第5話  さっそく

文字数 1,900文字

 「方針なんてあったかしら」
 「そもそも活動なんていつもバラバラじゃねえか」

 自慢げに喋る彼の隣でもう二人がひそひそと呟く。
 その様子を見てやれやれと首をふる彼。えーと、名前は龍宮院…しんと、だっけ? 多分上級生だよね……。部活なのに書記と会計がいるとか生徒会みたい。というより部長とかって居るのかな。

 「とりあえず立ちっぱなしじゃあれだから一旦、座ろうか。ソフィア、三枚座布団出して。圭志は奥からちゃぶ台をお願い」
 「へいへい」
 「分かったわ」

 返事をしながら二人はそれぞれ頼まれた物をロッカーから取り出す。見たところかなり奥から持ってきたからか、フィルムが付きの買って新品に近い状態だった。
包装してる紙の切れ目が分からないらしく獅子路先輩は爪で穴を開けてその辺に投げ出す。対照的な様子で綺麗に剥ぎ取るソフィア先輩との落差が酷かった。





   〜〜〜




「言い忘れてたけど、この部活って基本的に人に知られてはいけないんだ」

ソフィア先輩が部屋の隅にある急須でお湯を沸かしていた時、竜宮院先輩は口を開いた。その顔は先程とは打って変わり真剣なもの。詳しく説明を求めると宥めるようにゆっくりと話し出した。

 「さっきは放送部って言ったけどそれはあくまでそれは仮の部活名。三ヶ月に一回ぐらいでころころと変わるんだ。一つ前は読書研究会、その前は漫画研究部、そしてその前はグレートプリン兼ドラゴン放心界だったかな」
 
 確認しながら喋る先輩。言ってる内容は入ってきても中身が理解できない。おまけに類似性が皆無。最後のに至っては意味がわからない。なんだ、巨大なプリントとドラゴンって。

ーー何故名前を変える必要が…。そもそも論としてどうして人に知られてはいけないんだろう。

 眉間に皺を寄せ考え込んでしまう私。
 その態度は予想ができたと言った雰囲気で彼は話をすり替えた。

 「突然だけど、この学校がどうして評判がいいか知ってるかい」
 「え?」

 私は質問に疑惑の表情を向ける。
 彼はちょうど出来上がったお茶を二人に運ばせて、自身の口に運び込む最中であった。まだ熱いはずなのに一息で飲み終わると、あざ笑うかの如く不気味に顔を歪ませる。

 「昔はこんなに人気な学校じゃなかった。それこそ運動部は実績だって数年に一回あるかないか。東京なのに田舎臭くて不良も横領する結構評判も悪い学校、それが青谷畑高校だったんだ。…けど、ある校長が就任してからそれは一変した」
 
 聞くところによると、この学校の校長は学校の顔といった立ち位置で全てを管理しており、何か新しいことを始めるのにも許可がいるよう。
 その制度が導入される前は好き勝手に先生と生徒も活動できたが、それもどこまで本当かは分からない。ただ一つ分かるのは、今の青谷畑高校を生み出した親的存在は現校長先生だと言うこと。

 「あの校長は良い意味、悪い意味でも改革者だよ。ちょっとした善行の積み重ねが長い時間をかけ信頼を得るまでに至った。先生の中でも憧れ的存在なんだから。……だからこの学校にとっての亀裂の元凶なんてことは誰一人信じられないんだろうけど」
 「亀裂……?」

 不穏なワードを繰り返してしまった私に頷くように彼はニコリと頷く。そして勢いよくこちらの方向に指を突きつけた。

 「そう! 僕らの活動方針は極めて単純。この学校で生まれる亀裂をうまい具合に隠し、消すこと。現段階ではとりあえずこのくらいかな」
 「黙って聞いてれば色んな疑問点をすっ飛ばすなんて…というかそれって、普段の仕事じゃない」
 
 やれやれと言った具合にため息をつくソフィア先輩。やっぱり絵になる…じゃなくて。
 
 「試しに仕事見せたらいいんじゃねか。

を見ないうちには疑問なんて解消されねえと思うし。ま、仮入部なんてほぼ本入部みたいなもんだからな。」

 心の奥底でノリツッコミをしている中、たった今考えついたという感じで獅子路先輩が全体に意見を申していた。

ーーいやまだ決定したわけじゃないんだけどー!!
 
 興味のある部活が残ってるといえば嘘になるがここに入ることは確定事項じゃない。けれど、私の心の叫びは聞き届けられることはなく着々と先輩たちで話が進んでいく。

 「あんまり危険なのはやめたほうがいいわよ」
 「俺は去年入った時、散々連れ回されたんだが」
 「まあまあ危ないのは僕らも変わらないわけだから。んーと、旧校舎裏辺りだったら大丈夫かな?」
 「いいんじゃない。あそこってせいぜいどんなに恐ろしくても腕持ってかれるぐらいだし」

 やばい。この会話聞いてるとなお行きたくない。腕持っていかれるって何? すごく怖くなってきたんだけど。


 
 
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