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 もう、彼の所には戻らない。そう決めて、部屋を出たのに。
「雨かよぉ……」 
 あーあ。ついてないんだよね、とことん。
 でも、愚痴ってても仕方がない。ただひたすらに、濡れながら歩いていくだけ。ああ、いやだいやだ、雨大嫌い!
 そうだ、あのヒトのとこ行こう。いつでもおいで、って、いつも言ってたもんね。

 うわ。窓辺がもう、なにこれ。鉢だらけ。なんだろ、この尖った葉っぱのやつ、やたらある。嫌い!
 わたしの好きな敷物、片付けられちゃってるし。おまけに、ベッドの脇に、これ、灰皿じゃん!
「君がこの部屋に来る間は、煙草は吸わないし、吸わせないよ。安心して」
 なーんて言ってたくせに。
 ……そりゃ、まあ、わたしもね。もちろん彼が本命だったんだけど。ここのヒトのことだって、大好きだったよ。けっこう頻繁に会いに来てたし、たまにお泊りだってしてた。彼もここのヒトも、それは承知の上だったと思うけどな。
 はあ。
 もう、どうしようかな。きっと他所だって同じだよね。あーあ。

 あっ、雨、上がったみたい。虹が出てる!
 キラキラして綺麗! 登りたい! あそこにいる雀みたいに羽が生えて、飛んで行ければいいのに。 
 ん、飛んで行けるのかな。なんか今なら、行けそうな気がする。
 
 ねえ、あなた。
 わたしがそばにいなくてもさ。いつまでもいつまでも、未練がましく食事を用意したり、わたしの使った毛布抱きしめて、泣きながら眠ったりするの、やめてね。
 彼のそういうの見てられなくて、胸が痛くて、わたし、出てきちゃったんだから。
 じゃあね。

 
 
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