第2話

文字数 760文字

 それは駅に向かおうと交差点を渡りきった時だった。
 俯きながら歩いていた段田は、突然前から来たいかつい男と肩がぶつかった。
「痛っ!」
 男は派手に転ぶと、アスファルトの上で左足を摩りながら唸り声を上げている。
「すみません、大丈夫ですか」段田は腰をかがめながら声をかけた。
 ゆっくり起き上がった男は、殺気立った目で睨みつけてきた。
「てめえ、自分からぶつかっておいて大丈夫かはないだろう! いててて」
 体格は段田よりも一回り大きく、パンチパーマで筋肉隆々、黄色の派手なポロシャツに薄いサングラスをかけていた。右腕に刻まれたドクロのタトゥーが、恐怖をさらに底上げした。
 明らかにその筋の人だ、そう直感した段田は一瞬で血の気が引いた。
「おい兄ちゃん、どっかで見た顔だな。テレビとかに出てねえか?」
「ひ、人違いです。テレビなんかに出ていません」
 男は段田の顔を食い入るように見つめると、「思い出した。あんた芸人の、なんとかフミヒロって奴じゃねえか?」
 ああバレちゃった、こいつはマズい。
「はい……いや……あの……」しどろもどろになり、言い訳しようにも口が上手く回らない。
「どうやら骨が折れちまったみてえだ」男は左足を大げさに庇いながら、更に大声を出し、睨みをきかせる「この落とし前、どうつけてくれんだ! ああっ?」
 襟首を掴みながら、グイグイ迫ってくる。
 震えながら周りを見廻すと、見物人らしき人たちがチラホラ集まってきだした。
 ここは助けを呼ぶべきだろうか。しかし、段田は有名人だ。目立つ行動は出来るだけ避けたいし、ましてや、キャバ嬢とのスキャンダルの件もある。週刊誌のネタにされるのは目に見えていた。
 すこし悩んだ末、懐からサイフを取り出す。
 急いで二万円を抜き出し、チンピラ風の男に投げつけると、イチかバチか全力で走り出した。
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