エピローグ

文字数 590文字

大人になってみたところで。

   どうだろうか。これを書いた頃を思い浮かべてみても、こうした思いというものは、大人として成長する過程であれば、もっと上手に、もっと的確に表現できるようになるのではないかと、そんなことを思って書き直してみるのだけれども、既に多くを失い、既に過去を過去として眺めてみる限りにおいて、どこまでのところを他人に伝え残せるのかは、結局のところ心許ない。時が経過すればするほど、我々は既に多くを忘却の彼方に置き忘れてしまい、ひたすらに前進のみを、必死になって志して行く。そんなときに、忘却は忘却のまま、零れ落ちて顧みられることもなく、消え失せて行くのだろう。ただひとつだけ、たったひとつだけでも届いてくれればなぁと思うのは、どんな状況にあれ、『彼女』が存在していたこと自体に、彼は心から感謝していたという事実だ。過去として眺めても未来として位置付けたとしても、この時空に『貴方』が存在してくれているからこそ、いまの彼は、何度も何度もそれを反芻しつつ、『貴方』のおかげで柔らかな癒しに満たされ、慣れない社会生活において何度も何度も再生を果たして来られたのだということ。そのひとつことに対して深く感謝の念を抱いているのだということになるだろう。願わくば、彼も彼女も、神に祝福をこそ受けぬものの、等しく赦されて、安心して生き永らえられるように。そう願うばかりだ。
   
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