第3話(13)

エピソード文字数 4,974文字

 ふふふっ、従妹かぁ。ここまでおかしいと、お兄さんもうスカッとしちゃうなぁっ。

「虹橋家には、恩人の『いとこ』となって支えるという仕来りがあるんです。どうか私を従う妹と書く従妹、義理の従妹にしてください」
「うっわー。その単語に義理が付くとは思わなかったぜー」
「有難うございます。これからは付かず離れずなポジションで、従兄くんを支えるわ」
「おいこら! 許可してねーだろっ!!
「ひゃんっ! 従兄くん、容赦ないぃ……っ」

 変人は両肩を抱き、はぁはぁ言ってる。
 誰かっ、誰かコイツを止めて。じゃないと、『チェンジ・マナ』を使っちゃうっ。

「あのさぁ、勝手に従妹になられても困るんだよ。大体アナタは年上だし」
「相手の年齢にかかわらず、女は従妹、男は従弟になると決まっているの。この点は些事よ」
「キミにとってはね? 俺は、そういうの困るんだってば」
「そう、付かず離れずは困るのね。でも私は貴方の優しさと男らしさに惚れたから、ずっと傍に居たいわ」

 ひぁぁぁぁぁぁぁぁっ。ヘンタイに好かれたよぉぉぉぉぉぉ!

「従妹がいけないなら、恋人候補生として振る舞いましょう。仲良くしてね、ダーリン」
「やっぱ従妹でおねがいしまーす」

 それ、苦痛。こんなヤツに、ダーリンって呼ばれたくない。

「やったっ。それじゃあ、私の事はシズナって呼んで頂戴ね」
「……えー……。なんか、アンタは呼び捨てにしたくない……」
「じゃあハニーで」
「シズナ。そこそこ仲良くしよう」

 俺が『ハニー』なんて言ったら、衆人に失笑される。優星が口にするとまるで似合ってなくて、キモいと思われるんスよねぇ。

「……はぁーあ、妙なことになっちまった……。シズナ、今度こそフュル達と合流しましょう」
「待って。もう一つ、やらないといけない事があったわ」
「貴様。従妹契約の儀式とか、おっぱじめるんじゃなかろうな?」
「違うわよ。調べとかないと、いけないの」

 彼女はボスが死んだ辺りに行き、目を閉じて地面に触れる。
 む? こりゃなんだ?

「…………『無(む)の追憶(ついおく)』、発動。………………これは、面倒事が増えちゃったわね」

 シズナは目を開けると、ため息を吐いて姿勢を戻した。

「ねえ。それ、なにをしてたの?」
「今のは、死んで間もない者の魂を調査できる魔法なの。まだ残っていたボスの魂――記憶を把握して、従兄くんを狙う同族が居ないか等を調べていたのよ」

 ぁ。真剣モードになってたんだ。

「いつもいつも、英雄様はサラッとドエライことをやってくれるなぁ。ところで話は変わるけど、魔法使いの力はフュルにあげたんじゃないの?」
「私達が交換したのは、究極奥義を除く攻撃系と防御系、それと運動神経に関わる力よ。本来の力を全て失う事は出来ない――いくつかは残しておかないと、いけないからね」

 海馬を探ってみると、初日にレミアがそんな話をしていた。詰まる所全員、バトルに使わない元の能力は持っているのか。

「ところでところでさ、今更なんだが究極奥義って貰ってよかったのかな? それを除いてるイコール、やすやすと渡しちゃいけないんでしょ?」
「死による継承以外では、極力手放してはいけないようになっているわ。でもね、『極力』だからやっていいのよ」

 最低だ。コイツらには『絶対』をつけとかないと、いつの日か滅茶苦茶しそう。

「ところでところで、ところでさあ。そっちの日本とこっちの日本って、どこが違ってるの?」
「形は同じだけど、私達の日本には都道府県がない。私達の方にはありそちらにはない、また私達の方にはなくそちらにある文化や食べ物がある。例えば私達の世界では、『侍ではなく忍者が主だった』――など、歴史が若干違っている。英雄が居て、魔物が居る。違うのはこれくらいね」
「ほぅほぅ。ところでところで、ところでところでさあ。前々から『間近にワープされて反応できない間にグサリ』が怖いと思ってたんだけども、誰もやらないからそういうのはできないの?」
「人間の周り――半径7メートル強にはその人が出す特殊なオーラのようなものがあって、それが妨げになるから転移で立ち入れないのよ。ただし英雄クラスになると、そんなのは関係なくワープできるわ。……従兄くん、そろそろ現実逃避は止めましょ?」

