第97話  白竹美優視点 真実 5

エピソード文字数 3,428文字

 私をおぶったまま、更衣室から出た楓蓮さん。すぐに紫苑さんの声が聞こえてくる。


 あまりの恥ずかしさに、彼女の肩に顔を埋めました。

ん? あれ? 魔樹ちゃん? どしたん?
何だか様子が変なんです。しんどそうなんですよ
魔樹! どうしたの?
ひぃう!
いや、分からないですけど……ちょっとバイト切り上げた方が良さそうだなって
ちょっと! 魔樹っ!
ふぇう!

 私の手を持つ魔優から、即座に逃げてしまいます。

 めちゃ怒ってるっぽいので、思わず楓蓮さんの首元に引っ付いてしまいました。

ちょっと家まで連れて行きます。すぐ帰ってきますから
待って! 楓蓮さん

 魔優の制止も聞かずに歩き出した楓蓮さん。

 私の身体を抱えなおしながら、厨房を抜けて、すぐに玄関前までやってきました。

よかったら部屋まで連れて行きましょうか?
い、いえ
 部屋なんか見られたら……私が女の子だってバレてしまう。
こ、ここ。ここでいいです

必死に降りようとするけど。身体が動かなくって、ずっとドキドキしてて、呼吸もままならない。


それでも頑張って彼女の背中から降りると、私は玄関のドアにもたれかかっていました。

お部屋。み、見られるの恥ずかしい……です

そ、そですよね。すみません。

でも別に男の部屋なんてそんな気にしなくていいのに。私は気にしませんよ

 そんな楓蓮さんの一言に、また私は思いついてしまう。

 も、もし……このまま私が部屋に連れて行って、美優だとバレてしまえば……


 別に楓蓮さんにならバレても……

大丈夫? やっぱり私が部屋に運びますよ

 気が付けば、ドアにもたれながら座り込んでいました。

 手を差し伸べられると、足腰がフラフラな私は立ち上がれません。


 その時、一気に引き寄せられると、前から抱きしめられてしまいました

だけど。今日の魔樹くんは、くにゃくにゃですね


この前。私の家まで送ってくれた時。

あの時とは全然違うから……どっちが本当の君なのか、分からないけど


……無理はよくありませんよ

 これは……私じゃない。本物の魔樹のお話。


 私はすぐに返答しようと思いましたが、今の私では何もできず、ただひたすら彼女にしがみ付いていました。


 このままじゃ……恥ずかしくて気を失っちゃいそう!


 なんとか動かなきゃ!

ご、ごめんなさい!

 ようやく身体が動いてくれた。


 咄嗟に離れた私は身体をガクガクと震えさせると、家の鍵を取り出そうとします。

すいません! か、勝手に楓蓮さんにくっ付いちゃって

……別にいいですよ。

魔樹くんは信頼してますから。気にしないで

 信頼してる……

 思わずポケットから取り出した鍵が落ちてしまう。



 その時でした。私の名前を呼ぶのは魔優です。

魔樹っ!(美樹)ちょっと……大丈夫なの?
美優ちゃん。かなり具合悪そうだから、様子見て……病院に連れて行ったほうがいいかも
すみません! ここからは私が連れて行くから
分かりました。じゃあ魔樹くん。無理しないでね

 そう言ってすぐに消えてしまった楓蓮さん。

 彼女が見えなくなっても、私はその場から動けなかった。

美樹……どうしたのよ
ごめん。今日はちょっと……休ませてください……

 魔優はそれ以上何も言わず、私を部屋に運んでくれました。


 私は制服を脱がないまま、毛布にくるまると、とにかく今は一人になりたかった。

本当に……具合が悪いの?
魔優……私……ど、どうしていいか。分からない。このままじゃ、何も……できない
何かあった? お願い。教えて

お願い。ちょっと一人で考えたいの……


お仕事できなくて……ごめんなさい!

