京都大学推理小説研究会『法廷遊戯』座談会

文字数 1,986文字

それでは『法廷遊戯』の座談会始めていきましょう。個人的には非常に面白く読んだものの、真相の部分とキャラクターの部分で賛否の分かれそうな作品だなと思ったのでその辺りを語り合えたらいいなと思います。とりあえず順番に感想を聞いていく形で回していきましょう。じゃあ、T君から。率直に言ってどうだった?

そうですね、僕はこの作品結構好きです。KR君がこの作品にいい反応をしていたのでそれで読んでみた感じですが、法廷ミステリーである以上に青春ミステリーの側面が強かったので、かなり好みに合う作品でしたね。

ロースクール生時代から始まり一つの青春を経るというのはこの作品の大きな特徴だよね。

日常の謎……というとちょっと語弊がありますが、身近な事件から大きな事件へと発展していくのもまた青春感が出ていて好きですね。青春ミステリーってキャラクターが大事だと思うんですが、特にサクがめちゃくちゃいい。

サクは俺も大好き。次の作品に出てるといいなーって思った。もう書き終わってるらしいけど。

筆の早さが脅威的ですし、デビュー作でこの完成度なのはこの先が楽しみです。

ほんとそれ。

じゃあ次はKR君。

僕は読後感良ければ総て良しにしたくなるタイプなので、この作品はかなり好きでした。伏線が悉く回収されるのも好感度高いです。倫理観が少し曲がった主人公は結構メフィスト賞っぽいですよね。

がっつりメフィスト賞って感じじゃないけど、主人公の書き方もそうだし体感時間ゆっくりなシーンとかもそうだし端々でメフィスト感あるよね。

そうですね。あとは作中の無辜ゲームを見て、外連味のある法廷ミステリー的には円居挽先生のルヴォワールシリーズとかシャーロックノートシリーズとかも思い出しました。

確かにシャーロックノートってそんな話だったなぁ、懐かしい。

じゃあ、次はYさん。

真相の部分は賛否両論があるかもですし、私も少し思うところはあるのですが、久しぶりに読んだ法廷ミステリーだったので結構楽しんで読みました。

そういえばYさんって法学部だよね。法学的な見地としてはこの作品どうだった?

法律手続きがわかりやすく書かれていますし、説明調ではなく話の進行に落とし込まれているのがとても上手いなと思いました。法律的にも特に違和感はなかったです。

変なこと聞くけど、京大には馨みたいな人って結構いる?

何を以て馨とするのかが難しいですが、でも1人か2人くらい近い人が思い浮かびますね。

結構いそうだなぁと思いながら読んでたけどやっぱりいるんだ



……おっ、Mが来た。

ごめんごめん今読み終わった。

お疲れさん。で、M的にはどうだった?

あ、今そういう流れ? わたし的には読後感があんまりよくなくてモヤっとしたな。

おっ、KR君と逆の意見だ。

あのラストは客観的に見るとちょっとどうかなと……何か大事なことを忘れていないか?って感じ。でも一つ一つの事件に意外性がちゃんとあって読んでる途中は結構楽しかった。とは言いつつもどっちかというと根幹の事件よりは枝葉のエピソードの方が印象に残っているし、キャラクターも魅力に感じたのはある。そういう意味では法廷ミステリーというよりも青春ミステリーの方が前面に出てるなぁって印象だった。

個人的な主義主張の対立を法廷として再現している感じはありますね。
それはある。でも、その話でいくと主人公周りのキャラクター性が薄いようにも感じる。各キャラクターの行動原理が一つの出来事に定義されているような。複雑味があんまりない感じ。

辛辣な意見だなぁ。

そういう意味では底の見えない佐沼が一番好き。でもまあキャラクター云々を言いはしたけど読んでる最中はやっぱり楽しかったよ。

五十嵐先生、ミステリーのどういう部分がなぜ面白いのかというのを分析した上で、存分に活用している感じがあるよね。ミステリー本来の愉しみが詰まっていると思った。

じゃあ最後はKH君。

いやぁ、僕はこれかなり好きですね。僕は読了時に感触がよかった方なので、あばたもえくぼなのかもしれませんが、でも読んでてずっと楽しかったのは間違いないですね。一つ一つのエピソードがやっぱ骨太なんですよね。全部のエピソードが大事にされていて。それで言うと権田のエピソードとかもめちゃくちゃ好きで。

あれは皆好きになるよね。

ですね。それが色々と結びついて結末へ向かっていくので、最後のページを読んでる時は手が震えてました。それに最終的なところまで法律の知識が絡んでくるのに丁寧な話運びのおかげで後出し感が全然ないのもすごいです。法廷ミステリーとしても成功していたなって。

これだけの人数が読んで、賛否両論はあるものの、ミステリーとしての愉しさは揺るぎないものとしてあるのが驚異的だよね。



そういえば五十嵐先生の次の作品ってどんな感じだと思う?

――と、こうして話は尽きぬままミステリ研の夜は更けていく。

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登場人物紹介

N。ミステリ研7回生。座談会主催者。

T。ミステリ研2回生。編集長。

KR。ミステリ研2回生。新参者

Y。ミステリ研4回生。法学部。

M。ミステリ研7回生。院生。途中参加。

KH。ミステリ研4回生。感覚派。

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