 立て続けに舌を動かしたら、腕組みをしてジト目を送られた。
 ぁー。『面倒事が増えちゃったわ』をなしにしようとしてたの、バレてたか。

「こっちが避けたところで、どうにもならないもんね。なにを知ったんですか?」
「昨日。貴方は、『金硬防壁』も手に入れたでしょう?」
「そだね。手に入れたよ」

 前の日に受け継ぎ、使おうとしたら使えなくて超焦った。またしても少々チビッてしまったです。

「この、せいでね。究極の攻撃技を欲してる一族だけではなく、究極の防御技を欲してる一族にも目を付けられているわ」

 ゴハッ
 口から、正体不明の液体が飛び出した。

「どこの世界も『攻撃面は自信があるけど、防御面は不安』という生物の方が多くてね。大半の生き物が今回のように従兄くんを隔離し、『金硬防壁』をどうにか壊して心臓を得ようとしてくるわ」
「…………すんごい猛者が、近くにいるのに?」

 別次元の生き者が。ゲームバランス無視の裏ボスが、近くにいるのにですか?

「『角族』のように、魔王や勇者が傍にいても怯まない種族は大量に居るのよ。『自分ならやれる』とか、妨害したり隙を突いたりしたらどうにかなると思っているの」
「ぇぇぇ……」
「しかも、一般人が究極奥義を二つも持っている――一度倒せば、最強クラスの物が二つ同時に手に入るからね。普段は積極的じゃない種族も、一か八かで狙ってくるはずよ」
「…………………………」

 俺、言葉を失う。
 こ、ここここここここここここここここっ。これって、さあ。

「これってさあ。殆どの生物を滅さない限り、平和に暮らせないんじゃないの?」
「その通りで、しかも相当大変な作業になるわね。フュルさんなら星を丸々消滅させられる――来る前に丸ごと消し去れるけど、貴方は害意のない者には危害を加えない人だから」

 この地球のように、一つの星には様々な者がいるからな。自分が楽になるからといって、無害な人を一緒に消すワケにはいかない。

「ったくフュルのバカめ、とんでもないモンをくれやがって……! と思ったけど、あれは善意だからお門違いだな」
「うふふ。そういうとこも、キュンとするのよね」

 シズナは微笑を携え、「でも安心して」と二の句を継いだ。

「従兄くんは焦って使うのを忘れていたけど、『金硬防壁』がある。発動させるタイミングを間違えない限りダメージは受けないし、私達が常に警戒してタイミングを間違えないようにするわ」
「そりゃ、感謝感謝なんだけどさぁ。その肝心の防壁さん、忘れてたんじゃなくて張れないんだよね」

 力が、全く応えてくれない。俺、嫌われてるのかな?

「……使えないのは、妙ね。そんな話、耳にした記憶がないわ」
「究極奥義が、一人に複数宿った影響じゃないの? 強い力が干渉し合って、後から入ったのは使用できないとか」
「それは、無きにしも非ずね。これから私のも渡すつもりだったから、魔法使いの究極奥義でも試してみましょうか」

 シズナは掌に、虹色の飴を出した。いつでも飴ちゃんを出せるって、大阪のオバちゃんみたいだな。

「使用できればの話だけど、攻撃防御両方に使える究極奥義があると便利でしょ? すでに大勢に狙われているのだから、もう一つ増えても大差ないわ」
「うん、そだね。大して変わらないんで、もらえるモノはもらっときます」

 俺は飴玉を受け取り呑んで、手の甲に菱形の刻印が浮かんで異能ゲット。ますます地球で一番になりました。
「ボディーは最弱なのに、アビリティーだけ最強になってきてるなぁ。んで、これはなんて御名前なの?」
「『虹(にじ)の増速(ぞうそく)』といって、自分が次にする行動を何でも最大10000倍速に出来るの。ただ従兄くんは身体がついていかないから、自動的に最少の10倍で固定されるわね」

