第2話 バター、love

文字数 1,937文字

「どうぞ〜、狭いけどな。って、ダンク何してんの?」

そこへ、リッターがサトミ連れて帰ってきた。

「リッターーー!!おにいちゃーーーーんん!!こわかったよおおお!!」

リッターに思わず飛びつく。と、逃げられた。

「何で逃げんの?」

「バターくせえから」

ヒョロッとしたリッターが、嫌そうにドアに張り付いた。

「なっにがバター臭えだ!てめえ!妹どうなってんだよ!」

「だから言ったじゃん!お前が考えてるより深刻なんだって!よ!」

「なんでここまでひどいって、 言えよ!!」

「家がバター臭いからわかるだろうがよ!」

ボカボカ殴り合う男2人の横から、ぴょこんとサトミが顔を出す。

「くんくん、うーん、これがバターって油の臭いかー……何か家中がくっせえ。」

「あら、お兄ちゃん、こちらどなた?」

サトミの前に、セシリーがのしのし歩いてくる。
サトミが彼女を見て、ふうんと腕を組んだ。

「はじめまして、ミス・セシリー……だっけ。俺はサトミ・ブラッドリーってんだ。
郵便局の新入りだ、よろしく。
ふうん、ダンク、彼女を抱えられないって?」

「そ、お前わかるかなー、こう両手でお姫様抱っこよ。だから〜〜え?」

サトミが彼女に歩み寄る。
怪訝な顔の彼女に手を伸ばすと、横からいとも簡単にサトミがお姫様抱っこした。

「「 えええええええええええええええええ!!!! 」」

「なあんだ、どんな重量級かと思ったら、大したことねえわ。
これなら片手でもオッケー。」

ひょいと右手で片手抱っこする。

「し、しまった、こいつ筋肉馬鹿なの忘れてた。」

リッターがつぶやく。
やっとバターやめる気になってくれたのに、決意が終了したらどうしよう。

アイコンタクトしたくても、サトミは小さいのではるかに大きいセシリーで埋まっている。
やがて彼女をポンと降ろすと、テーブルに歩み寄って見回した。

「へえええ、これがバター料理か。なんかすげー真っ白だ。
室温で固まる油か〜、獣系缶詰みたいだな。うーん、なんかマズそう。」

マズそうと、はっきり言うサトミに、仰天してリッターが妹を見る。
が、彼女はボーーーっと立ち尽くして夢見心地だった。

「王子だわ……」

「ちょ、いや、待て!お前の王子はダンクだろ?!
お前あんなにダンク好きって言ってたじゃん!」

リッターが、焦って妹に叫ぶ。

「あたいくらい抱えられなくて、何が王子よ!ダンクは却下だわ!」

セシリーの心に、何か訳のわからない火が付いた。
泡食って引き留めるダンクを引きずり、ドカドカサトミに近づいていく。

「ねえ!ねえ!サトミさん!セシリーのぉ、ご飯食べて行ってくれますぅ?」

くねっくねしながらサトミに椅子を引く。
だが、サトミはフォークを取ると肉の周りに白く固まったバターを刮ぎ落とし、ベロを出してポンとそれを放った。

「ノーサンキュー、油だらけで食えねえよ。これ食うなら軍のクソマズい食事の方が万倍マシだわ。」

帰るとでも言うように、サトミが玄関を出てダンク達の前を行く。

「……な……なんですってええええ!!ちょっと待ちなさいよ!
あなたバターがどれだけ美味しいか知らないのよ!」

「知らないなあ、知らなくてもいいやってなってる。」

「ちょ、それ言い過ぎだろ!サトミ!セシリーちゃんに謝れ!」

ダンクが思わず、サトミの襟首を掴む。
サトミは釣られてつま先立ちで、横向いてため息付いた。
ダンクが好きな女の料理をけなされて怒るのはわかる。
でも、ダンクは彼女と結婚したいと思っているのだ。
リッターの不健康さも、彼女が原因である事は明白だ。
ならば、これは自分にも関わる問題だ。

「良く聞けセシリー!この食材を、みんなが食えなくしちまったのはあんただ。
ダンクは喜んで食ったか?アニキは楽しみにしていたか?
よく考えろ!これを買った金は、アニキが命がけで稼いだ金だろ?!
バターってのが油の一種ならば、油は適量使って生かされる。
これは無駄な使い方だ。」

「無駄ですって?!あんた、何もわかってないくせに!
バターはたっぷり使ってこそ美味しいのよ!
無……無駄じゃ、ないもん!」

セシリーが、手を震わせ怒っている。
彼女は自分を全否定された気分で、サトミをにらみ付けた。
だが、サトミは両手を降ろしたまま、ダンクの手を外す事なく続ける。
彼は目を閉じて、言葉の攻撃を続けた。

「だがな、いいかセシリー、逆に油のないものを思い浮かべてみろ。
そんなもん、あんたは食いたくないだろう?
あんたにとって油が無い物と等しく、油が多すぎるモノはダンクやアニキには食えないんだ。
間を取れ、誰もが食える量に抑えろ。俺はそう言っている。」

セシリーの返事は無い。
サトミが目を開けると、襟首掴んでたダンクが手を離した。
すると、セシリーが、気を落としたふうに玄関に入って行く。

「セシリーちゃん……」

ジャッキン!

「え?」
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登場人物紹介

・セシリー・メイル

17才。プラチナブロンド、碧眼、白人ではない。

リッターとは父親違いの兄妹、可愛い系美少女。人を見て選別し、ガッツリ甘える世渡り上手。

この世はバターの為に、バターのためなら何でもやる女。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

リッターの妹ラブ。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格、主食は酒。

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀

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