おまけ

文字数 3,721文字

おまけ

2007年9月頃に書いていた別のストーリーの構想メモです。

2007-09-20 08:14:14
「人造人間 サンセッター」

夕陽の沈む町、夕焼け町。
その町長が、ある時に町興(まちおこ)しのために極秘で「人造人間開発プロジェクト」を打ち立てた。
町長は議員に圧力をかけて議案を通し、公債を大量に発行して莫大(ばくだい)な借金をしながら研究所を建設し、たくさんの研究者・技術者を(つの)った。
表向きの「環境技術開発推進プロジェクト」という事業名を隠れ(みの)にして密かに「人造人間開発プロジェクト」は推進されていった。
また、町長は事実を知る関係者には「人造人間が完成すれば、観光客・マスコミが町に押し寄せて町の経済が大いに発展し、いずれは採算が()れる」という根拠のない事業説明を繰り返した。

夕焼け町出身の若い会計士・徳田貫徹(かんてつ)はたまたま帰郷している時に、友人から「人造人間開発プロジェクト」の事を聞かされた。
不安を感じた貫徹は、プロジェクトの詳細を密かに自分で調べ上げた。
そして、プロジェクトのずさんさを目の当たりにして「このままじゃ、町が財政破綻してしまう!」という危機感を募らせ、町長に面会を求めた。
貫徹は、「まだ、取り返しのつく今のうちに一刻も早い中止の決定を!」と必死に町長に訴えかけた。
町長は、貫徹の「人造人間開発プロジェクト中止」の訴えに耳を貸そうとしなかった。
貫徹はまるで話の通じない町長に苛立(いらだ)ち、「真剣に町の繁栄を考えたら、このプロジェクトがどれだけ愚かな行為か子供でも分かる!あんたは町を自分の玩具(おもちゃ)にしているだけだ! あんたに町長をやる資格はない!」と吐き捨てた。
それを聞いた町長はコンプレックスを刺激され、一瞬で我を失った。
「お前に何がわかる!」と叫びながら、発作的に貫徹を灰皿で殴り殺してしまった。
我に返った町長は慌てふためき、研究所の職員に貫徹の死体を引き取ってもらい、貫徹の死体は研究所内に収容された。

実は町長が「人造人間開発プロジェクト」に固執(こしつ)するのは、過去の心の傷が原因だった。
昔から、町長や有力な議員を輩出(はいしゅつ)してきた名家の家系に生まれた町長は、幼い頃から親兄弟や親類と常に比較されていた。
そして、あまり優秀ではなかった末っ子の町長は常に劣等感を背負わされてきた。
町長は親兄弟への反感から、兄弟と違う技術者の道を志して機械の勉強にのめり込んでいった。
親兄弟もそんな町長を落ちこぼれのはみ出し者として扱い、まるで相手にしなかった。

ところが、ある頃に前途有望だった町長の兄弟達が事故や病気で相継いでこの世を去った。
町長や有力な議員を輩出する家系を誇りにし、いつも世間体や面子(めんつ)ばかりを気にしていた町長の父親は、ただ一人残った息子に政治の世界に入るよう懇願(こんがん)した。
町長は父親を憎んだが、最後は家族の情に負けて父親の願いを受け入れた。
だが、町長が父親の願いを受け入れて町の首長に当選したとたんに、父親は再び町長を親類や兄弟と比較する悪い癖を出し始めた。
嫌々政治の世界に足を踏み入れた町長は所詮(しょせん)は世間体や体裁(ていさい)の事しか頭にない父親の真意を悟って自分の選択を後悔し、「今まで誰も造ったことのないものを自らの手で開発したい」という夢への未練をいつまでも胸に抱き続けたのだった。

地元に帰郷していた徳田貫徹が突如失踪(しっそう)した。
徳田貫徹の婚約者だった女性は、失踪した徳田貫徹の消息を求めて警察に捜索を依頼し、自らも方々(ほうぼう)を訪ね歩いた。
しかし、徳田貫徹の行方は(よう)として知れなかった。
2年以上の間、女性は貫徹の身を案じて帰りを待ち続けていたが、最後には貫徹の事を(あきら)めた。

さらに3年が経ち、人造人間完成も間近(まぢか)という頃。
公債の支払期限が到来(とうらい)しても返済できず、資金()りが不能になった夕焼け町は財政破綻を表明した。
直後に町長も自宅で首吊り自殺した。

その後、完成した人造人間は夕陽の沈む夕焼け町に生み出されたことから「人造人間 サンセッター」と名づけられた。
自らの意思で行動できる「サンセッター」が降り立ったその町は、財政破綻で全てがメチャクチャになった死の町だった。
各種公共施設は閉鎖され、公共サービスは極限まで切り詰められていた。
生活がどうしようもなく不便になった一方で、町の借金返済のために人々にひどい重税が課せられ、各種公共料金もはね上がって人々の生活を圧迫した。
しかも、その生活がこの先気が遠くなるほど長く続くという。
人々は夕焼け町で生きていく希望を完全に失ってしまっていた。

