第1話
文字数 2,432文字
その大地震による被害は甚大なものだった。
そして、僕だけじゃないことは分かっているけど、先程まで感じていた幸せが感じられなくなった。
全く、感じられないのだ。
…そして。
今のこの惨状を見ては、ただ言葉を失うのみだ。
街が燃えだす。
我が国の日の丸の国旗のように…燃えていた。
それをみた僕は…
逃げて、逃げて、逃げた。
また大地は揺れた。
余震でもこの威力だ。
街が壊滅状態になるのも無理もない。
だが、父さんはどこだ?僕のたった一人の家族がいない。
そんなことを考えながら僕は里親であるお父さんと出会うまでの…自らの過去を思い出していた。
そこには、遥香ちゃんとの淡くて、まるで暗闇に射す光のようで、眼を塞ぎたくなるような、思い出も含まれていた。
(………………)
僕は生まれた。
僕の血の繋がった親は僕の味方ではなかった。
惨憺たる日々だ。
毎日、父親に殴られ、蹴られ、母親にも飯を抜かれ、拘束されたりした。
家庭暴力の日々だ。
何故親は自分のことを産んだのか?
何故僕は生まれたのか?
殴られる。
親に土下座して食糧を分けてもらう。
食べる。
吐く。
なんのために?
眠る。
生きる。
なんのために?
…
……
……僕が8歳になった春だ。
僕の血の繋がった親は交通事故に遭って死んだ。
それからすぐに、僕は孤児院に預けられた。
孤児院での日々も暴力に満ちていた。
その孤児院の職員による児童虐待は普通に考えて、凄惨なものだった。
でも、僕は普通じゃなかった。
僕はその児童虐待でさえも楽に思えたのだ。
だから、僕は泣かなかった。
むしろ、何も表情がなかった。
もう壊れてたんだ。
僕は…もう人間じゃなかった。
人間失格だ。
そんな僕を恐れてか、周りの子供達は逃げていった。
誰も僕に近づかなった。
遥香ちゃん以外は。
同年代の少女である遥香ちゃんは僕を人間にしてくれたんだ。
初めてだった。
こんな温かさは。
温かかった。
ただ、遥香ちゃんは温かった。
初めて僕の涙がポロポロ落ちてきて、止まらなくなったのを僕は覚えている。
遥香ちゃんはその温かさで壊れた僕を治してくれた。
……でも。彼女は死んだ。
思い出すだけで辛いから…遥香ちゃんの回想はこれぐらいにしておくよ。
…
………
…………そして、彼女の死の少し後に、父さんに出会ったんだ。
出会った日は土砂降りの雨だった。
孤児院を抜け出した僕は当然、金もなければ、食糧もなく、学校にも行けなかった。
そんな時に、傘を持った中年の男の人が現れた。
それが…僕のたった一人の父さんだった。
父さんは、僕を傘で、大雨から守ってくれただけじゃなく、里親になってくれた。
そして、僕に一日三食の生活を与えてくれて、さらに好きな服を買ってくれて、ちゃんと人間らしい普通の家に住ませてくれて、学校にも通わせてくれた。
まるで夢みたいだった。
僕はちゃんと人間になれたんだって嬉しかった。
でも…遥香ちゃんが隣りにいないことは悲しかった。
だけど、それでも。
そんな生活を与えてくれて本当にありがとう。僕の里親になってくれて本当にありがとう。お父さん。
これからも、父さんは僕のたった一人の家族だよ。
(………)
僕は、大切な家族を街中探し回った。
父さんを探した。
明日も見えない世界で。
僕は足の皮が擦り剝けて、痛くなったのを我慢して、探した。
だが、遂に見つけた。
そこに、父さんがいる。
…?
…父さん?あの光の前にいるのは…本当に父さんか?
