第2話

文字数 7,771文字

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今日もまずは、メールの確認からと。

会社の、いや、塾なのだから教室とか校舎という方がいいのかな。

豊橋の愛知大学知くにある中学高校受験専門塾言霊。

席に着けば、まずは、親御さんからの連絡の確認。

ほとんどは、生徒の学習計画の更新に対する確認と返答。

「堀尾先生、本日さっそく、聖佳が来ますね」

「定期試験まだ終わってないもんね」

「そうですね。残りが国語と音楽ですね」

「共に、実技科目だねえ」

「ですね」

仕事前に今日は何をするのかと大まかには先読みはしているし、
この仕事は四季の流れよろしく、ルーティーンのままに動いていける。

奇想天外なことはないし、
たまに、ほんとたまに、親御様からのクレーム案件があるぐらい。

とはいえ、それは雨降って地固まる作戦として、言霊メンバーで対応するしかないのだが。

「ねえ、ねえ」

席について、
パソコンを起動して、

メールを開けば、
塾長の堀尾先生と話せば、

色々と仕事はあるもので。

「睦緒君、聞いてるのー」

…………。

奇想天外は真後ろに。

何?

もうあと1時間もしないで、生徒が来ちゃうんだよね。

今は、その生徒が解く過去問の用意と
親御さんたちへの返答メール作業中なので、
あまり声をかけないでほいんだけど。

「そりゃあさあ、睦緒君の思考が私にも繋がってるからさ、
仕事関連のことをしているのはわかるんだよ。

でもね、気になったことがあるからさ」

ん?
シュシュの出自に関連すること?

何か思い出した?

