プロローグ(1)

エピソード文字数 2,826文字

「ヤバ……。敵襲来に気を取られて、大事なことを忘れてた……」

 1年間の同居が決まった日の翌々日、具体的に言うと8月8日の午前8時24分。ダイニングテーブルで新聞を読んでいた俺は、頭を抱えた。

「『近々』って言ってたのに…………完全に抜けてた……。マズイ…………どうすりゃいいんだ……?」
「にゅむ? ゆーせー君、どーしたのー?」

 キッチンで皿洗いをしてくれていたレミアが、コクンと首を傾ける。
 どうでもいい情報ですが、発表しておきますね。今のは、本日41回目の『にゅむ』になります。

「うふふ、私には分かるわ。従兄くんが忘れていたのは、アレよね?」
「『アレ』? シズナ先生、それってなんなが?」

 スーパーのチラシを見て『今日からある高知フェアで、ユズ先生のドリンクを売るらしいぜよ! 高知といえばヤマモモ先生だから、絶対買いたいにゃぁっ』って別の商品とごちゃ混ぜにしていたフュルが、誘うように太腿を見せていた変人――失礼。俺の隣に座ってる、シズナという変な生き物に疑問符を投げかけた。

「ふふっ。答えは、ね」
「答えは…………なんなんぜよ?」
「可愛い従妹へのキスよね?」
「ちげーよバカふざけんなマジで焦ってるんだから黙れ!」

 息継ぎなしで怒鳴ってやった。
 この、アホ魔法使い魔王……! 朝っぱらから――

「んぁはんっ」

 アホ魔法使い魔王は、ビクンとなって内股になる。
 コイツは、そうか。朝っぱらから、俺を誘導しやがったんだ。

「はぁ、んっ、はぁ、はぁ……。今日もいいわよ、従兄くん……!」
「はーいありがとうございまーす。あのね、レミアフュル」

 いつもの対応で奇人をスルーし、話を戻す。暫くの間、クネクネクネクネしてる人は無視しますねー。

「俺は明後日から、三泊四日で本物の従妹の家に――高知に行かないといけないんだ。でその移動法が飛行機なんで、困ってるんだよ」
「にゅむ? ゆーせー君って、飛行機(ひこーき)さんが苦手なのー?」
「問題点は、ソコじゃない。チケットは一枚で俺しか搭乗できないから、その間は護ってもらえなくなるんだよ」

 皆様ご存知の通り僕チンは、決定戦の結果がバッチリ知れ渡るまで狙われる。例の『金硬防壁』で防御は可能だが、制限時間があるので単独行動は心配なのだ。

「この時期は高知の便でキャンセルはないだろうし、よしんばあっても非地球人は乗れない。どうするかね……」
『そりゃ、あれだ。身分を偽装すればいい』

 謎の声、それバツ。そういうのは犯罪だ。

「レミア達は、絶対に搭乗できない。さりとて、何があっても行かないといけない。どうしようかな……」
「にゅむんっ! にゅむむむー。にゅむん!」

 レミアが顔を綻ばせ、得意げに胸を叩く。
 うん。なにを仰ってるのか理解できません。

「レーミーアー。日本語に訳してー」
「えとねえとねっ。あたしだったら、ご一緒できるんだよーっ」

 △З※◇Д――イカンイカン。あまりに予想外の発言だったので、人語以外の何かが出た。

「ホント!? どうやってやるの!?
「にゅむむ。あたしは背中から、翼さんを出せるでしょー?」
「ああうん、金色のやつだよね。それをどうするの?」

 あれって実はとても軽いメガネのように超軽量化がされており、その影響(初代が悪ふざけをした結果)によって独り用となっている――魔王のも勇者のも定員1名で、俺を抱えて運べないってのは周知の事実だ。
 レミアさん。一体全体、どんな新しい使い方を教えてくれるんスか?

「ゆーせー君を、抱っこして飛ぶんだよー。そしたらずっとお傍にいられるよっ」
「はーい却下だよー。あれはお一人様専用で、重量オーバーになっちゃいますからねー」

 まさか、周知の事実を本人が忘れているとは。うっかりにも程があるぞ。

「にゅむっ。そだったよー!」
「はぁ……。悪いけど、キミも少し黙っててね」

 にゅむん。俺は長嘆息して、フュルに顔を向けるにゅむ。

「勇者魔法使い様、貴女はどう? 複数人ワープできる魔法、なんてのはないよね?」

 航空会社さんには申し訳ないがキャンセルをして、四人で転移する。これが可能なら解決するんだけど、どうでしょうか?

「そういうのは、あるにはあるがぜよ。ただ、そっちは世界先生に……えーと……及ぼす力が強すぎて、同じ世界内でワープすると空間が裂けて世界が吸い込まれるがよね」

 嗚呼、過ぎたるは尚及ばざるが如し。まぁこれまで使用してないんで期待はしてなかったんだけども、この理由は凹むな。

「ねえフュルさん。それは、異世界を挟め――いえ、なんでもないわ。なんでもないのよ」

 落胆していると、だ。興奮状態から戻ったシズナが、一歩前に出てすぐ一歩下がった。

「…………これは…………。熟成させて、あの日に出しましょうか……」
「ん? なんだって?」
「ううん、こっちの話よ。従兄くん、あるのに不可能というのはショックよね」
「ああ、全くだよ。なあフュルちゃんや、一時的に対象を弱くする魔法とかないの?」

 RPGの定番、弱体化。それを自分に使えたら四人で転移できるのだが、どうかな?
 って希望を抱いてみたけど、そういうのは×だろうね。世の中、そう甘くはないでしょう。

「スマンぜよ。こっちもあるがやけど、ワシは魔法の耐性がありすぎて自分には効かんがよね」

 ちくしょう! 控えめにしといたら○になると思ったのに、ならなかった!

「耐性先生を減らせたら、自身にかけれるがやけどにゃぁ。残念ぜよ」
「従兄くんフュルさん、残念がらなくていいわよ? そうする方法はあるから」

 これは嬉しい誤算。ガックリ肩を落としていたら、シズナがウィンクをした。

「伝説の魔法使いの耐性は、魔力によって強化されているの。だから魔法を連続で放って一時的に魔力を減らしたら、自分に効くようになるわよ」
「おおっ、流石は元伝説の魔法使い! 助かったよ!」

 俺は何度も何度も拍手を送る。
 いや~、この人は変人じゃなかった。魔法に精通した変人だったぜ。

「にゅむむっ、そんな方法(ほーほー)があったんだねっ。ビックリだよー」
「ワシもぜよっ。してシズナ先生、何回放ったらその状態になるが?」
「そうね。残り50%くらいにすればいいから…………『赤黄(あかき)の激昂(げっこう)』を、10000回でいいわよ」

 ここで豆知識。『赤黄の激昂』とは、一発でアジアを壊滅させられる魔法らしい。
 そんなのを一万発撃っても、まだ半分あるのかよ……。なんなんだコイツは。

「ふむ。それなら、出発前に空間を乗っ取ってやればいいがやね。師匠、手段があってよかったぜよ!」
「そだね。感謝感激だよ――ぁ」

 一難去ってまた一難。また、問題点に気づいてしまった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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