第１話 コーヒーハウスの惨劇
文字数 2,073文字
深夜0時、妖しく輝くブラッドムーンが、法を外れたならず者たちの集うコーヒーハウスを、血のような緋色に染め上げていた。
「ぎゃー、助けてくれ！」
石造りの店内は暗闇に包まれ、怒涛の悲鳴が鳴り響いた。濃厚なコーヒーの香りと血の匂いが充満する中、彼の身体は床に投げ出され、全身に耐えがたい痛みを感じていた。手足はしびれ、顔は生温かい血で覆われていた。
力を振り絞り、目を開けて辺りを見回すと、木製のテーブルや椅子、本棚はなぎ倒され、先ほど大騒ぎをしていた人たちが、変わり果てた姿で散乱していた。
「なんだ、これは。。。」
最期に彼が目にしたのは、血に飢えたモンスターだった。その目は猛獣のように緑色に光り、その指は異様に長く、爪と歯は牙のように鋭く、そこからは甘い血が滴り落ちていた。
店内が静まるのを見計らったように、４人の人物たちがなだれ込んできた。
１人目は、明るくムードメーカー的存在のソフィア。小柄で華奢な体格で、ウェーブのかかった長い金髪をポニーテールに結んでいた。
２人目は、体格の良い用心棒的存在のレオ。肌は浅黒く、黒髪を短く刈り上げていた。豪腕だが、物静かな性格の青年だ。
３人目は、子持ちで穏やかな雰囲気を持つニコレッタ。背が高く、赤毛のストレートボブで、チームの縁の下の力持ち的存在だった。
そして最後は、最年長のアルベール。髪は、ロマンスグレーのロングヘアで、眼鏡をかけ、知的で正義感が強く、チームをまとめるリーダーだ。
「アブサン！こっちだ！」アルベールが気を引いた。アブサンとはモンスターの名前だ。
ソフィアがつけた名前だった。
「いまだ！」レオが高枝切りばさみでアブサンの首根っこを挟んだ。
はさみに塗られたしびれ薬で、アブサンの動きが鈍くなっているところに、素早くソフィアが首輪をかけた。するとアブサンは気を失い、地面に倒れ込んだ。
「これで完全に動けないはず。。。」
この首輪は、魔力を弱める機能を持つアイテムで、ある修道院の魔力に詳しい修道女が特別に作ったものだった。
目を覆いたくなるような陰惨な状況にもかかわらず、４人は、慣れた手つきで暴れるアブサンを捕獲すると、店の片隅で怯えていた子供たちを救出した。ここでは児童売買の取引が行われていたのだ。
アブサンが子供には手を出さなかったということから、エマの良心がアブサンの中でまだ完全に消え去っていないことが伺えた。
子供たちを孤児院に送り届けたレオが戻ってくると、アジールメンバーは、気絶したアブサンを連れて、急いで自分たちが働くカフェへと向かった。
「最近、アブサンの残忍性やパワーが明らかに増しています」と驚きを隠せない様子のレオ。
「うん、あやうく手を噛み切られるところだった」とソフィアも同調した。
いつか自分たちだけでは手に負えなくなる日が来るのでは、そんな不安が４人の頭をよぎっていた。
アルベールたちは、社会の暴利をむさぼる悪徳者たちを掃討する影の組織「アジール」のメンバーだった。
その活動の原動力は、わずかな正義感とメンバーたちそれぞれの胸の内で燃え盛る復讐心だった。
「こんな生活、いつまで続くんだろうね」とニコレッタがぽつりと呟いた。
アジールによる掃討事件はこれまでも何度か引き起こされた。当然、刑事による捜査も何度か行われたが、アジールによる犯行だとする決定的な証拠は見つからず、いつも完全犯罪として処理されていた。
「俺たちは、できることをやるだけだ。」アルベールが強い意志を込めて言った。
アジールの闇の闘いは、これからも続いていくのだった。
そのカフェは、心のこもったサービスと選りすぐりの材料を使って丁寧に創られたメニューが魅力で、昼間はいつも多くの客で賑わっていた。
しかし、深夜になると、その雰囲気は一変する。
地下には鉄の扉で閉ざされた隠し部屋があり、そこがアジールの活動拠点だった。
カフェの営業が終わると、地下室にて度々会議が開かれ、次に掃討するターゲットについての議論がなされる。
アジールメンバーたちは、それぞれ独自の情報ネットワークを持っており、手分けして情報収集にあたり、見事なチームワークを発揮していた。
その地下室の片隅には頑丈な檻が設置されており、アブサンは、そこでチェーンに繋がれ、本来の姿に戻るまで監禁される、というのがお決まりのパターンだった。
「しばらくここで休んでね、エマ。」ニコレッタが目を閉じたままのアブサンに語りかけた。
「エマを元に戻す方法は本当にないのかしら」とやるせない気持ちのソフィア。
何もできない自分たちの無力さを痛感し、皆が沈黙する中、
「いずれにせよ、エマをこのままにしておくわけにはいかない」とアルベールが強い口調で言った。
「今、僕たちがすべきことは、エマの意思を尊重し、精一杯支えることです」とレオが神妙な顔で言葉を発した。
アブサンは、魔女の復讐の呪いが生み出したモンスターであり、アルベールたちは、そのコントロール不可能な未知の暴力に翻弄されるしかなかった。
