第2話

文字数 2,270文字

はいこちら、高鳥陽子でございます


カチャカチャカチャ!!

良し!
受付履歴入力完了!

電話の『作業中』から『受付』のボタンを押す。

ここは、とある電気メーカーのお客様相談センターのコールセンターです。
お客様相談センターは、
商品の故障受付や使い方の相談などが、主な仕事の内容です。

ここのセンターには、オペレーターが約60人。管理職やバックヤード(事務処理やデーター投入、書類をチェックする人達)も合わせて100人ほどが在籍していた。

私の席の隣にはいつも明るい、陽子さんがいる。

「お待たせいたしました!お客様相談センターの高鳥陽子でございます!」

陽子さんは、いつも元気だ!
しかも、困っているお客様や、お年寄りの、お客様には特に親切丁寧な対応をする。
だがそれが返ってアダとなって、話が長くなり、
管理職の SV(スーパーバイザー)の武田さんにいつも話が長いと、注意をされる。
なぜなら、コールセンターとは1人でも多くのお客様にスピーディーで満足頂くよう。徹底したマニュアルが有り、
その通りのご案内なら5分もあれば案内は終わる。
が陽子さんの場合は、お一人お一人に寄り添うような、ご案内をするため30分でも1時間でもお客様のお話を聞いていることがある。だから武田さんは、いつもの陽子さんの対応に目を光らせている。

ある日の朝礼で、

「お客様からの感謝のお言葉がきましたので発表します。」

と、課長が発表する。陽子さんの名前が上がる。

先日対応した。70代の男性の方からだった。
パソコンを買ったがパソコンの使い方がわからない。といった問合せだった。

通常私達は故障修理の受付や、動くまでの使い方の説明はするものの、
パソコンの操作方法までは案内しない。
(長くなる為)
パソコン教室に行って頂くか、パソコンの操作方法の教本をご覧頂くよう促すのみである。

陽子さんのお客様は、初めてパソコンを買われ、使う為に、取説をご覧になられたそうですが、

専門用語ばかりで、さっぱりわからない。

と言われたそうです。

陽子さんは丁寧に、電源の入れ方、マウスの使い方など、わかりやすく案内していました。

「お客様。ネズミのようなものを右手で持ち、人指し指で左側を抑えて頂けましたら三角の矢印がテレビのような画面に出ましたでしょうか?」

「はい、ブラウン管(モニターと思われる。)に出ました!」

「では、押したまま、ドラックと申しまして、マウスの矢印を横へ動かして頂けますか?」

「おー!色が変わって行きます。」

「では、スクロールと言いますが、ネズミを押さえたまま、画面の下の方まで、矢印を下げて行って下さい。」

「はいわかりました。でも、もうこれ以上、机が足りません、落ちそうです。」

「大丈夫ですか?お客様!机から落ちないよう気をつけて、頑張って下さい。」

などと励ましていた。

『陽子さん励ます場所、違ってますが、、、』

と突っ込みたくなりますが、
最後まで陽子さんは諦めず
お客様のご要望にお応えしていました。

後日、そのお客様から感謝のお礼のお電話が掛かって来て

『パソコンで、念願の年賀状が印刷まで出来ました。
高鳥陽子さんのご指導のおかげです。』

とお礼を述べられたそうです。
それが上司に評価され
今日の発表となりました。

オペレーターとしては感謝のお手紙やお電話を頂くと、今後の励みになるのです。

「陽子さん!いつも、すごいね〜!」
「さすが〜!」
と陽子さんは皆さんから賞賛されていました。

SVの武田さんは

『もう少し電話の本数を取りなさいよ・・・』

と言いたそうな顔で見ていた。

そして、午前9時いつものように
お客様からの電話が入って来る。

それから数ヶ月がたった晩秋の事。
本社の本部長の他 、普段めったにお越しにならない会社の偉い方々が、スーツ姿で、朝礼前からずらりと並んでいた。

オペレーター達はこんな田舎まで、何事か?とキョロキョロしながら自席に付く。

8:40
朝礼が始まる。
課長が挨拶をする。
「えー今日は本社から本部長並び人事課の方々がお越しです。お話が有ります。本部長どうぞ。」
と本部長が話を始めた。

「おはようございます。
今日、皆様には大切なお話が御座います。
かねてより、業務内容の見直しの為 検討につぐ検討で、残念ではございますが、当センターは本社のコールセンターと統合する事となりした。
よって、当センターは来月一杯で閉鎖となります。
移動内容は選択肢を幾つかご用意しておりますので、各自でご判断頂き、ご希望に添えるようご尽力致します。」

と本部長自ら私達に頭を下げた。
そして他の人事課の方々も一斉に頭を下げた。

『えー!クビって事?』
『来月って12月じゃん。』
『年明けから無職?』
『次の就職先ってどこ?』
『本当に仕事斡旋してくれんの〜〜?』
『本社のコールセンターなんて新幹線で3時間もかかるから、通勤なんて無理〜』

と皆んなの心のつぶやきが聞こえた。

9時5分前
自席のパソコンにスイッチを入れて『受付』ボタンを押す。インカムをつける。

9時
いつものようにお客様からの電話が入ってくる。

陽子さんは明るく
「はい !こちらは、お客様センターの高鳥陽子でございま〜す。」

と相変わらず元気だ。

あぁ〜、私達はこれからどうなるの〜〜??

誰か助けて〜〜



続く。





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