第33話 蛙姫
文字数 1,648文字
【これまでのあらすじ】
一年前に事故死した鷲宮一輝 のスマホが神社の境内で見つかった。
誰がなぜ置いたのかを調べるため警察官の正語 は一輝の弟、秀一 とともにS県にある過疎の町、みずほ町にやってきた。
テニス講習会に参加する秀一と別れた正語は、秀一の父親が住む『西手 』に向かうが、途中で真理子と出会う。真理子に乞われるまま鷲宮本家を訪れた正語は、雅 や高太郎 からスマホが見つかった神社にまつわる悲劇を聞かされる。そんな中、岩田が亡くなったという連絡が入る。
——第18話からの続き——
「ガンちゃんは、守親 じいさんのテニス仲間だったんだよ。プロ目指してたけど、腰わるくしたとかでさ、この家の庭仕事や雑用しながら、町の子ども達にテニス教えてたんだ。
ガンちゃん、身寄りがなくってさ……プロになる時のツアーの費用とか生活の面倒とか、先代には世話になったって、あっ、先代って、守親じいさんの父親のことね、ホント、何度も何度もガンちゃんは、先代に感謝してたよ」
雅 はビールをあおりながら、亡くなった岩田の思い出話を続けた。
正語 はそれを聞きながら、考え込む。
この家の人間は、正語の家で秀一 を預かっていることを知らないようだ。
秀一の実家の分家とこの本家とは、御多分にもれず仲が悪いのか?
智和 は意図的に警察に相談したとだけ告げているのか?
(最初に『西手 』に行けばよかったな)
智和から話を聞いてからこの家に来るべきだったと、正語は思う。
真理子の左目に惑わされたなどとは誰にも言えない。
電話を終えた高太郎 がやってきた。
「ガンちゃん、どこで亡くなったの? 家? 病院?」
待ちかねたように雅が高太郎にきいた。
それには答えず、高太郎は腰を下ろすと正語をじっと見る。
(なんだ?)
と正語は眉を寄せた。何か話でもあるのかと待ち構える。
「どうしたの? なんかあった?」と雅が焦れた。
高太郎はやっと、口を開いた。
「この家と縁のある者が亡くなりました。これから葬儀の打ち合わせをします」
「ああ、和尚が来ンのか。忙しくなるね」と雅。「酒の用意する?」
高太郎は正語を見たまま、また黙る。
黙る高太郎を雅が気味悪そうに見る。
「なに? やっぱ、なんかあったんだね?」
高太郎は視線を落とした。
「立て込んでおりますので、どうかお引き取りください」
雅が吠える。
「あんた、なんか隠してるね!」
すかさず正語が頭を下げて、暇乞いをした。
「私はこれで失礼します!」
夫婦喧嘩の場に居合わせているようで居心地が悪い。
「九我 ちゃん、行かない方がいいよ! この人、なんか隠してるよ!」雅は高太郎をキッと睨んだ。
「ガンちゃんは、普通に亡くなったんだよね? なんか不自然なことは、なかったんだよね?」
「ありませんよ。雅さんも知ってるでしょう。岩田さんはもともと心臓が悪かったんですよ」
高太郎は顔をそらしながら立ち上がった。
「父の所に知らせに行きます」
「あたしも行くよ」と雅も立ち上がる。「九我ちゃんもいこ!」
高太郎が正語を見ながら嫌な顔をした。
「どうして、あなたが来るんですか?」
(いや、俺は何も言ってないよ……)
レッツゴーといった身振りで、雅は歩き出した。
ブツブツ不満を漏らしながら高太郎が続く。
正語もその後ろに従った。
いつになったら自分はこの家から解放されるのかと、うんざりしてくる。
だが、
(……まあいいか……)
高太郎の嫌がる顔を見てから、正語はこの家の当主に会ってみたくなった。

正語はこの家の主、鷲宮守親の部屋に案内された。
まず雅が襖を開けて中に入る。
その後ろを正語が続く。
驚いた。
一歩室内に入った途端、正語は足を止めた。
その部屋を埋め尽くす集中治療室張りの医療機材も異様だが、部屋に入って最初に目に入ってきたのは、真っ赤な振袖を着た
正確には、蛙そっくりな顔の女が振袖を着ている大きな絵だ。
「あれは、叔母です」
と後ろから高太郎が言った。
「霊媒師だった、鷲宮久仁子 の肖像画ですよ」
一年前に事故死した
誰がなぜ置いたのかを調べるため警察官の
テニス講習会に参加する秀一と別れた正語は、秀一の父親が住む『
——第18話からの続き——
「ガンちゃんは、
ガンちゃん、身寄りがなくってさ……プロになる時のツアーの費用とか生活の面倒とか、先代には世話になったって、あっ、先代って、守親じいさんの父親のことね、ホント、何度も何度もガンちゃんは、先代に感謝してたよ」
この家の人間は、正語の家で
秀一の実家の分家とこの本家とは、御多分にもれず仲が悪いのか?
(最初に『
智和から話を聞いてからこの家に来るべきだったと、正語は思う。
真理子の左目に惑わされたなどとは誰にも言えない。
電話を終えた
「ガンちゃん、どこで亡くなったの? 家? 病院?」
待ちかねたように雅が高太郎にきいた。
それには答えず、高太郎は腰を下ろすと正語をじっと見る。
(なんだ?)
と正語は眉を寄せた。何か話でもあるのかと待ち構える。
「どうしたの? なんかあった?」と雅が焦れた。
高太郎はやっと、口を開いた。
「この家と縁のある者が亡くなりました。これから葬儀の打ち合わせをします」
「ああ、和尚が来ンのか。忙しくなるね」と雅。「酒の用意する?」
高太郎は正語を見たまま、また黙る。
黙る高太郎を雅が気味悪そうに見る。
「なに? やっぱ、なんかあったんだね?」
高太郎は視線を落とした。
「立て込んでおりますので、どうかお引き取りください」
雅が吠える。
「あんた、なんか隠してるね!」
すかさず正語が頭を下げて、暇乞いをした。
「私はこれで失礼します!」
夫婦喧嘩の場に居合わせているようで居心地が悪い。
「
「ガンちゃんは、普通に亡くなったんだよね? なんか不自然なことは、なかったんだよね?」
「ありませんよ。雅さんも知ってるでしょう。岩田さんはもともと心臓が悪かったんですよ」
高太郎は顔をそらしながら立ち上がった。
「父の所に知らせに行きます」
「あたしも行くよ」と雅も立ち上がる。「九我ちゃんもいこ!」
高太郎が正語を見ながら嫌な顔をした。
「どうして、あなたが来るんですか?」
(いや、俺は何も言ってないよ……)
レッツゴーといった身振りで、雅は歩き出した。
ブツブツ不満を漏らしながら高太郎が続く。
正語もその後ろに従った。
いつになったら自分はこの家から解放されるのかと、うんざりしてくる。
だが、
(……まあいいか……)
高太郎の嫌がる顔を見てから、正語はこの家の当主に会ってみたくなった。

正語はこの家の主、鷲宮守親の部屋に案内された。
まず雅が襖を開けて中に入る。
その後ろを正語が続く。
驚いた。
一歩室内に入った途端、正語は足を止めた。
その部屋を埋め尽くす集中治療室張りの医療機材も異様だが、部屋に入って最初に目に入ってきたのは、真っ赤な振袖を着た
蛙
だった。正確には、蛙そっくりな顔の女が振袖を着ている大きな絵だ。
「あれは、叔母です」
と後ろから高太郎が言った。
「霊媒師だった、