最終話  Over The Rainbow.

文字数 2,339文字

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(通信スクランブルモード稼働中)

[sideB]

 当時真田のいた部隊が派兵されていたのはシンガポールで、地理的に戦場のあるマレーシアの目と鼻の先にあった。

 マレーシアは21世紀より中国の一帯一路(The Belt & Road Initiative…中国からヨーロッパまでの陸路と航路で結ぶ中国主導の経済圏。)に参加していた。しかし台北事変後に同国は西側に傾いた為、中国は武力行使に出た。
 一路一帯線上の多くの国…そう、かつての悠久のシルクロード沿いの国々が第三次世界大戦及びその後の戦争の主戦場になった。

 中国共産党は一帯一路を利用し、世界最大数千万の華軍兵士と、極めて高い生活水準の中華人民その両方の欲求を満たすべく、食糧と資源の安定供給を長らく維持していた。しかし近年、その需給のバランスが失われ、中国は内側から崩壊する危険性を孕んでいた。 そんな中央集権国家ならではの事情があった。
 中国共産党独裁の為には一刻も早く一帯一路を再生しなければならない。

 しかし、戦場にされた国々の住民にとってはそんな大国の政情など知った事ではない。
 その理不尽な事情に巻き込まれた国々の人達を安全に避難民として近隣国に移送する事も東南アジア地域における、新日本軍の大切な仕事だった。
 真田のいる第663部隊はクアラルンプール近くの農村に拠点を構え、近隣の住民の避難のサポートをしていた。
 そこで真田は避難民をキャンプへ送る輸送機に乗せていた。

 真田)「…こちらですよ。はい、どうぞ。ベントー2食と通信ワッペン。」

 喜屋武(元教官)「サナダ!少し休憩せんか?」

 喜屋武(元教官)がコーラを投げ、話しかけてきた。

真田は礼を言った。
真田)「オヤ…喜屋武部隊長殿!ありがとうございます。」

喜屋武)「オヤジで構わん。水臭いぞ!俺は貴様と共に戦えて嬉しく思っとる。」


 喜屋武はコーラを一気に飲み干し、本題に入った。

 喜屋武)「…ところで本部からの新たな指令がある。 …今夜、我々の部隊は12km先のTemerl0h自治区で戦っている奴らの応援に行く。なので仕事を完了したらここに部隊を集合させろ」

 マレーシアの多くの地域では今正に民主主義と独裁主義の血肉のせめぎ合いが行われている。
 連合軍は苦戦し前線が徐々に後退し、戦闘予定のなかった部隊までも次々と前線へ送られていくのは日常だった。

 なので急な作戦の変更にも疑わなかった。

 数十分後、真田と共に部隊が揃った。

 真田)「663部隊全員集合しました!」

 喜屋武)「そうか。…本当に全員いるか。」

 真田)「?」

 その時、周囲は異常な空気の揺れと衝撃音に包まれた。

 真田は直感的な反応で喜屋武を自身の方に引き倒し、トラックの後輪に身を隠した。

 …暫くして周りの空気振動が止んだ。

 一瞬だった。

 …慌てて逃げた鶏の羽根がまだ宙に浮かんでいる。

 ーすぐそばの茂みから何らかの攻撃があったようで、真田達以外の兵士の身体が辺りに横たわっている。

 敵は恐らく無音式速射砲を使ったに違いない。

  真田は思った。…なんて事だ、人民解放軍がもう前線を拡大したのか?余りにも早い。

 ー真田は喜屋武の方を振り返った。

 真田)「大丈夫ですか?オヤ…」

 銃声が響いた。

 喜屋武の怨恨は寸分の狂いもなく真田の眉間を貫いた。

 どうしても真田だけは喜屋武が自分で葬りたかったのだった。

 周りには誰も居ず、喜屋武が仕掛けたリモートの無音式速射砲だけがあった。

※ ※ ※

 国王)「…これで俺は伝説の男になり、後は世界中の人間の知るところだ。ん?なんだ?

 …泣いているのか? 

 なっとらんな!3746番!!

 俺がまた鍛え直してやる。」


 
 ー国王は拳を握り直した。




 前田)「おまはんは…許さんぜよ。

 真田を名乗る資格はないきね!」


国王)「(笑)さぁ…来い。」



 ゆっくりと顔を上げた前田は、




 独特の構えをした。





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…ここで通信を終える事にする。

 この後、前田が勝ったかはもうどうでもいい。

 いや、相手が誰だろうと父さんはきっと勝つよ(笑)。

 それより、…この第二ボタンカメラの映像はライブで全世界に配信されていたんだ。

 世界がシルバニア国王が偽物だと知った。 

 これでもうこの国はおしまいだ。


 …なにか外が騒がしい。

 窓を開けてみた。

 指導者を失った老人達が言い争いをしている。

 銃声がした。

 口論が殴り合いとなり、もう歯止めが効かない。

 TVアプリを開いてみた。

 
 若者が、

 老人が、

 国中で騒いでいる。

 
 しばらくして

 GPSとTNTはオフラインになり、

 本州と四国を結ぶ大橋は自由通行に、

 そしてシルバニアはテロ国家に指定された。

 これでもう君達にメッセージを送る必要はなさそうだ。


 …もしかしたらこの出来事は君達の時代の誰かが勇気を出して何か行動を起こした結果なのか?

 別に大した事じゃなかったかも知れない。

 歴史的になんの影響もない、個人的な行いだったかも知れない。

 それこそ見知らぬお年寄り達に必要な手を貸す、とか、好きな人に想いを告げる、とかね。

 だけどそんな小さな勇気がどんどん連鎖し、重なり、広がり、蓄積し、やがて大きく複雑な変化として昇華し、私の時代を強い時代に変えた。


 そうだ。


 きっとそうだ!


 やっぱり送信して良かった。


 …感謝するよ。


 通信は常に高い未来から低い過去へ、一方通行だと言ったが、



 ー蓄積された君達の想いは確実に僕達の未来に届いた。
 

 


 今のところはそう思わせておいてはくれないかな?




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