 義理の従妹さんは、左手を2回開く。
 そんなことしなくても、両手を広げりゃ一発だろ! という怒られ待ちをしていると明白だった故、知らんぷりしたでござる。

「んもぅ。従兄くんのいけず」
「シズナちゃん、今はいらないんだよ~? ふざけないでね~」

 声を荒げると、思う壺ですからね。あえて、穏やかな口調で窘めました。

「…………仕方ないわね。能力の使い方を詳説するわ」
「ほい。お願いします」

 どうぞどうぞ。頼みますです。

「これの、一般的な使い方はね。詠唱に用いて超高速で呪文を唱えるの」

 ほうほう。詠唱とな。

「この究極奥義は単純に○○倍速くなるから、例えば――10000倍だと、発動に1秒必要な魔法が0・0001秒で使用可能となるの。これは英雄クラスじゃないと発動が分からなくて、防御はおろか反応すら出来ないわね」

 いつもいつも、コイツらはチート級だ。もしアーケードゲームにこんなのがいたら、大会では使用禁止になるな。

「ただし。従兄くんは、今の所は、魔法を使えない」
「こら伏線張るなっ! ずっと使えなくていいんだよ!」
「んぁっ! きも、ちぃ……!」

 しまった。つい怒鳴っちゃった。

「はぁ、んっ、はぁ……。だから、ね」
「はいよ」
「貴方の場合は、走る、殴る等に用いるの。そうすれば10倍速で逃げられるし、10倍速で攻撃できるわ」
「なるほどねぇ。こりゃ良い力だわ」

 億が一また逃走が必要になっても、10倍なら逃げ切れる。それにいくら凡人でも、10倍速ならパンチも当たるよね。

「発動ワードは『絶加速(ぜつかそく)』で、10倍にしたい行動をする前に言えばいいの。こっちは使えるかどうか、やってみて」
「うん。やってみます」

 俺は傍にある石ころを拾い、「絶加速」と口にして電信柱に投げつける。すると、


 ゴビュ!!


 石ころさんはいつの間にか電柱さんに当たっており、衝突の勢いで石さんは粉々になった。
 おおおっ! こっちの究極奥義は使えたぞっ!

「全てが10倍速になるのだから、当然物体が飛ぶスピードだって速くなるの。類を見ない剛速球を投げた気分は如何?」
「日本球界に旋風を巻き起こしたいと思いました」

 これならドラフト1位指名、1年目から年俸5億円も夢ではない。もっとも、この球を捕れるキャッチャーがいればの話だけどね。

「いやぁ、初めて究極奥義に感謝の念を抱いたよ。これは助かります――チョイ待ち」
「はい? どうしたの、従兄くん?」
「アナタ、普通に詳細を語ったよね? 究極奥義って、紙でしか伝えられないんじゃないの?」

 英雄2人が言ったのだから、間違いない。ワッツハプン?

「禁忌を犯して怒られようと思って以前やったら、口でも出来たのよ。それは注意を喚起しているようなもので、実際は無害で可能なのよね」
「危険だな、怒られ好き……。どんなに欲求不満になっても、犯罪は起こさないでね?」
「それは、絶対にしないわ。刑務所に入ったら、好きな時に怒られなくなるもの」

 犯罪を起こさない理由が不純っ。コイツはもうダメだ。

「……今ので、更にドッと疲れたよ……。貴女様の相手は当分魔王と勇者に任せたいんで、もう合流しましょう」
「そうね。『戦場空間』、解除」

 シズナが指を鳴らすと、壊れていた家々が復活。人間や人の声も、自動販売機の前にいた時のソレになった。

「ふむ。昨日はあんまり動いてないから気付かなかったが、空間内で移動したら戻った時もその位置になってるんだな――?」

 ありゃ? なんで……。

「? 従兄くん?」
「あ、いや何でもないよ。行きましょう」

 俺はかぶりを振り、今来た道を戻る。
 リョウは、侵入に手古摺ると豪語してたからなぁ。2人は、公園で四苦八苦していることでしょう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み