「いや。どうして、国語が実技科目なのかなーって。
音楽とか技術、家庭科、体育とかならわかるよ。
でも、国語って違くないかなって」

……ん。

「ふー」

「田中くん、溜息ついていると幸せが逃げるぞー」

「いやいや、ため息をつくと落ち着くっていう話もきいたことありますよ」

「え、何ナニ。僕といるのが緊張させてしまってるの!?」

「ちょっと、違いますよー」

っと。

声に出すコミュニケーションと
心で語るコミュニケーションは
まだまだなかなかに慣れないな。

で、あれだよ。

「ごめんね。そうだよね、難しいよね」

あー、で、自分が思ったこともシュシュに伝わるってのを
自身で理解するって考えると三重の思考になるのかな。

「あ、はは」

えっと、国語はさ。

「こんにちは」

「小林さん、いらっしゃい。
 田中先生、待ってたよ」

「さ、聖佳ラスト一日。
 今日もやりますか」

「あいー」

ちょっと、生徒来たから。

「あ、うん。わかった、ごめんごめん。
 邪魔しないように、黙ってるね」

                 ◇

「はあ、もう勉強するのいやだあ」

「とはいえ、ちゃんと塾に来たんだから、偉い偉い」

「だって、ここ私ん家の帰り道だしさあ。
 それに、田中先生の口癖でしょ」

「え」

「習慣習慣ってさ。
 とりあえず、座れば手を動かすって」

「はは」

「ほんとさ、最近は考えずにとりあえず動いているって感じ。
 もう先のこととか考えると、不安になるし」

「あはは。だね」

……。

「じゃあ、まずは明日の範囲の復習をこの過去問を解いて、確認しよっか。
 その間、明日提出する学校のワークとノートをチェックするね」

「はーい」

―――――――。

―――うん。

誤字はなし、+αとしてのメモもある。
これなら、聖佳なら内申も大丈夫かな。

「ね、先生?」

「ん?」

「記述とかはあ、本文で使用するポイントだけチェックする形でもいい?」

「うん。聖佳なら、それらをまとめる力はあるし、おっけいだよ」

「やった」

―――――――。

―――よし。

あとは、ふむ。
解けてるね。

まあ、これまでにもたくさん解いてきたし、内容も解答の場所もほぼ刷り込まれてるか。

「ね、先生?」

「はい、集中して」

「いや、今日って他の誰か、この時間帯に来るの?」

「…いなかったはず。
 ほぼみんな、今日で定期試験終わっちゃってるからさ。
 聖佳も明日で終わりだし、今日がんばろ!」

「え、先生は堀尾先生だけ?」

「あー、そうだね。
 今日は16時からの小学生の授業は国語だけだからね。
 何? 何かあった?」

「お母さんがさ、明日先生にバイトに来てほしいって」

「明日か…明日の小学部が終わってからなら。20時ぐらいからなら」

「あ、ほんとに!」

「予約とか入ってるの?」

「いや、電話番もいないし、明日お母さんとマシャが夜出かけるらしくてさ。
 私一人になっちゃうのもあって」

「なるほど。俺は全然かまわないけど、お母さんに連絡しておいた方がいい?」

「いや、私から伝えておくから大丈夫!」

「わかった。
 てか、そういうことならラインで言ってくれればいいのに」

「まあ、そうね」

「はい、じゃあ、残りまだあるよ!
 集中!集中!」

……?

ふむ。

「ちょっとトイレ行ってくるから。もし終わったら、次はこっちの過去問にもとりくんで」

「うん。何、うんこー?」

「うるへー」


で。

何?

「え?」

え、じゃないよ。
わざわざトイレに来たのは、シュシュと話したかったから。
さっきから、後ろで何か言いたげだったじゃん。

「言いたげって言うかさ。
 いつも、ああして、個室で勉強を教えてるの?」

一人のときもあれば、二人のときもあるけどね。
彼女は小林聖佳。
俺が担当している生徒のひとり。

「担任制なんだ」

そ。
中学生は基本夜の部だけど、今日はまだ明日の定期試験対策があるからね。
こうして昼過ぎには来てるってわけ。

「だから、制服なんだねー。
 ツインで、前髪揃ってて、可愛らしいよね」

ん?
そんなことを言うために?

「そんなことって酷いなー。
 ね、ね」

だから、何?

「睦緒君ってさ、私が裸なのに興奮とかしないの?」

はああー!?

何を言ってるんだよ。
いやっていうかさ、そりゃ、最初見た時は興奮っていうか、
すげー驚いたけどさ。

人間じゃないとなるとさ、不思議と裸の女性を見ていたとしても、
いや、女性…?なのかもわからないけど、別に興奮はしてないよ。

ってか、ほんと何だよ?

「うーん。睦緒君って、ロリ?」

グッ…!?

「さっきの聖佳ちゃんとのやりとりを聞いててさ。
 絶対、聖佳ちゃん、睦緒君のこと好きだって」

はい?

「私にはわかるね。
 なんかすごい安心しきってるし。
 それに、何ー?

 明日のバイトってなんだよー?」

あのさ。
もう、俺戻るよ。

この時間個別料金も発生してるし、
明日のバイトのことは…どうせ、またわかることだし。

それに、その、聖佳が俺のことをどうこうっていうことだけど、
この仕事は信頼関係なの。

俺だって生徒のことは好きだよ。
好きじゃないと、やっぱり頑張ろうって思えないし。

やましいことじゃないから!

「……ごめん。そっか、仕事なのか。
 いや、こういう塾っていうのを初めて見たからなのかな。
 少し、なんだか、ね」

塾を初めてって…。
それなら、シュシュは生前は塾とかに通ってなかった。
そもそも塾が存在しない時代…いや、塾っていうのを知ってはいるのだからそれはないか。

まあ、いいか。

とりあえず、もう戻るから。

俺も背後にシュシュがいるって気にしないようにしているんだから。

「う、うん」

まったく、もう。


「よし、読解内容も、言語事項も、大分整理できてきたね。
 最後は、音読しながら、最終確認して、整えようか。

 聖佳が音読しているところで、いくつかの箇所で質問を投げかけるから即答よろしく」

「はーい」

国語は黙読や演習だけではない。
音読を通して内容の確認はもとより、人物それぞれの、作者の、視座の変換をすることで全方向からのアプローチをする。
どうしても、公立中学校の定期試験となると暗記型による得点増加に走りがちだが、
それでは、この先、大学受験を見こした際の、いやもっといえば、それ以降の社会人における対人能力にすら、
こうした国語に根差した言語管理能力や相手を思い遣るといった共感力は繋がっている。

と、堀尾先生は保護者会で熱弁するわけだが、
生徒はまあ、気楽にコミュニケーションをしてくれるし、
打ち解けあえるきっかけになるので、なんでもいいかな。

と。

「……?」

そういえば、こういう脳内思考も背後の彼女に伝わってるんだっけって、
これすらも筒抜けか。

んー。

シュシュ?

