第2話 復讐

文字数 801文字

 絶対に許せない。
 絶対に許せない。
 絶対に許せない。
 俺の人生を台無しにしたあのじじいは絶対に許せない。
 その一念だけで俺はあのじじいを探し続けた。
 どのくらいの月日が経っただろうか。数え切れないほど日が昇るのを見た。
 それでも俺の一念が風化することは無かった。
 永い永い時が流れ、もうどのくらい立ったか忘れた頃ついにその時が来た。
 長い行列に並ぶあのじじいをついに見付けることが出来た。
 皆生気の無い顔を一様にしているがそれでも行儀良く列に並んでいる。あのじじいすら大人しく列に並んで待っている。
 地平線の彼方まで続く長い行列は遅々として進まないが、それでも粛々と進んでいく。
 やがて目の前に大河が見えてくる。
 岸の向こうが見えないくらいの大河で流れも速そうでとても泳いで向こう岸に渡れそうも無い。
 そんな大河に向かって列は進んでいき、その先には一艘の小舟が待っていた。
 小舟で数名が乗るのがやっと一人一人と大人しく小舟に乗り、定員になると小舟は向こう岸に人を運んでいく。そして帰ってくるまで列は止まる。
 なかなか列が進まないわけが分かった。
 どのくらいの時が流れたのか、やっとじじいが小舟に乗る番になった。
 俺が待ち焦がれたときが来た。
 じじいが小舟に乗ろうとした瞬間、俺はじじいを突き飛ばして小舟に乗った。
 割り込みだ。
 俺に突き飛ばされたときのじじいの顔は、あれだけ生気が無かったのに怒りで真っ赤になっていた。
 ああ、もう気が晴れた。
 妄執は晴れた。
 未練が無くなった俺を乗せて小舟は出発する。
 ゆっくり進んでいく。
 俺が一度だけ振り返ると、じじいはもう列に入れて貰えることは無く彷徨っていた。
 俺はじじいにされたことをやり返しただけ。
 たかが割り込み。
 それで人生が変えられた男がいた。
 だが今その男は新たなる世界に旅立っていく。
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