第4話(1)

エピソード文字数 2,187文字

「いやぁ~。育月は、ますます一人前に近づいたねぇ」

 翌朝。家から歩いて3分の場所にある畑で、俺は目尻を下げる。必要以上に、四方八方を警戒しながら。

「なぜかこのタイミングで旅行しちゃう爺ちゃん曰く、『一人前の者は、作業服がしっくりくる』。これに関しては一致してる人が多いから、前よりしっくりきてる育月には自信を持って言えるよ」
「そ、そうです……か? 自分はまだまだですけど、褒めてもらえて、幸せ……です」

 緑色の帽子に茶色い作業着スタイルのマイ従妹が、ピーマンを手に取りつつ照れる。
 この子は、本日も猫かぶり全開だ。農道を散歩している猫ちゃんより、猫度が高い。

「先生みたいな外見だと違和感があるはずながやけど、それがちっともないっ。愛情と熱意が……えーと……調和させちゅうがやね!」
「育月ちゃん、とっても似合ってるよー。記念に1枚、パシャリっ」

 レミアは我が家にあったカメラで撮影し、俺は撮影音に反応して飛び退る。
 いかんいかん。何に対してもビビり過ぎだ。

「? 兄様は、朝ご飯の時から、そわそわされて……ます。どうか、しました……か?」
「な、なんでもないよ。なんでもありません」

 必要以上にビクビクするのは、よくないと言う。だから少し落ち着きましょう。

「…………ふ~。これで、よしと」
「??? 兄……様?」
「ああごめんごめん。そんなことより育月、ピーマンちゃんの出来はどうですかな?」
「どれも、とても良い……です。みんな、活き活き、育ってくれて……ます」

 朝陽を受けて輝くピーマンを優しく撫で、口元を緩める。
 先の照れはキャラ作りの一環だけど、これはコイツの有りの儘の姿。偽りは少しもないのだ。

「今日の販売会でも、最高のものを、ご提供できそう……です。嬉しい……な」
「ふふっ、そりゃなによりだ。作業頑張ってね」

 この方は、風邪などの時以外は全て――袋詰めでさえも自分でやりたい人だから、あえて手を貸さない。こういう部分にも、こだわりと真摯な想いが感じられるよね。

「はい、ありがとう、ござい……ます。兄様に見守って頂けていたら、いつも以上に、はかどり……ます」
「くっ、さらっと好感度を上げるなんて……っ。やるわね、第二の従妹……!」

 俺の横で作業を眺めていたシズナが、ギリギリ歯軋りをする。
 言っとくけど、僕の従妹はこの子だけだからね? それと彼女は優星ではなく、ご近所さんへの印象を良くしてるだけだからね? と、心でツッコんだ。

(私も『兄様を護れて、嬉しい……な』とか、真似してみようかしら……? でも、それは二番煎じよね……)
「ねーねー、ここで育月ちゃんに質問ですーっ。ピーマン作りの楽しーとこと辛いとこは、なんですかー?」

 シズナが小声でしょーもない発言をしていると、レミアが普通の声で良い発言をした。
 そうそう。折角見に来てるんだから、こういうことをして欲しかったんだよ。

「ワシも、気になるにゃぁ。教えてつかぁさいっ」
「ぇっと、楽しいとこは……ですね。限界がない、というところ……です」

 育月は、ピーマンをカゴに入れて微笑む。

「この子達は、生きています……から。美味しくしたいなと思ったら、努力次第でどこまででも、美味しくでき……ます。わたしはそこも、好き……です」

 そこ『も』、好き。育月にはピーマンの素敵ポイントが多数あって、全部語ると日が暮れてしまうんだよね。

「にゅむむっ。ではでは、辛いとこはなんですかー?」
「自然に、左右されてしまう……ですね。一生懸命育てても、台風とかで、台無しになります……から」

 高知は『台風銀座』と呼ばれていたくらい、台風が多い。それに気温等も思い通りにはならないので、大自然を相手にする仕事は難しいよね。

「でも、水や土や風――自然のおかげで、こんなに成長してくれ……ます。ですから、持ちつ持たれつ、のような関係……ですね」
(持ちつ、持たれつ。時に太腿を撫でられ楽しませ、時に思い切り怒られて楽しむ、私と従兄くんみたいね)

 シズナがコテンと、俺の肩に頭を載せてきた。
 あーもー、コイツのせいでいい話がパー。このバカを畑に埋めたら、肥料にならねーかなー。

「ならないな。こんなの埋めたら、畑が腐っちまう」
「にゅむ? くさる?」
「あ~些事です。独り言だよ」

 俺はふかーくため息を吐き、喉が渇いたので回れ右をする。水筒さん水筒さん、お水を頂くにゅむー。

「伯父さんのを持ってきといて、正解だったわ。水分補給をいたしましょ――うおっ!? 誰だアンタ!」

 振り向いたら目の前に、スカートが足首まである黒いセーラー服――所謂、スケバン姿の少女が立っていた。
 こんな人は近所にいなかったから、敵!? 左肩に、短冊に目口手足がついた不思議な人形を載せてるんで…………人形を操る敵か!?

「気が強そうな吊り上がった目が特徴の、番長然とした姉御系の顔――。一度噛んだ獲物は逃がさない、そんな雰囲気のある鋭い犬歯――。細いのに出るところは出ている、異性を惹き付ける魅惑のボディー――……っ」
「し、シズナ?」
「信じ、られない。こんな事があるなんて……!」

 あの、魔法使い魔王がだ。唇を震わせて後ずさった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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