相良の手紙

文字数 1,370文字


マツコ様 ヒデミ様 

 この手紙を手にしている貴女方はさぞかし驚かれている事でしょう。
 今現在、この世にまだ生を受けていない貴女方に、こうして手紙をしたためている自分が不思議です。
 貴女方が必ず受け取ることが出来ると信じ、この手紙を美代子に託す所存です。
 如何なる対価も無く、ただ、ただ唐突なお願いのみを申し上げる私をお許しください。


マツコ様
 どうか、どうかこの手紙を将来、貴女のお孫さんであるヒデミ様にお渡し下さい。
 令和3年7月10日。ヒデミ様は柳原新一という人物と共にハネダ空港に現れます。山口県の大津島に行く為です。
 そして新一は大津島にて事故に遭います。信じ難い事ですが、その事故によって、彼の意識が私の意識の中に入り込みました。その事により今、歴史が変わろうとしています。彼の祖父である柳原賢一一飛層とその末裔がこの世から消滅してしまいます。また、不確定要素ではありますが、貴女方にもその被害が及ぶ可能性があります。
 柳原賢一とその末裔を救う為、どうか、どうか、新一の、その事故を回避する手立てをこうじていただきたくお願いします。
 何卒、何卒よろしくお願い致します。

ヒデミ様
 新一は令和3年7月10日、14時前後、回天記念館を見学した後、地獄の階段付近にて、黄色い風船を飛ばしてしまった幼女を助けようとして、事故に遭います。事故と言っても、新一が幼女を抱えて倒れてしまうというものです。幼女はつまずいて転倒しそうになったようですが、その時の新一の転倒を阻止していただきたい。それだけで、歴史は修正されると推測します。重ね重ね、お願い致します。

 最後に、日本、そして貴女方の未来が平和で幸ある事をお祈り申し上げます。
昭和20年7月12日 零式輸送機内にて
                         大日本帝国海軍 少尉 相良秀則


 マジか……相良君。行ったんだ。美代子さんのところに行ってくれたんだね。
 自分が元の世界に戻れたことがそれを証明している。あの仮説に間違いは無いはずだ。相良君……本当にありがとう。
 新一の涙が頬を伝わり手紙の上に落ちていった。
「秀美ちゃん。ありがとう。何て言ったら……命の恩人だよ。お婆さんにもお礼を言わないと」
「本当なんだ、本当の事なんだね。ねえ、新ちゃん。この人、この相良って人はどうなったの?」
「そうだ、相良君……ねえ秀美ちゃん。まだフェリーの時間大丈夫かな?」
「あと二十分位なら大丈夫」
「もう一回、記念館に行きたいんだけど、いいかな? 相良君の事も手紙の事も、後で全部話すから」
「うん」
 秀美は新一の腕にしっかりと自分の腕を回した。

 やっぱり……相良君は出撃したんだ。
 新一にとっては昨日見た写真、その時と同様、相良少尉の写真が同じ場所に掲げられている。
回天隊員として命を落とした人達の写真。ついさっきまで同じ時間を共有していた者達が、76年前の写真としてここに飾られている。
「相良君は、この手紙を書いた二日後、ここ大津島から回天隊員として出撃したんだよ。爺ちゃんと一緒に。やっぱり、やっぱり出撃したんだ」
 相良君。いろいろ……ほんとにありがとう。君の死は、君たちの死は無駄にしない。戦争の悲惨さはちゃんと後世に受け継ぐ。だから、ゆっくり休んで……
 新一はもう一度、写真の前で手を合わせた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み