第23話 ある男の回想Ⅲ

文字数 1,061文字

 バイロンが夢現の世界から目を覚ますと、そこはいつもの城の庭園だった。ついさっきまでここで直参の兵隊とあの彼女の捜索に奮闘していた。結局マクイは見つからず、戻ってきて、ひと眠りして今の塩梅である。

「さあて、っと今日は何をしようかな」

 と言ってはみたものの、することなどない。せいぜい、マクイを探すふりをして、また適当に市街でぶらつく程度のものだ。さっきまでマクイをみつけただのなんだのと騒ぎ散らしていた衛兵たちは、標的を見失ったとかで、また城で騒いでいた。

「あんな奴が早々捕まるはずはないんだ。頭を使わずに足だけ使っても時間の無駄さ」

 かといって自分にその頭があるかも怪しいとバイロンは頭を叩く。あのマクイの消える一芸にはさすがに驚きを隠せなかった。しかし考えてみれば10年近くも投獄していたのである。彼女の能力に変化がないほうがおかしい。

「魔法をコントロールできるようになったのか?」

 もしそうだとするなら、捕まえて殺そうとしている今の狂った王はあとで自分の過ちに気付くことになる。

「ま、もう義理の父でもないしどうでもいいがな」

 彼女、アルファ・ルカナビアは今、眠っている。不治の眠りについたまま目を覚まさない。

 医者は原因不明と言っていたが、そうであってもなくても、やることは決まっている。

 彼女に魔法のコントロール能力が戻ったのなら——ならば、

「私のすることは一つだけだ」

 不安に打ち勝った彼女にもう一度姉の治癒を頼む。もう一度もう二度と目覚めないとされた意識を取り戻させる。彼女とてそれを拒否する程馬鹿ではないし、そんな権利もない。

 なぜならば。

「ずっとお前を守ってきたのは俺達なんだからな」

 先刻のあれは、演技だった。周りに悟られないように、気取られないように、ずっと。

 ずっとお前を殺す者達をだまして誤魔化して煙に巻いて、生かし続けてきた。

 バイロンは、すっと立ち上がり、草を踏みしめて背中の大剣を握りしめ、

「はああああああ!」

 気合い一閃。木の葉を粉末にした。レングランド最強とされた大剣の使い手として、彼女の婚約者として、賢者オークリーの友として、まだ腕を鈍らせるわけにはいかない。

「俺は約束がすきだオークリー。必ず」

 そういったバイロンの瞳は地面に映るはずの何かを一心に見つめていた。

 そう、何か忘れている事がある気がした。

 しかし、バイロンの思考に極わずかに零れたその疑義はしばらくのちに跡形もなくきえていた。
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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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