第1話

文字数 1,374文字

「オイ、オマエ」

 足下から声がしてふと見ると、目玉が転がっていた。目玉??
 2度見したが確かに目玉。

「ナニヲミテル」
「何を見てるってあんたが呼んだんじゃないか」
「ソウイエバソウダナ」

 キョロキョロと見回してもここは公園沿いの道端で、他に音源はなさそうだ。

「ドコヲミテイルノダ、コッチダ」
「あんた難しい人だな。見ていいのかよくないのかどっちだ」

 目玉をつまみあげると、指先にグネグネとした妙な感触が広がった。湿ったピンポン玉のような柔らかい卵の殻のような。振ってみたが機械音はない。作り物にしては虹彩が高精細すぎる。やっぱり目玉?

「メガマワッタ」

 MEGA回ったのか。それはなんだか申し訳ない気分になってきた。遠心力には弱い、と。
 どっから音がでているのかよくわからないが、声は目の前の目玉からしているのだけは確かなようだった。

「えっとそれで俺に何か用?」
「グヌヌ、我ヲ探シテホシイノダ」
「ここにいるよ」
「ソウデハナク! モトノ体ダ!」
「もと」

 目玉ということは体が生えていたのかな。なんとなく茶碗に入った目玉が脳裏に浮かぶ。まぁ暇してたから丁度いい。そんな不思議生物にはお目にかかりたい。そもそも暇じゃなければ公園の周をウロウロしていないがな。

「そんで元の体ってどんな体?」
「人ノ体ダ」
「どこに落としたか心当たりある?」
「落トシタノデハナク、落トサレタノダト思ウ」

 うん? この目玉を落とした、ということは対象は目玉より大きなものだよな。そうするとひょっとして人サイズなのかな。

「お前、人なの?」
「他ノ何ニ! ミエルトイウノダ!」

 ごめん、目玉にしかみえないや。よく考えたら人の目玉かどうかもこの外形からはわからない。人だって言ってるから、なんとなく人かなと思ってただけ。

「落とされたのはこの公園なのかな」
「ソウダナ、オソラクハ」

 うーん、目玉を落としてそうな人? 目玉が無くなればわかるよね。気が付かないなんてことはないよね。探しに来たりはしないのかな。でも目玉が落ちたらすぐわかるよね、秒で。思わず2度言うほど自明。

 周りに誰もいないということは、落とした人は落としたことがわかった上で立ち去ったっていうことだ。この目玉が不要ってことか? まあ、自分の目玉が喋ってたらうざいよな。

「お前、煩くしすぎたんじゃないの? なんか偉そうだし」
「バカナ! 我ガ意識ヲ得タノハ、ツイ今シガタダ」
「今意識が産まれたの? ええと、それじゃ今自然発生的にポップアップしたんじゃないの?」
「ム? ナニ? ドウイウコトダ?」
「俺もよくわからないけど、目玉として突然今ここに発生した」
「ソンナコトガ有リ得ルノカ?」
「俺にとっては目玉が喋ってること自体が既に妖怪的でファンタジーで、POPにUPするのと驚きは変わらないよ」

 目玉は静かになった。考えてるのかな、よくわからん。目だけだと、マブタもマユゲもないと表情がわからんものなんだな、と思った。

「我ハドウシタラヨイノダロウ……」
「このまま転がってたら子供か自転車に踏まれると思う」
「ソ、ソレハコマル」

 とはいってもなぁ。どうしたらいいのこれ。うーん。

「よくわからんけど、とりあえずウチくる?」
「ヨイノカ?」
「まぁ、なんかの縁だし」
「恩ニキル」

 そんなわけで俺は目玉を拾った。今もうちでぷかぷかと湯のみ茶碗に浮いている。
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