第1話こたつのみかん

文字数 1,218文字

 ピピピ、ピピピ。目覚ましのアラーム音と、鳥の鳴き声が私の頭の中を駆け巡る。私を起こそうとしているのだ。
「うるさいわねえ…。」
時計には、今日の日付が刻まれていた。今日は十二月三十一日。大晦日だ。
休みなんだから、アラームかけなくても良かったな。
今更後悔しても、もう遅い。私の目はバッチリ空いていて、もうしばらくは眠れそうにない。
まだ7時だ。お母さんを起こすには早いか、と、夜遅くまで働いている母のことを思い浮かべた。とにかく、朝ごはんを食べよう。
階段を降りながら、すでに起きて仕事をしているであろう父の顔を思い浮かべた。
 父は父の弟と二人で自営業をしている。おじさんが社長らしい。
確かに、父に社長は向いていないな。
そう思うと、ふふふと笑ってしまう。
そんな父は多忙で、滅多に休みだとれないのだが、昨日の夜何とか帰ってきたのだ。
 リビングのドアを開けると、父はこたつに潜り込みながらメガネをしながらパソコンに向かっていた。
「おはよう。早いんだな。」
「おはよ。朝から大変だね。」
けれど、父にとってこれはいつものことらしい。
何だかかわいそうに思えてくるなあ…。でも、やりたいと言ったのは父なんだし、いいん…だよね?
 正直、父をどう扱っていいのか困っていた。前の職場で働いていたころ、父は鬱になりかけていた。その職場は、父には合わなかったのだ。けれど、自営業を始めてからもあまり眠る時間がなかったりと大変そうだ。これなら、普通に働いた方がいいのではないだろうか…?
 それをいえずに、もう直ぐ二年だ。だから、父とは何となくぎこちない。
 今もそうだ。どう接していいか分からなくて、ギクシャクしてしまっている。
「寒いだろうから、こたつに入りなさい。」
父はいつもこんな口調じゃないのに。私のせいで、すこし変になってしまっているんだ。
「うん。」
とだけ答えて、こたつの前に置かれている座椅子に座り、こたつの毛布をかけた。
何も話すことが出てこなくて、焦って周りを見渡した。見つけたのは、こたつの上に置いてあるみかんだけだ。
「み、みかん、食べる?」
「ああ、いい。もう食べたから。」
会話は続かない。焦って、焦って、焦って。もう話せなくなってしまって。
すると、父が口を開いた。
「お前が食べなさい。みかんは、お前たちに用意したものなんだ。」
わざわざ買ってきてくれたのか。私たちのために。そう思うと、すこし嬉しくなった。いつもは家にいない父も、ちゃんと私たちのことを気にしてくれているのだと分かったから。
がちゃっ。
ドアが音を立てて空いた。
「おはよー。」
母が目を覚ましてしまったらしい。うるさかっただろうか?
「起こしちゃった?」
「ううん。あ、みかん?私も食べるー。」
 父は明日には帰ってしまうらしい。けれど、それでも、3人で歳を越せることになって良かったと思っている。そのくらいは、一緒にいたいものだ。
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