第1話

文字数 1,425文字

 お隣さんから、大根をもらった。
実家が田舎で、農家をしているらしい。
今年はだいこんの出来がすごくよくってね───そんな手紙が一緒に入ってたんだって。
お隣さんとは挨拶するていどのつきあいだったんだけど。
それでもおすそわけしてくれるということは……よっぽどたくさんもらったんだろうな。
まあ、大根は好きだからショージキ嬉しい。
でも……ひとり暮らしに二本はちょっと多いと思うんだけど。
 
 まず、一本は新聞紙にくるんでおこう。
すぐに食べないときには、そうしておいたほうが保存がきくのよってママが教えてくれた。
それにしても葉っぱがついてなかったのが残念かなぁ。
葉っぱを刻んで炒めて醤油で味つけして鰹節をまぶしたアレ……大好きなんだけどな。
ごはんが何杯でも食べられちゃう。
だから痩せないんだよって弟に言われちゃったけど、美味しいものを我慢する方が罪つくりだよ。
 
 さて、なにを作ろうかな?
こういう時はスマホ様に頼るのが一番よね。
えーと、『大根 レシピ 簡単 美味しい』っと。
うーわ、いっぱい出てくるなぁ。
出てきすぎだってば、これじゃ逆に選べないよ。
 
 そうだなぁ大根と言ったらおでんが定番だよね。
そうそう、大根ステーキなんてメニューを見かけたこともあったな。
風呂吹き大根なんてのもあるよね。 
あとは漬け物。

 漬け物ねぇ、食べると美味しいんだけど、干して乾燥させてだなんて面倒なやつじゃなく、もっと簡単なものってないのかな?助けてスマホ様『大根 漬け物 簡単』
えっと、柚子大根?……ちょっと気にはなるけど、柚子の皮をむいて細く刻んでって、私にはレベル高すぎ。
柚子の買い置きなんてあるはずもないし。
 
 じゃあ、こっちは?
なになに?調味料を煮溶かして、冷めたら薄切りにした大根を入れておいておくだけ、か。
これなら私でも出来そう、切り方もいちょう切りだし、調味料もそろってる。
よし、ひとつはこれに決定。
でも漬け物だけじゃ、そんなに減らないなぁ。
やっぱりおでんか??
 
 あ、豚汁とかけんちん汁を作るというのも美味しいかも。
あれ?『大根の保存は冷凍庫がおすすめ』って書いてある。
へぇ、カットして冷凍しておくと一か月くらい保存できるんだ。
冷蔵や常温では一週間ぐらいっていうから……めっちゃ長いじゃない。
冷凍庫ガラガラだから、あとで保存袋買ってこよう。
冷凍した方が味しみもいいって書いてあるし。
 
 味しみがよくて美味しいとなると、やっぱりおでんだよなぁ。
でも、ひとりでおでんっていうのは味気ないし。
……悔しいけれど、あいつに声かけようかな。
『今度おでん作るから食べにおいでよ』
いやいや……私がコビてどうする。
だいたいケンカの原因作ったの、あいつだし。
とりあえず、保存袋買ってきて、一本分を冷凍保存にしよう。
まずは、それから。
 
 大根が冷凍できたら……いつおでん作るか、だよね。
やっぱり寒い日の方が美味しいから、週間予報のチェックをしっかりしておかないと。
具材は大根のほかは、こんにゃくと卵と……糸こんにゃくも美味しいからはずせない。
練り物は少なめにしよう。
おでん食べるならビールも必須だし。
だとしたら箸やすめ兼おつまみにさっきの漬け物にも登場してもらおう。
 
 さて……なんていって呼び出すか。
『おでんと漬け物あるよ。食べたいならビール持ってきて』
イマイチだけど、この文面でいこう。
ケンカしてなかったら、もっと違う言い方するのに。
 
 
 
『おでん作ったの。……食べてもらいたくて』
 
 
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