第3話 バターの敵はあたいの敵

文字数 1,897文字

何故か、銃の音がした。
セシリーがくるりとこちらを向く、その手にはショットガンを構えていた。

「ふせろ!」

愕然と立ってるダンクとリッターの足を、突然サトミが足ですくった。
二人がひっくり返ると同時に、サトミが瞬時に身を低く落とし、セシリーの銃を下からパンと跳ね上げる。

バーンッ!

撃った瞬間、上飛んでたカラスが落ちて来る。
再度フォアエンド引こうとする彼女に、サトミが踏み込み、何の躊躇もなく彼女の頬に平手で突きを入れようとした。

「やめろ!!!」

リッターの叫びに、サトミの手が止まった。
一瞬、ほっぺの肉が波打って揺れる。
セシリーはヒヤリとしながら、強がってフンとそっぽ向いた。

「あら、なんで止めるの?あたい、殴られたってちっとも構わないわ。
どうせあたいなんか、どうせどうせ、」

腐る彼女にサトミが笑って、止めた手の人差し指でちょんとほっぺをつついた。

「ははっ!そんな柔らかいほっぺしてさ、2発目はないぜセシリー。」

キュンッ!「あん!」

指でつつかれた頬がジンとする。
胸がキュンキュンして、セシリーが赤い顔で頬を押さえた。

「王子、あたいそんな……可愛いとか言われるとキュンキュンしちゃう!キャッ!」

ダンクがバタンと地面に大の字に倒れて愕然とする。

「誰が!誰が王子?!可愛いとか言ってないし!」

「まあまあ、丸く収まりそうだしいいんじゃね?」

ひっくり返ったまま叫ぶダンクに、サトミが手を貸す。
ダンクが焦って聞いた。

「よくねえよ!ショットガン!弾は?」

「散弾だろ?あれは面で来るからなあ。避けたが速いじゃん。」

のんびり答えるサトミに、ダンクが呆れた。

「いや、違うだろ!そこじゃねえだろ!俺は弾の種類とか聞いてねえし!
弾当たったかをふつー心配すっだろ!ああ?!リッター!」

リッターは、ため息突きながら立ち上がる。

「セシリー、銃は身の危険感じた時しか駄目って言ったろ?」

「だって〜、王子があたいの料理にケチ付けるんだもん。
バターの危機は、あたいの危機よ。でも、もういいの。王子があたいの事好きって言ったし。」

「言ってねえ、言ってねえ。セシリーちゃん、妄想が突っ走ってる。」

サトミは王子になってるのに、平気で銃向けるとか、どうなってんのかわからない。

「やばかった、俺ら3人あの世行くとこだった……」

ダンクがぼやくと、サトミが横で手を上げた。

「いや、俺は行く気は無いから。ガイドとキャミーが困るし。」

「困るとこはそこじゃねえし。どう考えてもお前ら普通じゃねえ。
俺はこんな環境で、どうすれば人生普通に生きられるのか、今考えてる。」

ハハッとサトミが笑う。
そしてセシリーに向き合った。

「まあ、それよりもだ。セシリー、知ってるか?
兄貴は飯も食わず飲み歩いて、飯はガイドの所に食いに行くと言ってた。
そりゃそうだ、飯を食いたくてもこれじゃ食うモノがない。
リッターは、何のために命はって稼いでるんだ?
セシリーは、誰のために飯を作る?
アニキに食わせたくて、飯を作っていたんじゃなかったのか?」

リッターは、無言で彼女の隣に立っている。
サトミの言葉は、今まで誰も言えなかった事だ。
それは、セシリーの寂しさを埋めるのがバターだとわかっていたから。
だから、サトミの言葉は兄妹どちらにも痛かった。
でも、妹はそれで悲しそうな顔で唇をかんでいる。
だからこそ、リッターは妹のために手を上げようと思った。

「サトミ」

リッターが、サトミの肩を押して殴ろうとした。
だが、リッターの手が肩に触れた瞬間、手を掴まれ身体が宙をくるりと舞う。
あっという間に地面にたたきつけられ、呆然と空を見た。

「今度はなんだよ!!くっそ痛えっ!バンバン転がされて格好悪ぃ!」

「あ、すまねえ、俺殴ろうとしたろ?
駄目だわ、俺、危害加えられると感じたら、切るか投げるかどっちかだわ。」

「マジか!こええええ……投げられて良かった。」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめんなさい。
お兄ちゃん、一生懸命働いてるのに。」

セシリーが、涙を浮かべてリッターに謝った。
意地っ張りの妹が、初めて泣いて謝ってくれた。

「セシリー……」

リッターが身を起こすと、セシリーが駆け寄って泣きながらのしかかる。

「おにいちゃーーーーん!あーん、ごめんなさいいぃ〜〜」

「ちょ、待てっ!おっ重い!セシリー、ちょっ!
助け……、うおおお、な、何かでる、出るぅ〜、た、助け、助けてえ……」

ダンクがそっと涙を拭く。

「いい兄妹愛だなー、俺うらやましい。」

「へえ、押しつぶされんのが羨ましいのか。」

「うるせー、お前、隊長辞めたんだろ?いつまでも引きずりやがって。
余計な世話なんだよ。」

ダンクが二人を見て笑いながら言う。
サトミが全くだとため息付いた。
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登場人物紹介

・セシリー・メイル

17才。プラチナブロンド、碧眼、白人ではない。

リッターとは父親違いの兄妹、可愛い系美少女。人を見て選別し、ガッツリ甘える世渡り上手。

この世はバターの為に、バターのためなら何でもやる女。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

リッターの妹ラブ。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格、主食は酒。

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀

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