「何? 言いの話掛けちゃって」

いや、やっぱり…。

「聖佳、いい感じだね。
 かなり試験範囲の内容わかってるね」

「どもども」

「はい、じゃあ、残りもよろしく」

やっぱり、聞こえてない。
俺にはシュシュの声は聞こえているのに、他の人にはきこえない。

きっと、シュシュのことを科学的に証明しようとなんてできないのだろう。
周波数も、熱量も、質量も、そこにはない、こととして明示される。

どうして、俺にだけは、わかる、のか。

「ほんとだよね。その上、私は誰なのか、なんなのか、どうしてこんな不思議な状態でいるのか。
 てんでわけわからないよね」

上半身から天使の格好として視えるし、
声も届くし、会話も成立する。

それなのに、

周りは誰も認識できないし、
音も接触も光が反射することもない。

他の人には、そこには何もない、状態として認識されている。

……やっぱり、俺の脳の病気なのか。

「……」

「はい、そこまでかな。
 よし、じゃあ、時間でもあるし、今日はここまでにしよう」

「はい。ありがとうございまーす」

「それなら、この後は自習してく?」

「んー、どうしようかなー」

「音楽や技術家庭科の解き直しや今日渡したプリントもあるし、
 夕方ぐらいまでしていきなよ」

「はいー。
 先生はこれからどうするの?」

「軽くお昼食べたあとに、小学生の部の授業かな」

#小学生の部が終わるまで聖歌は待つ算段 それが悲劇へと

                 ◇

「睦緒くん、今なら話しかけても大丈夫?」

うん。お昼だし。

「遅いんだね」

授業前に軽くね。
食べ過ぎると、授業中におならでそうになるから気を付けないといけないけど。

「あのさー。どっからどうみても、私は女の子でしょ。
 もうすこしオブラートにい包んだ言い方があるよねー」

オブラートって、上半身裸の天使様に言われてもなあ。

あー、ひどいな。

不思議とシュシュを見て見ても欲情しないんだよね。

「それはそれで、また酷いこと言うなー。
 なになに、さっきの聖歌ちゃんみたいな、中学生がお好みなの?」」

この業界だと冗談にならないから

「え、うそ。 まさか、小学生!?」

あのね。
欲情というよりは保護欲みたいなものはあるからもね。

「私もその一貫?」

どうだろう。
シュシュは単に俺から離れられないっていう制約があるし。

そもそも人間じゃないし。

「でも、こうして、色々話し相手になってくれたりさ。
 さっきの聖歌ちゃんとの会話をきいてて思ったけど、
 睦緒くんって、教師に向いているよね。子ども好きそうだし」

どうかなー。
この仕事は嫌いじゃないから、やってるだけなのかな。
趣味っていうか。

「仕事が趣味ならいいじゃんか」

趣味って考えないとさ、
教えるだけじゃないからさ、この仕事。

どうしても、考え方が合わない保護者とかもいるし。

そういう人とのミスマッチにならないように、堀尾先生を中心に入会の際は念入りに面談するんだよね。

「親かあ」

さっきの聖歌にも実はね

「え?」

いやいや、シュシュはお母さんとか覚えてないの?

「思い出せないんだよな。私にも聖歌ちゃんみたいな中学生のころがあったはずなんだけどなあ

まあさ、今の状態が苦しいわけでもないのならさ、
とりあえず、色々と観察をしながら、思い出そうとすればいいんじゃないかな。

「だね」

お、さっそく、小学生たちが来始めた。

じゃあ、また静かなシュシュさんでよろしく。

「はーい」

                 ◇

気づいてあげる、が生徒対応。
そうか。
シュシュにも気づいてあげないと。

シュシュの意見を批判するようなこと
シュシュの存在を否定するようなこと

名前をつけた張本人がそれをした。

ノリで、安易につけた名前でも、
名前をつけた張本人がそれをした。

俺にしか見えないのだから、
俺だけは気づいてあげないといけなかったのに。


                 ◇

「はい、では起立―、気を付け、礼」

お疲れ様ー。
もう、話しかけても大丈夫?

