第3話(4)

エピソード文字数 3,354文字

「水族館……。すいぞくかん……」

 現地民に間違えられたフュルは、間抜けに反芻してる。
 ん? アンタどしたん?

「…………。師匠」
「はいよ。なんですか?」
「すいぞくかん。そんなのあるがかえ?」
「……アナタねぇ。砂浜から見えてたでしょうが……」

 オメーがぜよぜよ言ってた場所からだと、七時の方向。そこに建物があるのが見えなかったのですか?

「なんとっ、そんなんがあったがやね! 完全なるミスぜよ……!」
「ホントあなたは、龍馬しか見えてないのな。ここはわたくしに任せなさい」

 俺は苦笑し、膝を曲げて男児くんに目線を合わせる。
 この現地民(偽)は駄目だ。ここからは、ゆーせー君がお相手をしましょう。

「暫く訪れてないけど、前に行った時は充分楽しめる内容だったよ。ヒトデとか一見地味だけどすっごく綺麗なのがいるし、イルカのショーもあるはずだから、入る価値はあると思うな」

 ぶっちゃけると、規模や展示数は有名なトコに及ばない。けれどソレらの差を、独特の温かい雰囲気や企画力などで見事に埋めている。あそこはスタッフさん方のやる気と客への想いが溢れている、とても素敵な場所なのだ、

「そーなんだ! おにーちゃんありがと!」
「どういたしまして。高知を楽しんでいってね」

 俺は笑顔で手を振り、ママさんファミリーとお別れ。ゆーせー君は無事に、観光案内の務めを終えた。

「にゅむっ、ゆーせー君親切さんだよー。やさしーねっ」
「レミア、こりゃ当たり前の行為だよ。誰だってこうするっての」

 と返し、視線を――「従兄くん、私に用なのね? なになになになになに?」――変人1号は無視。何もなかったことにして、予定通り視線をフュルに移す。

「沢山訪ねたい場所があるなら、そろそろ動いた方がいいね。次は、時間を結構費やすから」

 予定は聞いていないのだが――位置から推測するに、第三の目的地は近くにある坂本龍馬の記念館。その施設は龍馬さんに関する資料や刀などがあるので、龍馬ファンのこの子はじっくり鑑賞するに違いないのだ。

「さすが師匠っ、そこでは一時間くらい滞在したいと思ってたがよ! ゆうべ練りに練って、分刻みのスケジュールを組んじゅうがよね!」

 フュルはポケットから四つ折りにした紙を取り出し、自慢げに広げた。
 ほほぅ。そこまで細かくやってたのか。

「師匠、ご覧になってつかぁさい! 我ながら惚れ惚れする出来ながよ!」
「丁度、今後の予定を知りたいと思ってたんだ。どれどれっと……」


《午前九時~九時五分前後 桂浜到着。
 午前九時二十分~三十五分前後 坂本龍馬像到着。
 午前九時五十分~十時五分前後 記念館到着。  》


 ご覧になってみると、こんな文字が並んでいた。

「……フュルよ。これ、分刻みのスケジュール言わない」

 分まで書かれてはいるけど、大雑把。こいつは普通の予定だ。

「しかもアンタ。記念館の次の次に行くコレ、どうなってんのさ」
「次の次? そこは…………坂本先生が生まれた町にある、ジオラマとかがある博物館先生やね。師匠は、こっちの記念館先生は知らんが?」
「そちらもよく知ってるし、そもそもソレは次の予定だ。俺が指摘してる次の次は、『高知龍馬空港』だよ」

 高知市上町(こうちしかみまち)という場所にある、とってもタメになる高知市立の建物ではない。本来はここに降り立つはずだった、南国市(なんこくし)にある空港さんのことを言ってるんだ。

「ああっ、そっちやったがやね。ミスぜよミスぜよ」
「では目的地をちゃんと理解したところで、今一度質問します。次の次のコレ、どうなってんの?」
「師匠、移動距離が長いのは問題ないがぜよ。ワープすれば一瞬やき、どんな流れにしても構わんがよね」

 俺らはまずシズナが『遠見』で人の有無を確認し、二十四時間弱体化する魔法をかけたフュルの力で転移して移動する。よって仰る通り、生まれたまちの記念館から空港――車で一時間程度かかるエリアに移動しても、数秒しか消費しない。
 けど、だ。

「俺が言いたいのは、訪ねる場所の構成ではない。アンタ、なんで空港に行くの?」
「なんでって、『龍馬』が付いちゅうからよ。そこは、坂本先生に関係する施設ながやろ?」

 フュルは、目をパチクリさせる。
 ああもうっ。これだから、ネットの知識だけってのは怖いんだ!