月が綺麗な夜明けの未明に、遂に僕は足を止めた。
倒壊した建物の中、たった一つ、不自然にも、そう。不自然にも…その光はそこにあった。
しかし、驚くべきことはそこではなかった。
なんと、お父さんは、その光に入ろうとしていたのだ。
『父さん!』
僕は叫んだ。
すると、父さんは涙を流した。
こんな父さんの顔は初めてだった。
『俺は今からあの世界に行く。俺は、これからこの世界を救うためにあの魔王を殺しに行く。ごめんな。恭吾。お前が中年のおじさんになるまで、ずっとお前と一緒だって言ったのにな』
え?…待ってよ。父さん。
『頼む……恭吾。これはお前の役目じゃない。だからよ。お前は幸せになれ。いや、なってくれ』
父さんは泣きながら、微笑んでいた。
きっと、無理に微笑んでいるのが強張んでいて、悲しそうな表情ですぐに分かった。
『愛してるぞ!恭吾!!』
『父さァん!!』
父さんが光の中に入った。
すると、信じられないことが起こった。
父さんは消えた。
父さんの影はそこにはなかったのだ。
どうして?って思ったけど、理解するよりも前に、足を動いていた。前に踏み出していた。
僕には、躊躇する理由はなかった。
どうせ、この世界では僕は笑えない。
それに。
もう大切な人を失うのは嫌だ。
(………)
僕は光の中に入った。
すると、急に目の前が眩しくなって、真っ暗になった。
正直、怖かった。
自分がこれからどうなるのかって。
ずっと考えてた気がする。
そんなことを考えてたら、辺りが光を取り戻した。
(………)
目が覚めた。
だけど、そこにさっきの光はなかった。
辺りは自然の豊かな森だった。
近くには大きな丘陵もあった。
そして、辺りを見渡したら、川があったので、飲める水か確認しに行った。
とりあえず、これで、飲み水を確保できるかなって…思っていたんだ。
でも、この世界は甘くなかった。
水を飲もうとした僕を奴は狙っていた。
水上の捕食者ワニ?だ…
…??いや、違う。
こいつはワニじゃない。
もっと得体の知れないナニカだ。
奴は僕の首をめがけて飛び出す。
死んだ…そう思った。
だけど、バアンっていう音がすると、そのナニカはエネルギー弾みたいな…魔法のような力で首を貫かれ、血を流して死んだ。
僕は胸をなでおろしていた。
しかし、そこに現れたのは人ではなかった。
杖を持った兎だった。
その兎は言った。
『君は…人間か…?魔族じゃないのか?あの…1000年前に魔王によって滅ぼされたあの知能の高い種族か……フフッ。これは面白いな』
僕はその兎の言っていることがよくわからなかった。
だけど、いずれ思いしらされることになる。
この世界の残酷さを。
そして、僕だけじゃないことは分かっているけど、先程まで感じていた幸せが感じられなくなった。
全く、感じられないのだ。
…そして。
今のこの惨状を見ては、ただ言葉を失うのみだ。
街が燃えだす。
我が国の日の丸の国旗のように…燃えていた。
それをみた僕は…
逃げて、逃げて、逃げた。
また大地は揺れた。
余震でもこの威力だ。
街が壊滅状態になるのも無理もない。
だが、父さんはどこだ?僕のたった一人の家族がいない。
そんなことを考えながら僕は里親であるお父さんと出会うまでの…自らの過去を思い出していた。
そこには、遥香ちゃんとの淡くて、まるで暗闇に射す光のようで、眼を塞ぎたくなるような、思い出も含まれていた。
(………………)
僕は生まれた。
僕の血の繋がった親は僕の味方ではなかった。
惨憺たる日々だ。
毎日、父親に殴られ、蹴られ、母親にも飯を抜かれ、拘束されたりした。
家庭暴力の日々だ。
何故親は自分のことを産んだのか?
何故僕は生まれたのか?
殴られる。
親に土下座して食糧を分けてもらう。
食べる。
吐く。
なんのために?
眠る。
生きる。
なんのために?