「生徒の安全管理あるから、まだ」

はーい

「田中先生!」

「堀尾先生どうされました?」

「安全管理行くよね?」

「ええ。何かありました?」

「いや、つきさっきまで小林さんが田中先生を待ってたからさ」

「え、聖歌が? 何か質問かな?」

「それは私もきいたんだけど、違うって。
 まあ、明日が最後の定期試験だし、少し田中先生と話たかっただけかな」

「……まあ、また声かけておきますね。では、安全管理行ってきます」

「はい、よろしくー」

                 ◇/塾駐車場:夕方

「はい、こんばんはー」

小学生が帰ったら、中学生が来るんだね。
さっきの聖歌ちゃんとは別のクラスなの?

「定期試験が終わった中学校。
 学校によって、試験の日程が違うんだよ」

へー。
色んな学校から生徒が一つの塾に集まるなんて大変だねー。

「お、わかってくれる?」

いや、わかってはあげられないけど。

「というか、まだ仕事中だから、話しかけ…はい、こんばんはー。
 試験結果返ってきた? お、国語90点! すごいじゃん! さっすがー」

睦緒くんって、実は結構人気ある先生だったりする?

「……うん、この調子でいこうね。
 うん? 今日は堀尾先生の英語の授業でしょ。
 国語はまた明後日ね。いってらっしゃいー」

ごめんなさい、まだ仕事中だったね。
黙ってます。

「今日は夕方の部を迎えいれたらあがり。
 ちょっと待ってて」


                 ◇/車内:夜

「っふー、もういいよ」

……。

「何? もう仕事も終わったし、周りには誰もいないし。
 家に帰るだけだし。好きなだけ声だせるから」

ごめんなさい。

「……いいって」

私、思ったことをすぐに睦緒君にきいちゃって。
仕事中だってわかってるのに。

「……シュシュだって、自分が何者なのか、わからなくて不安で、
 それで色々知りたいってのはわかるし…って、俺も今朝からのこの現象にもう慣れてきちゃってるし」

うん。ありがと。

「そうだ。シュシュが今日知ったことを確認する目的でさ、
 ちょっとしたゲームしようよ」

え?

「今から、三つの事実…いや、事象?をお互いに言ってさ、その中の一つは
 本当のこと、残り二つは嘘を混ぜるってのはどう?」

なに、それ

「いいからさ。それなら、俺からね」

「まずは…え、これ聞いても嫌いにならないでよ」

もうなったあとかな、なんてね

「うわー。
 まあ、もう落ちるところまで落ちたらいいか」

冗談だよ

「知ってる」

あ、なんか、むかつくなー

「はは。じゃあ、仕切り直して、一つ目ね。
 俺は…競馬で約百万負けたことがある」

え、何それ。嘘であってよ

「次は、競艇で約五十万負けたことがある」

え、競艇って、ボートのやつ?

「そうそう」

なんで、二つともギャンブルなのさ

「最後に…パチンコで今まで約三百万ちかく負けている。
 さあ、どれが事実でしょうか!?」

うわあ。
うわああああ。

答えたくないよー。

「え、でもそれは嘘かもしれないよ」

間違ったら、正解は教えてもらえるの?

