第1話

文字数 1,449文字

 私の趣味は鉄道写真を撮ること、いわゆる「撮り鉄」です。
 その撮り鉄用語に中に「駅撮り」があります。駅撮りとは、駅構内で列車撮影をすることを指します。駅構内は、大回り乗車での撮影が可能であることや、駅のトイレを利用できるなどの利点があります。
 この大回り乗車とは、 JR が定めた大都市近郊区間内で、乗車経路を重複せず、途中下車❨途中駅の改札口を出ること❩もしなければ、実際に乗車する経路にかかわらず、最も安くなる経路の運賃で乗車することができる特例をいいます。
 だから撮り鉄は駅構内、主にホームで列車を撮影しては列車に乗り、次の目的の駅で下車してまた列車撮影をし、と安く効率よく移動しより多くの列車をカメラに収めることができるのです。

 ところが山形県庄内を走る羽越本線での駅撮りは違います。
 そもそも大都市近郊区間ではありません。駅の大部分は無人駅です。駅構内にはトイレもありません。
 そんな私の駅撮りの定番は羽越本線北余目(きたあまるめ)駅です。北余目駅は 1964年2月1日、国鉄羽越本線余目(あまるめ)-砂越(さごし)間に新設開業した無人駅です。相対式ホーム2面2線を有する地上駅で、ホーム上に待合室が設置されています。2004年度の乗車人員は、1日平均わずか14人です。写真1は 2016年1月24日の北余目駅です。(写真1↓)

 上り鶴岡・新津方面1番線ホームから、下り2番線ホーム酒田・秋田方面を撮りました。地元のお婆さんがお孫さんの手を引いて2番線ホームに上がり、ホームの背景の雪景色を見せていました。それぞれのホームには約6畳ほどの待合室がありますが、木製の作り付けの長椅子があるのみで、冷暖房、トイレなどの設備はありません。
 冬の降雪時の駅撮りは過酷を極めます。降る雪から逃れるために、ホームの待合室に避難します。が、そこは冷蔵庫の中と同じです。吐く息が白く凍ります。
 「只今、普通列車が隣の余目駅を出発しました。」
 放送が待合室に流れます。余目方面の線路に目を凝らします。降る雪の向こうにヘッドライトの灯が見えます。(来たっ!)
 カメラにタオルを巻きつけます。防寒着のフードを(かぶ)ります。
 シャッターチャンスが近づいたら待合室の扉を開けて外に出ます。(そらっ!!)
 後は無我夢中です。
  カシャカシャカシャカシャ
 連写します。
 ある吹雪の日、上りの普通列車から一人の撮り鉄青年が降りて来ました。彼は、自分の乗って来た列車の去り行く後姿(うしろすがた)をカメラに収めると(これを撮り鉄用語で 後追い、または ケツ打ちといいます)ホームの待合室に入って来ました。尋ねると、彼は車ではなく列車を乗り継いで東北地方を撮り鉄している筋金入りでした。
 次の上りの普通列車は2時間後です。その間、雪の降る北余目駅で駅撮りをするのです。冷蔵庫のような待合室を出たり入ったりして…。かけた時間の割に撮れる列車の本数は少なく、寒さによる冷えと疲れだけが残ります。
 私は一足先に車で帰ることにしました。帰り(ぎわ)に、彼の熱意と根性に敬意を表して写真を1枚撮りました。(写真2↓)

 2014年12月23日12:54、雪降る羽越本線北余目駅で「駅撮り」する撮り鉄に敬意を表して。

 んだんだ。
(2023年12月)
 趣味で好きなこととは言え、雪の中の撮影は寒く、冷たく、体力を消耗します。
 まして令和6年能登半島地震に被災され避難所での生活を余儀なくされている方々の劣悪な環境を思うと心が痛みます。
 体は冷えることがあっても、心だけは冷やさないように頑張って下さい。
 
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