文字数 730文字

 私は記録官である。身分は、法務省直轄機関の官僚で、刑事の傍に張り付いて捜査、逮捕、取調べの一部始終を記録するのが職務である。地位は銭形平次で例えるなら、八五郎。下っ引きといったところだ。
 記録といっても私の手を煩わすことはない。ゴーグルに内蔵された高感度の小型カメラとマイクが勝手に画と音を拾ってくれる。私はただ観察するだけ。つまり傍観者であればいいのだ。
 容疑者の激しい抵抗、及び刑事の違法行為があった場合にのみ介入する義務を負う。だが、そんな事態など滅多に起こりはしない。身の丈198センチ、体重200キロ超。この私のなりを見れば、誰しも恐れ入り奉るであろうから。
 頭脳労働の捜査官や取調官を身をていして守る。つまりは、盾としての役割を兼ねているのだ。だから、署内随一の巨漢である私は、相棒として重宝がられている。盾としても申し分のない体格だし、その割には、敏捷で頗る小回りが利くからだ。
 生身の人間ではなく、ロボットを従えて任務を遂行する刑事も少数いるが、意思の疎通がままならない、との不平が常につきまとい、それを嫌う者は、ロボットを相棒には選ばない。過去には、全てがロボット化の方針であった。が、その動きに敏感に反発した現場の意見が強く尊重され、生き残った職種である。
 私は、この仕事に誇りを持っている。
 記録された映像と音声は裁判で証拠として提出される。これにより判決が覆されることはまずない。
 21世紀最後の日(2100年12月31日)、大晦日。世間は正月の準備で気ぜわしい中、私は黒ずくめの防弾防刃スーツに身を包み、ゴーグルのスイッチをオンにして、さっきから取調室の隅っこの椅子に腰掛け、警部補と容疑者のやりとりをうかがっていた。
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