…
……
……僕が8歳になった春だ。
僕の血の繋がった親は交通事故に遭って死んだ。
それからすぐに、僕は孤児院に預けられた。
孤児院での日々も暴力に満ちていた。
その孤児院の職員による児童虐待は普通に考えて、凄惨なものだった。
でも、僕は普通じゃなかった。
僕はその児童虐待でさえも楽に思えたのだ。
だから、僕は泣かなかった。
むしろ、何も表情がなかった。
もう壊れてたんだ。
僕は…もう人間じゃなかった。
人間失格だ。
そんな僕を恐れてか、周りの子供達は逃げていった。
誰も僕に近づかなった。
遥香ちゃん以外は。
同年代の少女である遥香ちゃんは僕を人間にしてくれたんだ。
初めてだった。
こんな温かさは。
温かかった。
ただ、遥香ちゃんは温かった。
初めて僕の涙がポロポロ落ちてきて、止まらなくなったのを僕は覚えている。
遥香ちゃんはその温かさで壊れた僕を治してくれた。
……でも。彼女は死んだ。
思い出すだけで辛いから…遥香ちゃんの回想はこれぐらいにしておくよ。
…
………
…………そして、彼女の死の少し後に、父さんに出会ったんだ。
出会った日は土砂降りの雨だった。
孤児院を抜け出した僕は当然、金もなければ、食糧もなく、学校にも行けなかった。
そんな時に、傘を持った中年の男の人が現れた。
それが…僕のたった一人の父さんだった。
父さんは、僕を傘で、大雨から守ってくれただけじゃなく、里親になってくれた。
そして、僕に一日三食の生活を与えてくれて、さらに好きな服を買ってくれて、ちゃんと人間らしい普通の家に住ませてくれて、学校にも通わせてくれた。
まるで夢みたいだった。
僕はちゃんと人間になれたんだって嬉しかった。
でも…遥香ちゃんが隣りにいないことは悲しかった。
だけど、それでも。
そんな生活を与えてくれて本当にありがとう。僕の里親になってくれて本当にありがとう。お父さん。
これからも、父さんは僕のたった一人の家族だよ。
(………)
僕は、大切な家族を街中探し回った。
父さんを探した。
明日も見えない世界で。
僕は足の皮が擦り剝けて、痛くなったのを我慢して、探した。
だが、遂に見つけた。
そこに、父さんがいる。
…?
…父さん?あの光の前にいるのは…本当に父さんか?
月が綺麗な夜明けの未明に、遂に僕は足を止めた。
倒壊した建物の中、たった一つ、不自然にも、そう。不自然にも…その光はそこにあった。
しかし、驚くべきことはそこではなかった。
なんと、お父さんは、その光に入ろうとしていたのだ。
『父さん!』
僕は叫んだ。
すると、父さんは涙を流した。
こんな父さんの顔は初めてだった。
『俺は今からあの世界に行く。俺は、これからこの世界を救うためにあの魔王を殺しに行く。ごめんな。恭吾。お前が中年のおじさんになるまで、ずっとお前と一緒だって言ったのにな』
え?…待ってよ。父さん。
『頼む……恭吾。これはお前の役目じゃない。だからよ。お前は幸せになれ。いや、なってくれ』
父さんは泣きながら、微笑んでいた。
きっと、無理に微笑んでいるのが強張んでいて、悲しそうな表情ですぐに分かった。
『愛してるぞ!恭吾!!』
『父さァん!!』
父さんが光の中に入った。
すると、信じられないことが起こった。
父さんは消えた。
父さんの影はそこにはなかったのだ。
どうして?って思ったけど、理解するよりも前に、足を動いていた。前に踏み出していた。
僕には、躊躇する理由はなかった。
どうせ、この世界では僕は笑えない。
それに。
もう大切な人を失うのは嫌だ。
(………)
僕は光の中に入った。
すると、急に目の前が眩しくなって、真っ暗になった。
正直、怖かった。
自分がこれからどうなるのかって。
ずっと考えてた気がする。
そんなことを考えてたら、辺りが光を取り戻した。
(………)
目が覚めた。
だけど、そこにさっきの光はなかった。
辺りは自然の豊かな森だった。
近くには大きな丘陵もあった。
そして、辺りを見渡したら、川があったので、飲める水か確認しに行った。
とりあえず、これで、飲み水を確保できるかなって…思っていたんだ。
でも、この世界は甘くなかった。
水を飲もうとした僕を奴は狙っていた。
水上の捕食者ワニ?だ…
…??いや、違う。
こいつはワニじゃない。
もっと得体の知れないナニカだ。
奴は僕の首をめがけて飛び出す。
死んだ…そう思った。
だけど、バアンっていう音がすると、そのナニカはエネルギー弾みたいな…魔法のような力で首を貫かれ、血を流して死んだ。
僕は胸をなでおろしていた。
しかし、そこに現れたのは人ではなかった。
杖を持った兎だった。
その兎は言った。
『君は…人間か…?魔族じゃないのか?あの…1000年前に魔王によって滅ぼされたあの知能の高い種族か……フフッ。これは面白いな』
僕はその兎の言っていることがよくわからなかった。
だけど、いずれ思いしらされることになる。
この世界の残酷さを。