「いや、それは、心の中で秘めておくさ」

……最後の、パチンコで負けたやつ。

「どうして?」

それが嘘であってほしいから。
ただなあ、出会った早々にこの人、パチンコ屋さんに行ってたしなあ。

「答えはー、じゃがじゃがじゃがじゃがじゃが…」

うざー

「正解でーす!」

はあ。
だろうと思ったよ。

「まあまあ、もうさ生活の一部だと思ってさ」

一部って。
みんなスマホ見てるだけじゃんか。

「まあね。でも、昔はスマホが普及してなかったときは、
みんな死んだ魚みたいな目をして、ただ画面を見てただけなんだよ。
今は、スマホで動画も見れるし、漫画も読めるし、なんなら、小説も読めるしで、喫茶店みたいなものかな」

それなら、喫茶店いけばいいのに。

「他ごとしてるときに、当たった音を聴くと、興奮するんだよー」

はいはい。
自分のお金でやる分にはいいけどさ、人には迷惑をかけないでよね。

「ありがと」

いや、別に褒めてないし。
ってか、まさか、今からまた行くとか言わないよね?

「……ギク」

え、そのために出したの?

「いやいや、さすがに、ちょっと、シュシュと色々話をして、ほんとこれからどうするのか決めていかないと」

決めるって言われても、私自身どうしたらいいのかわからないけど。

「まあまま。
 それなら、今度はシュシュの番だよ」

えー。
そうだなー。

「早く、早く」

んー…………。

っていうかさ、私は私のことがわからないのだから、
問題三つって、正解を作れないんだけど。

「あ」

あ、じゃないよ。
私も、今更気づいたけどさ。

「じゃあさ、思い出したときに、答えはこれだったねって
言えるかもしれないじゃん」

そんな、楽天的な。

「ま、ただのゲームだしさ。
 適当に思いつくままに、希望的観測でいいからさ。
 三つ言ってみてよ」

んー………………………………。

決めた。

「お」

一つ目、私は睦緒君と恋人である。

「おお」

二つ目、私は睦緒君と家族である。

「ほうほう」

三つ目、私は睦緒君の親戚である。

「えー、何それ」

いや、私だってわからないよ。
でもさ、今も思うけど、どうして、私は睦緒君から離れられないんだろうって。
それは何か、睦緒君じゃないといけない、理由があるんだろうなって。
それなら、近しい人? かなって、思ってさ。
#共依存故に離れられない

「まあ、そうかも、って、親戚が近しい人なのかどうかはちょっと現代では異義がでそうだけど。
 そうだな、それなら」

あ、ちょっと待って。

「ん?」

じゃがじゃがじゃがじゃがじゃが…

「それは、答えを言うときでしょ!」

あ、間違えた。

「あはははっははははは。
 何、さっきはうざ、って言ったのにさ」

いやいや、ちょっと雰囲気出そうと思ったら、さっきのドラムドール思い出したんだよ。
でも、ちょっと早かったね、はい答えどーぞ。

「んー、それなら、やっぱり、一の恋人でしょ!」

え。きもー

「きもー、ってなんだよ。
 恋人…ならさ、ほら」

うわ、今、私のおっぱい見てるし。
あのね、もう気づいてるだろうけど、私、物理的に触れられないからね。

「知ってます」

観賞用おっぱいってのも、何か嫌だけどさ、そんなまじまじと見ないでよ。
エッチ。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

―――。

「どうした?」

私、今思ったんだけど、
今の私が天使ということにしてさ、それは一度亡くなったとするならさ、
どれでも、それは睦緒君にとって、不幸なことなのかなって…。

「いや、というかさ、
 今、俺に恋人はいないし、
 俺の家族に姉ちゃんはいるけど、シュシュとは明らかな別人だし、
 親戚?にもシュシュみたいな年齢はいなかったはず。
 これさ、どれも答えではないのでは?」

だから、言ったじゃんかよ。
私自身が私をわかってないのに、このゲームは成り立たないんだよー。

「あははは、やってみて気づいたね。
 まあさ、それでも、四つ目の選択肢を出せるように、思い出せるといいよね」
※フラグ 選択肢ⅰ的な

うん。
ありがと。
馬鹿馬鹿しかったけど、楽しかったよ。

睦緒君。

「ん?」

これからも、よろしくね。

「こちらこそ」

ん?

「電話? 聖歌から?」

運転しながらだと危なくない?

「ブルートゥースだから大丈夫。ってか、黙っててよ」

はーい

「聖歌、どうした? そういえば、さっき」

「…先生…」

「ん?」

「……助けて」




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