夏の暑さ

文字数 486文字

「おはよう」
「やあ、今日も早いね」
 京都の夏の暑さは、今も昔も変わらない。
 私は、できる限り早い時間に家を出て、自転車で高校へと
 ペダルの上に足をのせて、疎水のほとりの遊歩道を一日二回往復する。
 人はそれを通学と呼ぶ、今も同じように新しく制定された制服に身を包んで
 あの学び舎に集う後輩たちは、確実にいる。

「これって、誰がやってるのか、みんなは知らないだろうね」
「別に時間があるから、暇だし」
 林くんは緑の黒板を黒板消しで丁寧に端からきれいに消しあげる。
「お願いが、有るんやけど」
「ふふっ、いつものあれ?」
「うん、ごめんね。貸してくれるとほんまに助かる。というか、お願いします」
 黒板消しを置くと、ゆっくりと林君は前から三番目の机の上に置いた黒い
 通学鞄の中から数冊ノートを出すと、そっと置いてかすかに笑った。
「字がきれいじゃないから、そこは恥ずかしいけど、きっと間違いはないはず」
「いつもごめんね。今度学食で焼きそばパンとか買うから、お返しするよ」
「お弁当あるから、そんなのいらないよ」
「お返ししないと、帳尻が合わないから」
 私の中のささやかな正義というものに似た何か。
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