第2話(7)

エピソード文字数 3,494文字

「なっ……。五菜さんが――ううん、五菜さんだけじゃない……」

 彼女の隣を歩いていた御老人、俺の横を通っていた男性などなど。自分とレミア以外、いなくなっている。

「ど、どうなってんだよ……。とっ、とにかく魔王様と合流するかっ」

 俺は冷や汗を拭い、もう一人の存在している者に駆け寄った。

「にゅむ!? どーしてゆーせー君がいるのっ?」
「今は置いといて! それよりこれっ、なんなんだっ? なにが起きてるんだっ?」
「どーやら誰かが、『戦場空間』を展開したみたいだねー。この空間(くーかん)は展開者さんが直視した生き物さんと、半径30メートル内にいる『力を持つ者』さんも引っ張り込んじゃうんだよっ」

 俺の体内には、究極奥義『チェンジ・マナ』がある。そのため持つ者にカウントされ、ここにいるのか。

「そういやこの冷たい雰囲気は、夜のアレとおんなじだ。『戦場空間』には、そんな力もあったんだね」
「そーなんだよー。ご説明(せつめー)、し損ねてました」

 彼女は自分の頭をコツンと叩き、それからにゅむむん。にゅむっ子は、にゅむんと小首を傾げた。

「でも、なんで展開したのかな? 誰がなんの目的で、したのかな?」
「……心臓を食えば、能力を奪えるからね。悪者達が、異世界で独りになった魔王を殺そうとしてるんだよ」

 斜め右に身体を向け、数十メートル先にいる――日本刀を携えた、全身赤色の大男3人を見据える。
 この惑星に、肌が真っ赤の人間なんていないからな。ヤツらは異世界人だ。

「あっ、あの人たちは『レッドデス族』さんっ。力を求め力にしか興味(きょーみ)を示さない、戦闘(せんとー)民族さんだよーっ」
「俺の予想は、的中ってか。レミア、アイツら強いの?」
「かなり強いよっ。3人いれば、この星さんを半日で滅ぼせちゃいますー」

 戦闘機やミサイルがある地球を、たったの十二時間で滅亡させられるのか……。桁外れの強さじゃないか……!

「くぅっ。レミアでも、相当厳しそうな相手だな」

 全次元最強というのは、1対1での話だ。考えたくはないが、負ける可能性だってあるぞ……っ。

「そー、だね。聖剣『黄金浄化』の、下から2つ目に強い技を使わないと一撃で倒せないよー」

 шρ?
 どうもお久しぶり。また地球外言語が出ました。

「え。アンタ、2番目に弱いのだけで屠れるの?」
「そーなんだけどね、半分以上(はんぶんいじょー)の敵さんは1番下でやっつけれるんだよー。それなりに手古摺ってますー」
「そりゃ手古摺るに入らねーからね!? つーかキミが最強の技を出したらどうなっちゃうんだよ!」
「にゅむー。レッドデス族さんだったら、1対1000兆人でも1秒以内にやっつけられるよー」

 なんというインフレ。裏ボスが仲間になった状態でゲームを始めた気分だ。

「……オイ、イツマデおシャベリしてルンダ。コロシテそのチカラ、ワレラのモノにスルゾ」

 真ん中にいるレッドデス族が、機械のような声を出して刀を構える。けど敵は力の差を見誤りまくったザコ達だし、夜に死にかけたから微塵も恐怖心はない。
 ええ、すっかり感覚が麻痺しておりますね。

「サツガイ。シンゾウ、ウバう」
「キル、キル、キル。クウ、クウ、クウ」

 3人は不気味にキキキと喉を鳴らし、敵さんの視線が俺に注がれる。
 ああそうか。あちらはRPGのボス戦の基本戦法、『周りのザコを先に片付ける』をやるようだ。

「ヒフをキルぞ、ニクをキルぞ。イキノネをトメルぞ!!

 左端の大男が、地面をキック。今の標的はフツーの少年故、勝利を確信した体で迫ってくる。

「けども、無駄な努力ご苦労様です。レミア、料理してあげてください」
「にゅむっ。いっきまーす――ぁっ。両手、塞がっちゃってるーっ」

 彼女の左右のお手手には、キューリーさん達が入った袋があるもんね。このままでは攻撃ができませんな。

「その袋さんは、俺が持ってるよ。ほれくださいな」
「そ、それはブブーなのっ。これはあとのお楽しみの、サプライズ品なんだよーっ」

 彼女は、焦って一歩後退。こちらに渡そうとしない。

「あたし、ゆーせー君をあっと言わせたいのっ。だから今はお渡しできないよー」

 安い品を手に入れた時って、こんなに安かったんだぜっ! って驚かせたくなるよね。そういうの、あるある――じゃねぇ!!

