3 ✿ 白化の錬金術師

エピソード文字数 2,524文字



 会場を火の海に変えたブレイクは、ジョンの拘束を抜けて、舞台に立つ。
「これくらいじゃ、遊び足りないなぁ」
 ブレイクは、にやりとした。

「この地の獣霊(じゅうれい)たちよ」

 ブレイクが呪文を唱え出すと、部屋の四方から様々な獣の猛り声が起こる。
 咲良とジョンの足下に、幾何学模様の魔法円が現れた。
 獣霊が、魔法円の縁に集い、咲良たちを囲いから出さんと威嚇した。

「集え牙歌(がか)。我が咆哮に合わせ、牙道(がどう)を引け」

 外円から内側に向け、足下の円が赤黒い光を帯びる。
 ジョンは黙って、ブレイクの術の発動を眺めていたが、

(きば)の道ですか。――(けもの)の牙は折れます

 銃口をブレイクに合わせたまま、ジョンはひとつ息を吐く。


「迫りくる闇から我が身を守り、慈雨(じう)(さず)(たま)え。テトラグラマトン、アドナイ、神を呼ぶさまざまな名において……」


 ジョンが呪文を唱え始めると、今まで晴れていたというのに、たちまち空は曇り、ぱたぱた…と雨が降り始めた。
 雨雫がブレイクの魔法円にこぼれる。
 すると彼の魔法円が、細部を改めた新しいものに変えられていった。

「くそっ……なんで!? どうして俺の魔法が効かない!」

「雨のおかげですよ」

 ジョンは雨天を指さした。

「僕は魔法で雨を降らせただけです」
「それだけで…どうして?」
「この土地に縛られた獣霊(じゅうれい)が、白化(アルベド)を求めたからです。雨の浄化を」
「錬金術…」
「ええ。賢者の基本です。黒い霊を白へ反転させることは」

 円の周囲に集う獣霊たちが光に包まれ、白く霞んでたちまち消えていく。

「I am Jhon. Witness to my blood(わが名はジョン。僕の血が証です)」

 ジョンは親指を噛んで、その血を魔法円に垂らした。
 咲良がハンカチを出し、止血を施す。
 ジョンは笑むと、彼女の手を握り返し、自分にそっと引き寄せた。

捕らわれるべき者は捕らわれていく。剣で殺されるべき者は剣で殺される

 魔法円から小金色の文字や線が浮いて連なる。溶けて丸い円環となる。
 稲妻のような棘のある長い体躯をつくり、角のある頭と長い尾が現れた。
 雷龍(らいりゅう)だ。龍はらせん状の炎をまとう。
 ジョンは、銃をブレイクへ合わせ、

我道(がどう)に誓う。
  True and just indeed are this judgment!(この裁きは真実で正しい)」

 引き金を、引いた。
 雷龍と銃弾は、同時にブレイクへ向かった。
 銃弾が先に、ブレイクの右肩を撃ち抜く。
 そこへ雷龍が口を大きく開け、彼を喰わんとする。
「やめろ…やめろぉお!!」
 彼の悲鳴にも、龍は情をかけなかった。
 これまでの不道徳に、相応の電撃を見舞わされた彼は、前のめりに倒れる。

「…殺してやる。おまえを、殺してやる! ジョン・リンデン」

「しぶとい男だ。本当に殺してやろうか

 ジョンは、ブレイクを見下ろし、忌々しそうに鼻を鳴らした。

「ジョン! 師匠!!」

 するとそこへ、空から一人の男が、スノボで飛びこんできた。
 指揮官の命令でかけつけたIWCIのリーダーのラルフだ。
 ラルフに続いて、マルコ、レイも突入し、舞台に下り立つ。

「ぞろぞろ出てきやがって…」

 ブレイクはスモークボールを、舞台に放った。
 懐から、折りたたみ式の携帯スノボを出し、それにのって、会場の上空へ逃げる。下からラルフたちが撃ったが、身軽によけた。

「あんの野郎…逃がすか!」
「今度こそ尻の毛までむしってやる! あの悪党め!」

 レイとマルコが、スノボで空へ浮かび、彼のあとを追った。
 ジョンもあとを追おうとしたが、動けないサラと家族、燃える会場を見て踏みとどまる。
「火の広がりが早い…」
 そして、燃え広がる会場を見回して、嘆息した。
「僕の雨じゃ、この火は消しきれないか・・・」
 錬金術の白化の雨をもってしても、火の勢いは止まらない。
 イベント用の舞台だったので、燃えやすい安い建材でつくられていたようだ。
「俺に任せろ」
「ラルフさん・・・」
「おまえが雨を降らしてくれたなら、たやすいこと」
 ラルフは、舞台のへりに立つ。
 手のひらを雨天へ向け、正面へまっすぐに腕を伸ばす。

Mare(マレ) Regina(レーギーナ)

 小さな雨粒は集まって水流になり、八方からラルフの手の上に集まる。水流は編み込まれ、長い髪の人魚の形になる。水の(ジン)、ウンディーネだ。
 ウンディーネはラルフへ会釈すると、燃える会場を泳ぐように飛び回った。
 (ジン)の引き連れる水流は、刺繍糸のように細いが、少ない水でもブレイクの起こした魔法の火を消していく。彼らは、水を操ることにかけては、魔法使いよりも上手だ。ラルフは状況に合った(ジン)を召喚する達人である。

「さすが。ローゼンクランツの王・・・」

 彼の使役した精霊の技を見ていたジョンは、感嘆をこぼした。
「これ・・・・・・魔法?」
 糸を編むように火をとりこんでいくウンディーネに、咲良は唯々見取れた。
「綺麗・・・」
 ふわりと笑む。急にまぶたが重くなった。
「咲良さん・・・?」
 ジョンは咲良を抱えて、彼女の名を何度も呼んだ。脈はあるが・・・。

「体温が下がってる・・・。早く病院に運ばないと・・・」

 咲良だけでなく、帯刀一家は、誰もが負傷していた。
 舞台裏にも、負傷したスタッフがたくさんいる。

 ジョンはすぐに連絡し、応援を呼んだ。
 そして、ブレイクの逃げた空をぐんっと仰ぐと、彼への怒りと、自分のふがいなさに、握ったこぶしを舞台へたたきつけた。
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登場人物紹介

帯刀 咲良(たてわき・さら)


高校2年生の、剣道少女。
ドールオタク(俗にいう、シルバニアン)

ジョン・リンデン


インターポールの捜査官。
所属は、IWCI(INTERPOL Wizard Complex for Innovation)


天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生の、合気道少女。
アニオタ。

ラルフ・ローゼンクランツ


インターポールの捜査官。
IWCIのリーダー

マリー・ローゼンクランツ


ラルフのイトコ。

絵画修復士になるためにイタリアの大学で学んでいたが、行方不明になる。

マルコ・ローリエ


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

イタリア人。お菓子が大好き。

レイ・マグノリア


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

フランス人。透視能力者。

鞍馬 勝(くらま・まさる)


警視庁特殊科の捜査官。

日本の魔法使い。忍者。

ブレイク・アンショー


赤の国際手配書が出された犯罪者。

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