その呪いにかけられたのがなぜエマだったのか。その問いに答えられる者は誰もいなかった。
「ぎゃー、助けてくれ！」
石造りの店内は暗闇に包まれ、怒涛の悲鳴が鳴り響いた。濃厚なコーヒーの香りと血の匂いが充満する中、彼の身体は床に投げ出され、全身に耐えがたい痛みを感じていた。手足はしびれ、顔は生温かい血で覆われていた。
力を振り絞り、目を開けて辺りを見回すと、木製のテーブルや椅子、本棚はなぎ倒され、先ほど大騒ぎをしていた人たちが、変わり果てた姿で散乱していた。
「なんだ、これは。。。」
最期に彼が目にしたのは、血に飢えたモンスターだった。その目は猛獣のように緑色に光り、その指は異様に長く、爪と歯は牙のように鋭く、そこからは甘い血が滴り落ちていた。
店内が静まるのを見計らったように、４人の人物たちがなだれ込んできた。
１人目は、明るくムードメーカー的存在のソフィア。小柄で華奢な体格で、ウェーブのかかった長い金髪をポニーテールに結んでいた。
２人目は、体格の良い用心棒的存在のレオ。肌は浅黒く、黒髪を短く刈り上げていた。豪腕だが、物静かな性格の青年だ。
３人目は、子持ちで穏やかな雰囲気を持つニコレッタ。背が高く、赤毛のストレートボブで、チームの縁の下の力持ち的存在だった。
そして最後は、最年長のアルベール。髪は、ロマンスグレーのロングヘアで、眼鏡をかけ、知的で正義感が強く、チームをまとめるリーダーだ。
「アブサン！こっちだ！」アルベールが気を引いた。アブサンとはモンスターの名前だ。
ソフィアがつけた名前だった。
「いまだ！」レオが高枝切りばさみでアブサンの首根っこを挟んだ。
はさみに塗られたしびれ薬で、アブサンの動きが鈍くなっているところに、素早くソフィアが首輪をかけた。するとアブサンは気を失い、地面に倒れ込んだ。
「これで完全に動けないはず。。。」
この首輪は、魔力を弱める機能を持つアイテムで、ある修道院の魔力に詳しい修道女が特別に作ったものだった。
目を覆いたくなるような陰惨な状況にもかかわらず、４人は、慣れた手つきで暴れるアブサンを捕獲すると、店の片隅で怯えていた子供たちを救出した。ここでは児童売買の取引が行われていたのだ。
アブサンが子供には手を出さなかったということから、エマの良心がアブサンの中でまだ完全に消え去っていないことが伺えた。
子供たちを孤児院に送り届けたレオが戻ってくると、アジールメンバーは、気絶したアブサンを連れて、急いで自分たちが働くカフェへと向かった。
「最近、アブサンの残忍性やパワーが明らかに増しています」と驚きを隠せない様子のレオ。
「うん、あやうく手を噛み切られるところだった」とソフィアも同調した。
いつか自分たちだけでは手に負えなくなる日が来るのでは、そんな不安が４人の頭をよぎっていた。
アルベールたちは、社会の暴利をむさぼる悪徳者たちを掃討する影の組織「アジール」のメンバーだった。
その活動の原動力は、わずかな正義感とメンバーたちそれぞれの胸の内で燃え盛る復讐心だった。
「こんな生活、いつまで続くんだろうね」とニコレッタがぽつりと呟いた。
アジールによる掃討事件はこれまでも何度か引き起こされた。当然、刑事による捜査も何度か行われたが、アジールによる犯行だとする決定的な証拠は見つからず、いつも完全犯罪として処理されていた。
「俺たちは、できることをやるだけだ。」アルベールが強い意志を込めて言った。
アジールの闇の闘いは、これからも続いていくのだった。
そのカフェは、心のこもったサービスと選りすぐりの材料を使って丁寧に創られたメニューが魅力で、昼間はいつも多くの客で賑わっていた。
しかし、深夜になると、その雰囲気は一変する。
地下には鉄の扉で閉ざされた隠し部屋があり、そこがアジールの活動拠点だった。
カフェの営業が終わると、地下室にて度々会議が開かれ、次に掃討するターゲットについての議論がなされる。
アジールメンバーたちは、それぞれ独自の情報ネットワークを持っており、手分けして情報収集にあたり、見事なチームワークを発揮していた。
その地下室の片隅には頑丈な檻が設置されており、アブサンは、そこでチェーンに繋がれ、本来の姿に戻るまで監禁される、というのがお決まりのパターンだった。
「しばらくここで休んでね、エマ。」ニコレッタが目を閉じたままのアブサンに語りかけた。
「エマを元に戻す方法は本当にないのかしら」とやるせない気持ちのソフィア。
何もできない自分たちの無力さを痛感し、皆が沈黙する中、
「いずれにせよ、エマをこのままにしておくわけにはいかない」とアルベールが強い口調で言った。
「今、僕たちがすべきことは、エマの意思を尊重し、精一杯支えることです」とレオが神妙な顔で言葉を発した。
アブサンは、魔女の復讐の呪いが生み出したモンスターであり、アルベールたちは、そのコントロール不可能な未知の暴力に翻弄されるしかなかった。
その呪いにかけられたのがなぜエマだったのか。その問いに答えられる者は誰もいなかった。
