第3話

文字数 483文字

 あの地震、原発事故。あの時の雨を忘れない。
 傘をささなかった僕も幼き息子を濡らすまじと傘さして車まで。

 黒い雨を、温い風を。

 僕らには共通の敵がいた。
 もうおしまいだと思った。
 これから生きる子供たち。
 まだ生きていたかった僕。
 きみはどう思ってたのか。

 わからないけれど、きみはすっかり忘れてしまったよう。何年かすれば元通り。けれども僕はあの雨を忘れない。放射能の事は良く知らない。けれども放射能の雨が放射能の海に注ぐ。それでも海の魚はとびきり美味しい。

 みんなが雨上がり。
 僕だけずっとずぶに濡れて、あの雨この雨思い出す。

 きみを忘れたい。世間を忘れたい。

 そしたら世間を知るしかない。

 女のひとが魅力的なのを思い出したけど、僕には何にも出来ない。

 きみに叶わぬ恋よりマシと、けれども彼女、辛そうなんだ。
 それでも関係ない。ひょっとして、きみの僕への気持ちと同じかも。

 ならば良かった。身の程知れた。

 暗い暗い、夜の雨に、とけてなくならせてはくれないだろうか。

 笑えるね。

 ほんとうにぜつぼうしてしまったんだ。

 いきていたく、なくなった。

 雨さん、サイナラだ。
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