エピローグ

文字数 1,337文字

「翔ちゃん、もうすぐだよ。ほんとに用意できてるの?」
 翔一の寝ぐせにスプレーを吹きかけながら彩が言った。
「大丈夫。今日は研究室のネット中継だから隣の部屋だよ。白衣羽織るだけだし」
「もう……婚約者のあたしも取材受けるんだからね。ただでさえ歳の差婚って言われて注目浴びてるんだから、もう少し気にしてよね」
「歳の差って、13歳じゃないか。世の中にはもっと歳の離れたカップルはいくらでもいるよ」
「そうだけど、この前のネットニュース見た? ぼさぼさ頭の天才医学者。婚約者は娘のような大学生」
「あはは」
「笑い事じゃないわよ。大学生じゃなくて研究生! それに、金目当てかって記事まであるのよ」
「金目当てって……俺、そんなに金持ってないよ」
「知ってるわよ! でも、翔ちゃんの研究が認められたから、これで特許とれば大金持ちも夢じゃないね」
「いや。まだまだ確認試験が沢山残っているし、特許はスポンサーの製薬会社と大学が抑えると思うよ。でも、少し貰えたら嬉しいね」
「あんた何言ってんの? バカなの? でもまあ、そんな、欲の無い翔ちゃんが好きなんだけどね……」
「それより彩、これ貰ってくれる?」
「えっ、これって……」
「うん。一つずつネックレスにした」
「いいの? そんな大切な物……嬉しい。婚約指輪を貰った時より嬉しいかも。ありがとう。翔ちゃんのご両親は、私の理想なの。私達も死ぬまで仲良しでいようね」
 それは四年前、交通事故で亡くなった翔一の両親の形見だった。珈琲豆を模った銀のストラップ。仲の良かった両親が一つずつ持っていたものだ。
「おい、婚約指輪よりって。あれ高かったんだぞ」
「柳原先生。五分前です。そろそろスタンバイお願いします」
「はい。すぐ行きます」

 それから三年後、柳原翔一の研究は完成した。
その成果によって医学は一気に数十年進んだと言われ、多くの難治性疾患に対する治療法が改革された。
 その治療法は幾つかの新薬と、全く新しい治療法を組み合わせた方式で、SHO式と名付けられ、先進諸国では既にスタンダードな治療法として確立しつつある。

 余談だが、昨年、核兵器を持った途上国数国と日本を含めた西側諸国が一発触発、あわやそのまま第三次世界大戦になるかもという緊迫した状況であったが、途上国を引きいる党首の娘が、ある難治性疾患であるという情報を得た。そこで西側の諜報機関が秘密裏にその党首と接触し、その娘にSHO式治療法を施した。――という噂がある。
 真偽の程は不明だが、結果として、全面戦争は回避され、現在では平和的話し合いが進んでいる。
 その話が本当であれば、

事になる。いずれにしろ翔一の研究成果は、医学の歴史に名を残す功績となった。


「ねえ、翔ちゃん。大津島に行かない?」
「大津島? 回天の?」
「うん。あたし、翔ちゃんから話聞いただけだし、一度行ってみたいなって思って。前に見せてくれたあの時計。百年以上も前に翔ちゃんの、ひいお爺さんが特攻隊員に貰ったんでしょ? なんかロマンチック」
「ロマンチックって事はないと思うけど……美雪は?」
「美雪はもう小学3年生よ。それにお母さんに来てもらうから大丈夫よ」
「いいよ。いつ行く?」
「明日」
「明日?」
「うん」
 彩は翔一に抱きついた。
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