美樹……

 分からない。だけど……勝手に涙が出てくると、今にも爆発しそうな感情を押し殺すように……必死になっていました。 

分かった。とにかく休んで。喫茶店終わってから聞くから
ごめんね……まゆう
いいのいいの。だけど楓蓮さんにおんぶしてもらっちゃって……ふふっ

 そういい残して魔優は部屋からいなくなりました。



 ※



 何も出来なかった。そんな自分がとても嫌になる。



 昔から私は、出来ない人間。何かをやろうとしても必ず失敗する欠陥人間。



 いつも魔優に助けられ、励まされて、生きて来た。

 私がいつも不甲斐ないから、だから……

 魔優はこの高校から、男の子として世間に出た。



 中学時代はいつも双子で比べられて、天才な妹に、残念な姉って影で言われてた。

 私が魔優に対して、コンプレックスを抱えているのは魔優だって知ってる。



 だから魔優は……

 世間で自分と私を……比べられないようにした。

 女の子である自分を封印し、私の為に男の子になった。

 



 私と魔優は一心同体。

 だから今回の件もママに内緒で話そうと思った。


 私一人じゃきっと……何も出来ない。

 自分一人で解決できる問題じゃない。



 だけど……また魔優に頼ってしまう。

 それが自分の中では情けないと思いつつも、話そうと思った。



 そう思ってた。はずなのに……




 

 ※




 一人きりになった私は、ようやく冷静さを取り戻しました。

 ママが突然言い出すから、正直信じられない部分が大半を占めていました。


 だけど、蓮くんと楓蓮さんの今までのやり取りを思い出す度に、それが真実なのだと理解するのに……そんなに時間はかかりませんでした。

 楓蓮さんとは、昼間に会った記憶がない。

 逆に、蓮くんとは夜に会ったことがない。


 あの……遠方組で遊びに行った時も、土曜日の昼間。

 その後に楓蓮さんになって喫茶店でアルバイト……

じゃあ華凛ちゃんも……

 確か蓮くんは、華凛ちゃんと同じ年の弟がいると言ってました。

 ということは……その子が華凛ちゃんの男の子の姿……



 蓮くんと楓蓮さん。この二人が同一人物だと答えが出ている状態なのだから、後は入れ替わり体質の特性を当てはめるだけでいい。

全部繋がっていく……
 ママのいう事は、真実だと、改めて納得しました。
美優ちゃん。今日のこと。本当に気にしないで下さいね。それに……何か困ったことがあれば、俺でよければ相談にも乗ります

 蓮くんのライン。

 私がママと喋っていた時に届いたメッセージをじっと見つめていると、また目元が熱くなってしまいました。





 相談に乗ってくれる。

 私はその部分を、何回も読み直す。

相談したいのは、あなたのことだよ
 私はふらふらっと立ち上がって、喫茶店の制服を脱ぐと、裸になってドレッサーの鏡の前に立ちました
蓮くん。こんな身体でもあなたは……お友達でいてくれるのですか?

 私は目を閉じて……美優へと入れ替わる。



 鏡に向かって問いかけていました。

きっと……分かってくれる。蓮くんなら……
私達と同じ入れ替わり体質なら……きっと楓蓮さんも。分かってくれる



 ※




実は相談したい事があります。二人でお話したいです

 蓮くんにラインを送ると、すぐに返事が返ってきました。


 時間は十時過ぎ。

 恐らくバイトが終わって家に帰ってる最中だと思う。

ん? 美優ちゃん? どうしたんだ?

分かりました。それじゃあ、土曜日の昼頃とかどうでしょうか?

別に日曜日の昼頃でもOkですが、あまり時間がなくて……

 土曜日の昼頃。

 蓮くんは夕方には楓蓮さんになってバイトに来なければならない。

 だからその時間しか……逢えない。


 日曜日の昼頃も一緒ですね。

 サイクル上、学校以外で蓮くんに逢うには、基本土日の昼間しか時間がないのです。

はい。じゃあ土曜日でお願いします
 それは私も同じです。夕方には美樹になっちゃうから。


 だけど……同じ入れ替わり体質同士、妙に繋がっている感じがすると、嬉しさがジワジワと込み上げてくる。

 

 今更……本当に今更でした。

 私と同じ特殊体質の人がいる。そう考えると嬉しさで全身が震えるようでした。



 蓮くんならきっと……全てを喋っても。分かってくれる。

 

 同じ入れ替わり体質ならきっと、内緒にしてくれる。

 きっと。彼なら……私を理解してくれる。




 私を……受け入れてくれる。

 同じ入れ替わり体質ならきっと……

入るよ。って、わぁっ! み、美優?

あ、今から……お風呂でし。

すっぽんぽんでごめんなさい

そ、そう。それで……大丈夫。なの?
うん。もう平気だよ。ごめんね魔優。もう……大丈夫だから
 ごめん。魔優。


 蓮くんは、私に出来た初めてのお友達。


 だから彼の事は私が一人で、どうにか解決したい。

 蓮くん

 楓蓮さん。

 

 私はあなたと……もっと仲良くなりたい

――――――――――――――――――


 五章終わり。

 次回から、三日に一回の更新になります。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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