第3話 完結

文字数 2,501文字

「……なるほど。話は判った。しかるにライダーを倒した、名誉あるわが部下は一体誰じゃ?」
 事件の経緯を聞かされたゴッド総帥は、威厳に満ちた態度で玉座にどっしりと構えている。切れ長の目に整った顔立ちの美少年のような佇まいだが、その実、悪魔のような極悪非道の顔を持っていることを幹部たちは知っていた。
 ヒグマ男爵は一歩前に出ると、「わたくしたちでございます総帥。我々三人が協力して仮面のライダーを倒したのであります」と胸を張った。
「ほほう、してどうやって亡き者にした? 詳しく話してみるがいい」総帥は身を乗り出しながら、訝し気に男爵を睨む。
「かしこまりました。それでは博士の方から説明させてもらいます」
 するとコウモリ博士は男爵の隣に歩み出ると、深く頭を下げたのち、胸に手を当てながら、事の経緯を語り出した。
「最初にライダーを発見したのは、わたくしでございます。深夜のパトロールのためにアジトの周りを徘徊していた時、偶然にもライダーめが侵入する場面を目撃したのです。恐らくどこかでここを探り当てたのでしょう。きっとあなた様の命を狙っていたのかもしれません。そこでわたくしは後をつけて、奴が倉庫に入っていくところを確認しました。恐らくそこで我々の様子を伺っていたに違いありません。そこで他の幹部であるこの二人に伝え、三人で作戦を練りました。三人まとめて倉庫に向かっても良かったのですが、それでは返り討ちに合うとも限りません。せっかくのチャンスですから、確実に仕留めようと我々は確実な方法を選びました」
 そこで一息ついたのち、今度はクイーンスネークが後を継いだ。
「ゴホン。ここからはわたしが説明させてもらいます。先ずはわたしとコウモリ博士がそれぞれ蛇とコウモリに変身しました。そして博士がわたしとナイフを持って、倉庫の窓に向かい、鉄格子の隙間からこっそりと投げ入れてもらいます。そこで変身を解いてライダーの背後に迫りました。奴も油断していたのでしょう。まさかこんなところに、突然わたしが現れるとは思ってみなかったみたいで、簡単に仕留めることが出来ました。しかし、わたしも反撃を喰らって衣装がはだけてしまったのです。そのまま誰かを呼んでも良かったのですが、あまりの恥ずかしさゆえに、窓の外の川の中で待機してもらっていたヒグマ男爵に声をかけて、あらかじめ用意していたロープで、鉄格子から降ろしてもらいました。後はロープを伝って外に出ると、そのまま飛び降りて男爵に受け止めてもらい、アジトの中に戻りました。それから部屋で着替えを済ませ、総帥に報告するために改めて指令室に集合し、勝利を祝っているときに、戦闘員たちが入ってきたという次第です」:
 話を聞き終えたゴッド総帥は、戦闘員Aに向かって、「その話はまことか」と問いただした。
「もちろんであります。自分は現場を目撃したわけではありませんので、詳細については分かりませんが、状況から見ても間違いないと思います」
 すると総帥は立ち上がり、両手を広げると、満面の笑みを浮かべながら拍手をした。
「でかした、三人の幹部どもよ。さすがは信頼のおける部下たちだ。これで世界征服まであと一歩。後ほど褒美を与えるから、期待しておくが良い」
 その後、総帥のねぎらいの言葉は止めどなく続いた……。

 その頃、研究室には戦闘員のBとCの手によって、仮面のライダーの死体が運び込まれていた。ライダーはベッドに寝かされ、解剖の準備が着々と進行している。
やがて準備が整い、あとはコウモリ博士の到着を待つばかりとなった。
「なあ、折角だからライダーの仮面を剥がしたいとは思わないか?」
 Bの言葉を受けてCが発言する。
「やめておけ、勝手な真似をして、博士から叱られても知らないぞ」
「そう硬いこと言うなよ。お前も気になるだろう? 少しくらいなら大丈夫だって」
「そうかもしれんが、俺は責任持たないぜ」
「大丈夫、絶対バレないから」
 Cの制止を振り切るように、Bはマスクに手を掛ける。ストッパーを外し、マスクを取ると……。

 それから五分も経たないうちに、戦闘員のBとCは総帥室を訪れていた。急いで階段を駆け上ったせいで、二人とも息が切れ切れになっている。
 一応ノックをしたが、緊急事態のため、返事を待たずに扉を開ける。と、そこには四つの死体が床に転がっていた。
 奥の椅子の傍にはゴッド総帥、手前には幹部たち三人の姿があった。
 茫然と立ち竦む二人は、何があったのか把握できずに呆然と佇んでいると、戦闘員Bの背後に誰かが忍び寄り、首を捻る。途端にBは声も出さずに倒れ込んだ。
 Cは震えながら口を開く。「まさかお前……」
 目の前にいたのは、戦闘員Aだった。
 彼は怯えて動けずにいるCに対してこう吐き捨てる。
「お前は見逃してやる。その代わり、二度と悪に手を染めるんじゃない。このまま足を洗って平穏に過ごすんだな」
 戦闘員Aは振り返ると、扉に手をかけた。
「ちょっと待ってくれ。もしかして全てお前が仕組んだことなのか?」戦闘員Cは、声を絞り出すように尋ねた。
 するとAは踵を返し、顔を向ける。タイツのせいで表情までは伺い知れないが、何だか笑っているように感じる。
「もちろんそうだ。もうからくりは判っているんだろう? 改めて説明するほどでもないが、俺はここに潜入して、倉庫の前で警備をしているお前たちの仲間を気絶させると、予め仕留めておいた別の死体をあの部屋に運び込んだ。そしてタイツを剥ぎ取り、仮面とスーツを着させた。そしてナイフを刺して、脱がせたばかりのタイツに着替えると、第一発見者に成りすまし、お前たちを起こしたという訳さ。後は知っての通りだ。幹部たちはまんまと俺の罠にはまり、ここまで連れて来てくれた。これでジョッカーも壊滅だ。後はお前の好きにしたらいい」
 そう言い残すと、男は戦闘員の服を脱ぎ捨てて、部屋から颯爽と消え去っていった。
 全てを理解したCは、力なくへなへなと床に座り込み、横たわる五つの死体を茫然と見つめ続けた……

 研究室のベッドには、仮面のライダーのスーツを着た、戦闘員Aの素顔が横たわっていた……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み