第5話 危険度★★★

文字数 1,413文字

 どこにも放つことのできないストレスと衝動が重なると暴れる。暴れ始めるともう危険度は★★★だ。 

 軽度のものならば、テーブルにあるものなどすべてをひっくり返し、手に届くものをぶん投げるといった行動が始まる。
 これくらいならば片づければ済んでしまうレベルだから★★相当なのだが、時としてさらに進化する。しなくても割と大変なのだが。
 経験上なのだが、部屋の中をグチャグチャにするようなときは大抵リスカも同時に行われていることが多い。
 床に爪楊枝(つまようじ)が散乱し、ボールペンやハサミが飛んでいき、さらにお気に入りのグラスも割られてしまう。余談だが、ペアで買ったグラスが3つ4つあったはずなのだが、一方ばかり残ってしまっている。 
 そのうえにリストカットも伴うと床の血だまりと相まって割と片付けるのに時間を要する。もっとも、片付けをはじめるにもナナちゃんが落ち着いてくれないと全く進まない。 2年ほど前だが、仕事から帰ってくると薬のシートと部屋のものが散乱し、床には血液が飛び散るという3コンボをしていたことがあった。さすがにそのときはどれから手を付ければいいのかと悩んだのを覚えている。 

 さらに上の段階にいくともはや最終形態だ。矛先は僕へと向かう。
 僕が横に居る時であったり、寝ている最中だったり何時起こるか分からない大きな時限爆弾が爆発すると、僕に(こぶし)が向かってくる。
 この暴力行動は実に危険だ。こちらがケガをする可能性があることもそうだが、発端が分からない。★レベルの俯いているだけからやミノムシ状態、部屋を暴れる延長上だったりと様々だ。 

 右フックが僕のコメカミ辺りに飛んでくる。ガードをすれば腹部にストレートだ。僕の髪の毛をひっぱりながら力任せにガードを外そうとして再度顔面を狙う。
 包丁の切っ先が僕に突きつけられることもある。二度か三度かあったが、このときは本当にもうマズいと思った。むしろ、少し悟りさえした。 
「もう死んでやる」や「ぴぴ氏を殺して私も死ぬ」と言いながら首を絞めたり、刃物を向けたりするのだ。 
 あまりに危険を感じると、僕は彼女を押さえつける。こういうとき、柔道の袈裟(けさ)固めが役に立つことになるとは学生時代には思いもしなかっただろう。
 動きを封じられてもしばらくは反抗を続ける。加速させることもある。 
 しばらくすると「どうして死なせてくれないの」「どうせ私のこと分からないでしょ」と言いながらおとなしくなる。 

 僕自身も変わり者だから、顔を殴られるのくらいは大したことない。顔を()らして出勤したときに、同僚に経緯を話したが「俺ならカノジョに顔殴られたら即刻別れるね」と言われた。
 逆に僕の感覚だと、この程度で彼女の気持ちが治まるならば全然受けてあげようくらいの気持ちだ。(加えて、殴られたくらいで別れるとは器の小さな同僚だと感じたことは秘密だ)
 とはいえ、顔の腫れはどうしようもないとしても変色しているのはさすがにお客様商売をしていたものだからマズいと思い、慣れないファンデーションで隠して仕事をしていたのは逆にいい思い出だ。 

 もしも、これ以上僕の身に危険が迫ったり本人が命を絶とうとする行動が治まらなければ、警察を呼んで保護してもらうという手段があるのだが、そこまで至ったことはない。

 僕に対する暴力的行為にしてもリストカットにしても極論ではあるが、赤の他人を傷つけてしまうことに比べればマシだと思っている。 
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登場人物紹介

ナナちゃん。

ぴぴ氏

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