文字数 668文字

 ここは夢なのか、どこからが夢なのか。まるでわからない。

 いつもの街の、いつもの通学路にあった、いつもは無いはずの古い教会。興味本位と自暴自棄、悪戯心で何気に踏み込んだのが、間違いだったのか。古い扉をゆっくり開け、軋んだ音をあげる教会の中に進んだ。ステンドグラスには、荷を抱えて杖をつく男、沼で溺れる二人の男、翼のついた悪魔と戦う男……
「変なの」
歩を進め、壇上の古びた十字架に近づいた、その瞬間に、鐘の音が!強烈に!鳴った!あまりの音に耳を塞いで、頭を抱えた……頭をあげると、この場所にいたのだ。
 見渡す限りの草原と、長い長い細道。運が良かったのは、その先に小さい点のようだが街らしきものが見えることだった。進むしかなかった。
 だが、一歩踏み込んだ瞬間に、すぐに気が付いた。ズン。お、重い。リュックが重い。慌てて中を開けてみると、そこには、例の石像が入っていた。瓢箪型の奇妙な石像。自分の顔をした石像。とにかく、不気味ではあったが、いや、不気味だからこそ、最初は入れたまま歩いたが、すぐに馬鹿らしくなって、路傍に捨てた。
「!」
顔をあげて、再び進もうと前を向いた瞬間、全身から汗が出た。先ほどまで、歩くたびに近づいていたはずの街が、次第に大きくなっていたはずの街が、また小さな小さな点に戻っている。再び街が遠のいたのだ。わけがわからない。わけがわからないが、どうせ何もかもわからないことだらけだ。嫌な気分になったが、これは悪い夢なのだ。悪い夢に最後まで付き合おうと観念して、再び、石像をリュックに入れて歩き出したのだった。
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