「グズグズしてたら斬られる! 早く迎撃して!!
「で、でも、お野菜――んーん、サプライズ品があるの……。これは手放せないよー」
「だったら地面に置いて! 置いて迎え撃って!」

 敵、ガンガン来てるっ。急いでっ。

「けど置いたら、袋が開いて中が見えちゃう……。これもブブーだよー」
「俺はすでに中身を知り尽くしてるし、透けて見えてるからね!? んなの気にせず戦ってください!」
「にゅむぅっ、見えちゃってたの!? ゆーせー君、記憶を消してーっ」
「んなのできるか! そういうのはいいから戦闘を――もういいっ、対話は断念するっ」

 こんなことしてたら、命を失う。あれを使うとしようっ。
「レミア、攻撃して! 俺の言う事を聞きなさいっ!」

 自分は、魔王使い。命令ってのは偉そうで嫌だが、生きる為にやります。

「……にゅむ……。もー見えっちゃってるけど、そしたらもっと見えちゃう……」

 魔王ことレミアは、逡巡する。
 無茶苦茶言ってないのに魔王を使えない!? どうなってるの!?

「まっ、魔王勇者だから操れないのかっ? いいやっ、契約できているから操れるはずだっ!」

 だとしたら、もっと命令口調じゃないといけない……?
 契約解除を試みた時は結局成立しなかったので、不明。だが、これが濃厚だな!

「よっしゃっ、魔王レミアに命令するっ。袋を置いて攻撃しろ!」
「…………はい、優星様」

 彼女の顔から感情が消え、抑揚のない口調で返事をして袋を置いた。
 ふぅぅ。やっとこさ指示が効いたよ。

「力を使うと、こんな風になるのか。レミア頼んだ!」
「はい。優星様の命に従い、攻撃します」

 真ん前にいるレミアは聖剣を手にし、攻撃を行う態勢へと移行。『突き』を行う姿勢を、その場で取った。

「ぇ? なんか、こっちを見つめてないか――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!? やっぱり危なかったっ!!

 俺は咄嗟に屈み、こちらへと飛んできた剣先を間一髪で回避する。
 どうも命令ってのは発言がそのまま実行されるようで、誰々を倒せ! って事細かに言わないと、その場で攻撃をぶちかますらしい。ぼくが異変に気付いていなければ、仲間に刺殺されてました。

「にゅ、にゅむ……? あたし、何してたのかな……?」
「魔王レミアに命令する! 襲ってきている赤い大男を、たお――」
「モうオソイ。ヤイバのエジキに、ナレ!」

 ゴタゴタしている間に、敵が眼前に到達。ヤツは真っ赤な顔に薄笑いを浮かべ、物騒な得物を振り上げた。

「にゅむっ!? あわわっ、どーしよーっ!」
「殺られるっ! 俺殺られちゃうっ! なんとかして!!

 さすがにパニックに陥り、棒立ちになってアタフタする。
 ヤバいヤバいヤバいっ。死ぬ死ぬ死ぬ!

「カンタンに、ニクカイにデキルな。キョウはツイテルぜ!!

 こちらのピンチは、あちらにとってチャンス。そのため相手は少しも待ってはくれず、天高く掲げられた日本刀が全力で振り下ろされる。

「あ……」

 これは、終わった――。間違いなく、死ぬ――。
 下りてくる凶刃を見ていると、そんな感想が浮かんできた。

『優星っ! 避けろゆうせぇっっ!!

 ごめん、それはもう無理だ。俺は、殺されてしまうよ……。

『優星っっ、お前が死ぬと悲しむヤツがいるんだ!! なんとかして抵抗を――』

 している余裕、時間も、もうない。下りてきていた刃物は、ついに俺に――

「ぎゃあっ!!

 人数が大幅に減った世界に、悲鳴が響き渡る。
 でも、この声は俺のモノではない。これの主は、

「「サン、ゴウ……」」

 刃を振り下ろしていた、大男。ヤツは突然真っ二つになり、分割された肉体は砂になって消えた――死んだ。

「ど、どうなってんだ……? 誰が、コイツを倒してくれたんだ……?」


「ワシぜよっ。ワシが両断したがぜよ!」


 これまた、突然だ。夕方の色をした空から、タンクトップとデニムのショートパンツ姿の少女が降りてきた。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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