後にマスコミの追及により、大量の公債を発行して集めた莫大な資金が投入されていたのは、「環境技術開発推進プロジェクト」などではなく「人造人間開発プロジェクト」という訳の分からない事業であった事が発覚し、同時に「サンセッター」の存在が公に知れ渡った。
「サンセッター」 は放漫(ほうまん)財政の負の遺産として世間一般に認知された。
「サンセッター」 が町を歩くたびに、見かけた人々は石を投げつけて罵倒(ばとう)した。

「サンセッター」 に内蔵(ないぞう)された思考回路は純粋な人工知能ではなかった。
自律的な行動を可能にする高度な人工知能が完成させられなかった研究者達は、苦し(まぎ)れに冷凍保存されていた徳田貫徹の脳をサンセッターの頭脳として組み込んでいたのだ。
実は、「サンセッター」は徳田貫徹の生まれ変わりだった。
徳田貫徹は、人造人間として生まれ変わってしまった身の因果(いんが)や決して人々に歓迎されずむしろ嫌悪や憎悪の対象となっている事実に苦悩した。

徳田貫徹は、記憶の中にあるただ一つの希望を求め、婚約者の元に向かった。
だが、かつての婚約者はすでに別の男性と結婚し、一児の母親となって幸せに暮らしていた。
その現実を目の当たりにした徳田貫徹は大きなショックを受け、絶望した。
いっそ自分の体を完全に破壊して全てを無に帰してしまおうと何度も思った。

しかし、徳田貫徹の熱い会計士魂が宿ったサンセッターにはそれができなかった。
莫大(ばくだい)な資金を投じて製造された重みある体を破壊して無に帰してしまうなんて、それこそ本当の税金の無駄遣いだった。
税金は、その町に住む人間の生活をよりよくするために使われるべきであるからだ。
サンセッターが自分の体を破壊してしまうということは、人々が汗水流して働きながら捻出(ねんしゅつ)した税金を一切有効活用せずに、全て水の(あわ)に帰してしまうという事だった。
徳田貫徹の脳にこびりついた会計的感覚のために、サンセッターには巨額のマイナスをマイナスのままで終わらせる自己破壊行為ができなかった。

散々(さんざん)苦しんだ末に、サンセッターは決意した。
マイナスをマイナスで終わらせないために、少しでも町のためになることをしよう。
それこそが、人々が汗水流して捻出してきた莫大な血税を(いしずえ)にして生み出された私がまさに()さなくてはならない事なのだ。
人々が必死で納めた税金、これからも借金返済のために納め続けるであろう税金によって生み出された人工物なら、それに見合うだけの奉仕をして人々に元を取らせなければ意味がないのだ。
経済の原則は等価交換。
例え、人々に迫害(はくがい)され罵倒されようが、私はこの町にとって少しでもためになることをして人々に役立ってみせる。
それこそが私の使命なのだ。

サンセッターの動力源は最新鋭のバイオエタノールエンジンだった。
燃料は土ワカメ (正式名称不明。雨上がりに草むらとかアスファルトの割れ目とかでぶよぶよになってるワカメみたいな奴。なんかあれからもバイオエタノールを作る研究が進んでるってテレビでやってた。)を体内で分解・合成して生み出されるバイオエタノールだった。
つまり、燃料はいつでも草むらで足のかかとから土ワカメを接収(せっしゅう)する事で補給でき、サンセッターは地上に土ワカメある限り、半永久的に活動できるのだった。

サンセッターは、人々の迫害に耐えながら黙々(もくもく)と奉仕活動を続けた。
古くなった道路や橋の改修であったり、お年寄りの深夜の訪問介護であったり。
地域の防犯監視活動であったり、事故処理や災害処理であったり。
各種施設の維持管理であったり、有害鳥獣駆除であったり。
タレント知事のような精力的な広報宣伝活動であったり。
それこそ身を()にして無償で活動し続けた。

サンセッターの多方面に渡る精力的な奉仕活動によって町は少しずつ活気を取り戻していった。
また、熱心な広報活動の成果で大勢の人間が夕焼け町に訪れるようになった。
経費節減と税収増大の効果によって、町の財政は少しずつ上向いていく事になった。
サンセッターの活動は少しずつ人々に認められるようになっていった。

そして、もう少しで夕焼け町が全ての借金を返し終えて、晴れて健全財政を実現するという頃。
サンセッターは人々の前に姿を(あらわ)さなくなった。
財政破綻後に研究所が閉鎖され、その後一切メンテナンスを受けなかったサンセッターの体はとっくの昔に故障してしまっていた。
その故障した体が長きに渡って活動し続けていたのは奇跡とでもいうべき状況だった。
だが、もはやサンセッターの思考回路や動力回路にまで致命的な欠陥が生じていて、サンセッターの体は完全に活動不能な状態だった。
サンセッターは自らに課した使命を果たし終えて、町の片隅で静かに活動を停止した。

(おわり)
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