6-3 亡き父

文字数 1,414文字

 星弥(せいや)を助けると決めた(はるか)蕾生(らいお)は急いで学校を後にし、鈴心(すずね)に連れられて銀騎(しらき)家の邸宅に着いた。
 どうぞ、お入りください
 驚いたな、自宅で処置をしてるの?
 詮充郎(せんじゅうろう)が一番関心のない場所がここなので
 ……

(ジジイらしいな。反吐が出る)

 特に星弥(せいや)の部屋は詮充郎(せんじゅうろう)による監視の目がないので、そこに機材を運んでおに──皓矢(こうや)が診ています
 いいよ別に、言いにくかったらお兄様でも


 しかしあれだね、彼女は結局実験の失敗作として詮充郎(せんじゅうろう)に見放されたんだ?

 はい。でもその方が幸せな人生を送れるだろうと、お兄様も奥様も星弥(せいや)を慈しんできました。なのに──
 今になってこんなことになったのは、俺達と関わったからか?
 さあ……そこに因果関係があるかは私にはわかりませんが
 まあ、全く無関係ってこともないだろうね
 その辺については私では知識が乏しいので、お兄様から説明があると思います
 応接室で数分待っていると、皓矢(こうや)がやって来た。
 ああ、来てくれたんだね。ありがとう
 星弥(せいや)はどうですか?
 ──特に変化はないよ。良くもなっていないし、今のところ悪化の兆候もない。母さんが側についてる
 そうですか……
 さて、君達に協力を仰ぐには──詳しい説明が必要だろうね?
 そうだな、「誠意」ある対応を頼むよ
 もちろんだ。星弥(せいや)鈴心(すずね)が研究所のキクレー因子実験体だと言うことは聞いたね?
 まあ、簡単にはね
 この計画、我々はウラノス計画と呼んでいるが、始まったのは二十年以上前──君達の前世においてお祖父様といざこざがあった後だったと聞いているのだけど、覚えていることはあるかい?
 そりゃ、前回にあったことぐらいは覚えてるけど、この件に関しては全然知らなかったね


 リンの魂をお前達が誘拐してその実験に使ったなんてのはさっき聞いたよ

 そうかい。さぞ憤慨したんだろうね


 僕はその頃四歳で、当時のことは何も見ていないのだけど、君の仲間の魂を奪取したお祖父様と亡き父に代わって謝罪するよ。すまなかった

 形式的な謝罪はいい。その先の説明をしろ
 ──手厳しいね、わかった


 この実験は当初お祖父様と父が、父の死後は佐藤という研究員がお祖父様を手伝って進められた


 僕が具体的に関わったのは、すでに星弥(せいや)鈴心(すずね)も生を受け、さらに星弥(せいや)は不適合と判断されたずっと後だから、正直言ってわからないことが多い

 なんだよ、頼りないな
 それでも、実験記録はお祖父様から全て見せてもらったから、頭ではおおまかなことはわかっているつもりだ
 ふうん、それで?
 簡単に言うと、星弥(せいや)の体内にはキクレー因子とそれを活発化させる術式が組み込まれている


 これは父の術式で、科学と陰陽術……というか父独自の呪術を融合させた、ある意味常識外れの技術だ

 なるほど。息子は天才だって、そう言えばジジイが自慢してたな
 ああ、君達は父にも会っているんだね


 父は銀騎(しらき)が始まって以来の超天才陰陽師だった


 同時にお祖父様から科学者としても育てられたハイブリッドな人だったんだよ

 ──お前もそうなんだろ?
 どうかな。確かに銀騎(しらき)の次期当主ではあるけど、能力はごく普通で父には遠く及ばないし、科学者としてもお祖父様の足元にも……
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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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