第1話
文字数 1,194文字
ハルオが長い吟味の末に選び抜いた二本をレジに置いた時、彼の心臓は血の噴火をおこした。
カウンターの向こうにいたのはリョウコだった。はやる気持ちのあまり、片思いの相手に気づかないばかりか、アダルトビデオを渡すという変態行動をしてしまったのだ。
「何泊ですか?」
冷ややかにバーコードを読みながら、リョウコが問う。しかし激しい動揺で、ハルオは即答できなかった。ほんの少しの間が生まれ、顔をあげた彼女と目が合った。相手の目の中には明らかな驚きの色がある。バレた、と思った。
「ななはくで」
とっさに答えたが、元々は二泊の予定だった。余計に引っ込みがつかなくなり、身体中が熱くなってきた。
「会員証お願いします」
なおも冷淡に業務をこなすリョウコに、ふるえる手でカードを出し、見咎められないかとハルオはどぎまぎした。今日が彼の十八歳の誕生日だったのだ。
料金を払い、レシートを待つ間、何もかもが終わった気がしていた。そのまま顔も見れず振り返りもできず、ハルオは店を出た。叫び出したい衝動に駆られながら、自転車のペダルをがむしゃらに回した。違うんだ、と何度も心中で繰り返した。
十八歳になった正にその日に、アダルトビデオを借りるためだけにわざわざとなり町まで来て、これからお好みの二本を一週間かけて堪能しながら、性欲のまま右手の上下運動にふけるチンパンジー、とでも思われただろうか。
家に帰り、布団に潜り込むとハルオは身悶えした。知り合いを警戒して遠くの店を選ぶことが裏目だと、外出前の浮き足立つ自分に知らせてやりたかった。言い訳したいことが山ほどあった。
しかしもう遅い。過去はすべて事実なのだ。何も違わない。「美人トレーナーの彼女にどこでもシゴかれ性活vol.4」と「白衣の爆乳天使 〜秘密のナースコール〜」は確かに意中の娘に見られたのである。
こんな悲劇が生まれるなら、性欲など封印するべきだ。電気もつけず何時間も部屋に閉じこもる中で、ハルオはそう思った。
母親に呼ばれて晩飯を食べ、風呂に入って英気を養うと、いくらか気分がマシになってきた。そうして部屋に戻ってから、パッケージが視界に映ったが、下半身は何の反応も示さない。
まさか、ショックのあまり不能になってしまったのでは。
急に不安が襲い、ハルオは部屋に鍵をかけるなりDVDを再生した。ヘッドホンを耳に当て、そんなはずはと己の感覚を確かめた。
数時間後、ハルオは泣いていた。
二年の頃から抱いていた気持ちが、最悪の形で台無しになったのだ。あんな状況では軽蔑は必至。悲嘆に暮れるほかない。
それはそれとして。
彼の海綿体は素直だった。目の前で開けっぴろげに繰り広げられるまぐわいと、耳に響く甘い嬌声に、はちきれんばかりに膨張していた。不能などとは程遠かった。
ハルオは映像を切り、のたうち回った。この日ほど、自分が情けなく思えた夜はなかった。
カウンターの向こうにいたのはリョウコだった。はやる気持ちのあまり、片思いの相手に気づかないばかりか、アダルトビデオを渡すという変態行動をしてしまったのだ。
「何泊ですか?」
冷ややかにバーコードを読みながら、リョウコが問う。しかし激しい動揺で、ハルオは即答できなかった。ほんの少しの間が生まれ、顔をあげた彼女と目が合った。相手の目の中には明らかな驚きの色がある。バレた、と思った。
「ななはくで」
とっさに答えたが、元々は二泊の予定だった。余計に引っ込みがつかなくなり、身体中が熱くなってきた。
「会員証お願いします」
なおも冷淡に業務をこなすリョウコに、ふるえる手でカードを出し、見咎められないかとハルオはどぎまぎした。今日が彼の十八歳の誕生日だったのだ。
料金を払い、レシートを待つ間、何もかもが終わった気がしていた。そのまま顔も見れず振り返りもできず、ハルオは店を出た。叫び出したい衝動に駆られながら、自転車のペダルをがむしゃらに回した。違うんだ、と何度も心中で繰り返した。
十八歳になった正にその日に、アダルトビデオを借りるためだけにわざわざとなり町まで来て、これからお好みの二本を一週間かけて堪能しながら、性欲のまま右手の上下運動にふけるチンパンジー、とでも思われただろうか。
家に帰り、布団に潜り込むとハルオは身悶えした。知り合いを警戒して遠くの店を選ぶことが裏目だと、外出前の浮き足立つ自分に知らせてやりたかった。言い訳したいことが山ほどあった。
しかしもう遅い。過去はすべて事実なのだ。何も違わない。「美人トレーナーの彼女にどこでもシゴかれ性活vol.4」と「白衣の爆乳天使 〜秘密のナースコール〜」は確かに意中の娘に見られたのである。
こんな悲劇が生まれるなら、性欲など封印するべきだ。電気もつけず何時間も部屋に閉じこもる中で、ハルオはそう思った。
母親に呼ばれて晩飯を食べ、風呂に入って英気を養うと、いくらか気分がマシになってきた。そうして部屋に戻ってから、パッケージが視界に映ったが、下半身は何の反応も示さない。
まさか、ショックのあまり不能になってしまったのでは。
急に不安が襲い、ハルオは部屋に鍵をかけるなりDVDを再生した。ヘッドホンを耳に当て、そんなはずはと己の感覚を確かめた。
数時間後、ハルオは泣いていた。
二年の頃から抱いていた気持ちが、最悪の形で台無しになったのだ。あんな状況では軽蔑は必至。悲嘆に暮れるほかない。
それはそれとして。
彼の海綿体は素直だった。目の前で開けっぴろげに繰り広げられるまぐわいと、耳に響く甘い嬌声に、はちきれんばかりに膨張していた。不能などとは程遠かった。
ハルオは映像を切り、のたうち回った。この日ほど、自分が情けなく思えた夜はなかった。