!”
(風太) “ いま
なんにち
だとおもってるの。”(勇真) “ おしごと、ふつかでかえってくるっていったのに!”
” ハハハハッ!何だそりゃお前、女房みてーな ”
“ チビの内がまだいい。父親なんざ、あっという間に息子が成人になりゃ、親子関係も変わる。細けぇ面倒なんて真面目にやるだけ損だぞ (笑) ”
(高王)
“
父上は参ったなとばかりに酒を口にして
ため息に戻る。
笑ってはいけないと思ったのだが、
聞いた一口のところで思わず酒をこぼしそうになった。
(風馬)
「 すみません …父上 。(笑) 、…… 全く… あの二人は.. 」
(桜花)
「 いや、お前は家での面倒をよく見ていてくれるから何も心配いらぬと、すまないと思い桜にもそうして甘えてきてしまったのだ。男は家庭を持てば同じ葛藤にいつかお前も苦労していくかも知れん。」
(桜花)「 父親とはそういうものだ。」
(風馬)
「 ──. . 、はい。」
(父に酒を注ぐ)
(風馬)「 その時はいつか今日の父上を思いながら自分もそんな風に飲むんだろうと 」
「 そんな気がします。」
つづく