こんな身長、いらない

一度、友達と話しているときに「背が高いのが嫌だ」と伝えたことがある。しかし、深刻な顔をして言ったわけではない。一応冗談っぽく、口角を上げながら、「背高いのも困るよ」みたいな感じだったと思う。私にとっては、とても勇気がいることだった。もしかしたら、場の空気を悪くしてしまうかもしれないという不安があった。一方で、これを機に高身長イジリがなくなればいいなという期待もあった。そんな私の思いは一瞬で、どこか遠くへ投げ捨てられた。
「えー？でも、身長高いのっていいじゃん！」
都合よく身長を貶し、都合よく高身長を褒める。「いいじゃん！」と本気で思っているのなら、最初からイジリなんてするなよ。本当に優れているのなら、それが笑いの対象になることなんてあるわけない。「いいじゃん！」と思っているのだから、何を言っても許されると思っているのだろうか。それとも、私が嫌がる素振りを見せないから何を言っても許されると思っているのだろうか。その友達が憎くて仕方がなかった。

この身長を本心から褒めてくれる人も、少なからずいた。「背が高いとかっこいい」「似合う服が増える」「スポーツで有利」高身長に対しては一応長所とも言える側面もあるということが、私にとっては厄介だった。また、一般的に「モテる女子」の条件として、「守ってあげたくなること」が挙げられる。その例としては、身長が低いことに加え、少し天然だったり、運動が少しできなかったり、とにかく、見事なまでに私とは正反対なのである。「似合う服が増える」と褒められても、私たちは毎日、みんな同じ制服を着て過ごすのだ。セーターの袖から指がちょこんと出る、いわゆる「萌え袖」。学校指定のセーターは入学時に親がジャストサイズを選んだため、私に萌え袖はできなかったし、やたらと値段の張る学校指定の衣類を親にねだることもできなかった。

　身長に対する誉め言葉なんて必要ない。学校という世界の中では、いかに異性に人気があるかで、ある程度の地位が決まるのだ。背が高いことに加え、それに付随するあらゆる誉め言葉は、私を「モテる」というフィールドからどんどん遠くへ引き離していった。
　背が高いということについて掛けられる多くの言葉には、悪意のあるものも多いし、純粋に羨ましいという思いが伝わるものも少なからずある。背が高いということは、冒頭でも述べたように、長所と短所が背中合わせの身体的特徴だと思う。
「背が高い」ではなくて、思いっきり「ブス」だったらよかったのにと思ったこともある。そりゃモテないだろうけど、その特徴について面と向かって言われることはなかっただろう。「ブスだよね！」は確実に相手を傷つける、言ってはいけないとされる言葉だ。「背高いね！」「デカいね！」は許されるのだ。言われた本人が傷ついたとしても、「でも背高いのっていいじゃん」と言えば、彼らは私を傷つけたことにはならない。むしろ、良いことを言ったつもりになるだろう。いいかどうかは私が決めることだ。よりによって、なんで背が高いという面倒な特徴を持ってしまったのだろう。男に生まれていれば、この高身長は確実に「モテる要素」になるのに、私は残念ながら女に生まれてしまった。

この身長のせいで、こんなに悩んでいるなんて、みんなは絶対に知らない。私も平均身長だったら、どれほど気楽にいられたのだろうか。
私は誰からも恋愛対象とされずに一生を過ごすのだろうか。

頭のてっぺんを押すと身長が縮むという話を信じて、家に帰ると両手で頭頂部を押さえつけるのを日課にしていたときもあった。学校で言われたことを思い出して、自分の部屋で壁に爪を立てながら泣いたことも何度もあった。

そんなことばかりしていた私の自己肯定感は再びドン底に陥落し、どんどん猫背になっていった。それでも、やっぱり「ただデカいだけ」にはなりたくない。テストの成績は上位に居続けるために勉強し、中学生になって入部したバレーボール部の練習にも打ち込んだ。ただでさえ「デカい」ことでマイナスな自分だ。勉強もスポーツもできなくなったら、自分の価値がなくなってしまうのではないかという恐怖心が、私を努力させ続けていた。でも、どんなに勉強やスポーツができても、私を代表する形容詞は結局「デカい」だった。毎年行われる体力テストの結果は毎年学年1位だったが、「背が高いと有利だよね」で片付けられた。私の努力ではなく結局そこでも身長に目が向けられた。そして、「すごい」という称号は、1位をとった私よりも、2位をとった小柄な子に与えられたのだった。そう、私は結局「ただのデカい人」でしかなかった。