「あのなっ、そこは普通のエアポートなのっ。名前がついてるだけであって、坂本龍馬に関する施設ではありません」
「そんなっっ!? 坂本先生が使ったとされる飛行機の椅子があるってのは、デマながかえ!?
「冷静になって考えてみろ。あの頃の日本に飛行機なんてねーよ」

 コイツ、どこのサイトで調べたんだ? 振り回されすぎだろ。

「わ、ワシ騙されたぜよっ! ほいたら、高知龍馬空港は除外やね……」
「待ってフュルさん! 私はそこで、従兄くんの祖父母さんにお土産を買うつもりなのよっ」

 横線を入れようとした右手を掴み、シズナは左右に首を振る。
 ははぁ。昨日『円』を貸してと言ってきたのは、このためだったのか。

「いやいや、そんな気を遣わなくていいよ。皆は、優星のガードマンとして来てくれてるんだから――ん?」

 従兄くんの『祖父母さん』にお土産を買う、だと? なぜ、『伯父の家族と祖父母に』ではないんだ?

「ねえシズナさんよ。どして2名限定なの?」

 どして、『全員に』じゃないのかな? とっても不安にゅむ。

「将来は私の祖父母さんになるのだから、最初が肝心でしょ。だからお二人に直接会ってお渡ししたくて、すでに購入する商品も決めているのよ」

 にゅむん、にゅむむん。ゆーせー君、不安てきちゅーにゅむー。

「私は敢えて、カマボコなど地元でよく食されるものを買うわ。そうすればそのお土産は即役に立ち、『気が利く人だね~』となるのだから!」
「……………………今出た台詞には看過できない点が大量にあるんだけど、まあそれはさて置きだ。シズナちゃん、そういうのは100%無理ですぞ」
「ど、どうして従兄くんっ? なぜなのっ?」
「爺ちゃん婆ちゃんは、現在お留守。母方の爺ちゃん婆ちゃんと一緒に、北海道に旅行中なんだよ」

 4人は小学生の時クラスメイトで、今でも仲良し。年に数回旅をしていて、この時期は5泊6日のツアー中であります(孫に会う気は一切なし。俺、ホントに孫……?)。

「そ、それならしょうがないわね……。好感度アップ大作戦は、またの機会にするわ」
「いや、面倒事に発展するから接触しないで。特に、母方の婆ちゃんにはね」

 いつか語りましたが、あの人は俺を曾孫製造機としか思っていない。そんなヤツに挨拶をしたら、目をつけられてしまうんだ(俺、ホントのホントに孫……?)。

「成程、母方の祖母さんに会えばいいのね。老舗のカマボコ――それに菓子折りを持って、後日訪ねましょうっ」
「もしやったら蹴り飛ばすからな!? ヒトが嫌がる事はするなと教わらなかったのか!!
「ひぁんっ! 高知で、初、興奮……!」

 シズナは、公衆の面前でビクンビクンする。
 や、やられた……っ。これは罠だったのか。


『お、おい、あの大和撫子っぽい人……。狂ってるぞ……』
『正君、見ちゃ駄目よ。汚染されちゃうわ……!』


 痴女を目の当たりにした観光客様達が、それはもう震え上がっている。
 ごめんなさいね、皆様。すぐに、このバカを視界から消します。ですので高知を嫌いにならないでください。高知県には『まじめ』なビスケットや黄色いパッケージの乳酸菌飲料など、すんばらしいモノが沢山ありますからっ。

「いとこ、くん……っっ。格別、よ……!」
「ああもうっ! レミアフュル、人気がないトコまで走るよっっ! そんでもって記念館までワープだっっっ!」
「にゅむっ。ラジャーだよーっ」
「ワシも合点承知ぜよ! シズナ先生、こっちやき!」

 俺達はビクンビクン女を引っ張り、人ごみから離れて転移。その後アホ女の興奮が収まるまで待ち、観光ツアーを再開したのだった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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